[4]医事紛争対策部

 人間は「過ちを犯す存在」であり、医療においても、過ちが伴うのは宿命とも言える。したがって、医療事故防止や医事紛争の対策は、甘受せざるを得ないこの宿命を根底にして構築されなければ、実際に役立つ本当の意味の対策とは成り得ないものと考えられる。

 厚生労働省は、「健康日本21」を推進する上で「健やか親子21」をその一翼を担うものとし、その中で「妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保」を柱の一つとして上げている。当部としては「安全こそ快適性の根元」と考え、「患者の安全のため」を目標に、不幸な結果を少しでも減らすことを最も基本的な医療事故対策(リスクマネージメント)と位置づける。

 一方、最近の医事紛争における特徴としては、患者の権利意識の高揚、司法制度の変革(裁判の迅速化、弁護士の増員など)が上げられる。正しい医療が訴追を受けないよう対策を練る必要がある。

 以上のような考え方を基本として、各支部や関連各部をはじめ、日本医師会、日本産科婦人科学会などとの密接なる連携のもとに、以下の事業を遂行する。

1.医療事故防止対策

(1)「インシデント・アクシデント/レポート」調査の集計・分析
 医療事故は、システム上や人為的な小さなミスやトラブルが複合的に絡み合い、連鎖して発生するので、この連鎖を断ち切ることにより、事故を防止できると考えられる。そこで、各支部の協力を得て産婦人科診療における「インシデント・アクシデント/レポート」調査を開始(調査期間:平成14年2月〜4月)した。本年度はこのレポートを収集し集計・分析を行う。
 医療事故防止のためのマニュアル作成を最終的な目標としているため、後述の「小冊子」や「連絡会」などにおけるテーマとしても、集計・分析から得られた成果を活かした事業展開をはかり、本年度はマニュアル作成に向けての環境整備に努める。
(2)小冊子「これからの産婦人科医療事故防止のために」の作成
 医療事故予防の観点から平成9年度より発行している小冊子は、その性質上、具体的な問題に焦点をあてやすい。本年度は「インシデント・アクシデント/レポート」の調査結果から浮かび上がった問題に準拠した対処マニュアルを作成する。
(3)「第12回全国支部医事紛争対策担当者連絡会」の開催
 決して他人事ではない、いつ渦中の人となるかわからない身近な問題として医療事故・医事紛争を捉えて、会員にとって関心の深い重要な情報の伝達や協議の場として「全国支部医事紛争対策担当者連絡会」を2年毎に開催している。
 本年度は平成14年11月17日(日)京王プラザホテルにての開催予定とし、前述の調査・分析結果を中心に連絡・協議を行い、マニュアル作成に向けての理解と協力を図る。
(4)事例集「産婦人科医療事故防止のために(別冊)」の作成
 産婦人科関連における医療事故例の概要を事例集にまとめ、随時前述「連絡会」等に配付している。現在、既刊10冊(昭和58年版〜平成12年版)に1,462例を収載しているが、本年度は平成14年版を作成し、「連絡会」などへの配付を通じて、実例に基づいた医療事故防止策への資料とする。
(5)冊子「医事紛争シリーズ集」の発刊準備
 医報掲載の“医事紛争シリーズ”をまとめた冊子は、現在、既刊2冊(平成6年11月版、平成10年11月版)に掲載開始の昭和54年5月から平成10年9月までの228回分の記事が収載されている。記事の集積や医報自体の変遷(B5版縦書きからA4版横書き)などへの対応の関係から、次年度以降の発刊を目指して、本年度からその準備をはじめる。
(6)汎用されている「能書外使用」薬剤に関する検討
 平成11年度の「能書外処方の実態調査」以後、能書外でも実際には汎用されている薬剤を検討し、必要に応じて関連各部・学会などとの協議の上、要望書提出などを通じて、厚生労働省に追加適応を得るための働きかけを行っている。本年度も継続して行う。
(7)診療録開示に関する問題点の検討
 診療録開示に対する本会の見解作成や医事紛争対策に関する問題点などを、医療対策部と合同で検討していく他、診療録開示に伴う医事紛争関連の情報収集に努める。

2.医事紛争対策

(1)医事紛争事例の対応
 日本医師会担当者や法律関係者とのきめ細かい情報交換のもと、医学的・社会的な動向をも踏まえて“up-to-date”な情報の収集に努める。
 また、要請(支部・会員等)のあった事例については、当事者、担当者、必要によっては法律家をも交えて、医学的、法律的な見地から、解決への障害となっている事項や対策に関するブレーンストーミング的な検討を通じて、助言、支援をする。
(2)鑑定人推薦依頼に対する対応
 1. 日産婦学会との協力・協調
 支部や当事者、裁判所等からの鑑定人推薦依頼については、「鑑定人候補者リスト」等を活用して、可能な限り最も適格と思われる候補者を選定・推薦してきたが、平成13年7月13日に、最高裁判所内に「医事関係訴訟委員会」(各裁判所の鑑定人候補者選定要請をもとに、医学関連学会の中から最も相応しい学会を選び、鑑定人推薦を依頼する他、推薦された候補者の検討をも行うなどの役割を担っている)が設置された。このため、今後は日産婦学会との連携を密にして、協力・協調した対応を図る。
 2. 「鑑定人候補者リスト」の整備
 各支部の協力を得て作成している内部資料「鑑定人候補者リスト」を隔年毎の全面的な見直し(第1回は平成13年10月29日に実施)などを通じての整備を継続し、産婦人科関連の鑑定人推薦依頼への円滑なる対応を図る。
(3)結審事例の検討
 産婦人科関連の判決について、最新のデータによる分析、検討、集積を図る一環として、平成7年度より導入している判例体系CD-ROM(第一法規出版編)の更新(平成14年度版)を継続して行い、過去の判例情報を必要とする会員等からの依頼にも、同CD-ROMを活用して対応する。
(4)産婦人科関連医薬品使用上の注意に関するパンフレット作成
 PL法やインターネットの活用などを背景に、改定が相次いでいる添付文書の「使用上の注意」を、産婦人科で頻用する薬剤に限り追録形式のパンフレットにして会員に配布している。本年度も必要に応じて作成し、対応する。
(5)支部月例報告
 支部月例報告(各支部から本部への月間定期報告)の中から医事紛争に関する事例を集積すると共に、報告例より医事紛争の実情把握に努める。

3.委員会

 以上の事業を円滑に遂行するため、医事紛争対策委員会を存置する。