[9]女性保健部

A.母子保健

「21世紀は母性の時代」という認識のもとに、母子保健では、厚生労働行政施策を見つめながら、以下の事業を推進したい。
1.「健やか親子21」と「プレネイタルビジット」事業の推進に関して 
2.厚生労働省からの委託事業「小規模事業所の母性健康管理に関する相談事業」に関する企画・立案を行う。
3.妊産婦健康診査について 
(1)地方交付税交付金の中の妊産婦健診費の取り扱いに関して
(2)妊産婦健診時のC型肝炎・HIV・クラミジア検査の義務化について
4.総合周産期母子医療センターまたは地域周産期母子医療センターについて
(1)総合周産期特定集中治療室管理の施設基準の見直し。
(2)(セミ)オープンシステム実施に向けて
  地域周産期母子医療センターの現状調査、(セミ)オープンシステム実施検討委員会の設置ならびにアンケート結果の分析と実施時の有用性の検討。
(3)総合周産期母子医療センター設置の推進。
5.周産期母子感染症について
(1)HIV、C型肝炎などの母子感染症について引き続き検討を加える。
(2)各地域でのスクリーニングの実態調査や母児感染防止などの検討。
6.新生児聴覚スクリーニング検査の取り扱いに関して
7.助産婦、自宅分娩に関する問題点の検討
 実態把握に関するアンケート調査実施の検討。
8.厚生行政および関連団体との協力ならびに情報交換
 母子保健推進のために、厚生労働省、日本医師会、日本産科婦人科学会等との協力、支援、情報交換を行う。
9.委員会
以上の事業を円滑に遂行するために母子保健委員会を存置する。
 

B.先天異常

1.外表奇形等調査・分析の継続
(1) 1972年より開始した「全国外表奇形等調査」を日母おぎゃー献金基金からの援助を得て継続している。毎年、わが国の奇形発生状況の把握および分析を四半期毎に行う。
 調査対象機関の出生児数は本邦の全体の出生数の約1割をカバーすることを目標にしてきた。しかし、分娩数の減少に伴い、目標の出生児を到達できなくなった。そのため、本年度からは調査対象医療機関を従来の277医療機関より331機関に増やし、対象出生児数を本来目指した数とする。
(2)平成12年の調査結果を横浜市大モニタリングセンターでまとめ、統計学的、疫学的な分析を加え、「平成12年度外表奇形等統計調査結果」を日母で作成し、協力機関等に配布する。
2.ICBDMS国際センター日本支部を通じてICBDMSの事業に協力する。
3.胎児異常診断調査の継続
 昭和60年度以降胎児異常診断のアンケート調査を継続し、診断技術の進歩しつつある現在における胎児異常診断の現況を把握し、検討する。
4.環境汚染物質(ダイオキシン、PCBなど)の影響で発生すると考えられる特定の奇形の地域分布、増減の分析を行う。
5.先天異常の発生因子および予防に関する内外情報の収集と検討
 引き続き、内外より最新研究状況を収集検討する。
6.先天性代謝異常疾患で治療により正常に発育した女性の妊娠・分娩時におこす合併症および治療に関する文献的考察を行う。
7.全国における妊婦感染症検査の実態調査
 妊婦に対する感染症検査の実態調査を、平成12年度に行った。その結果、風疹抗体価は平成6年度からの予防接種法の改正以来、風疹の抵抗力を持つ女性が減少している可能性が危惧される結果であった。この結果は、先天異常委員会委員の病院を対象に1430名の妊婦を対象として行われ、本邦の実態を統計的に処理するには少なすぎた。そこで、本年度は「全国外表奇形等調査」の対象医療機関に依頼して本格的な全国調査を展開し、19歳以下の若年妊婦が先天風疹症候群の児を出産するハイリスク群であるかどうかを検討する。同時に、トキソプラズマ、サイトメガロウイルスなどについても調査を拡大する。
8.神経管閉鎖障害の発症予防として葉酸摂取の重要性の啓発
 二分脊椎症児の予防には妊娠前からの葉酸摂取が効果を有することが、全世界的に認められている。さらに、葉酸の過剰摂取の胎児、妊婦に対して悪影響を与えるものではないことが知られている。厚生省も日母女性保健部・先天異常の意見を入れ、平成12年10月「先天異常の発生リスクの低減に関する検討会」を設置し、4回の検討会を開催し報告書をまとめ、それに基づき12月28日付で母子保健課長、地域保健・健康増進栄養課生活習慣病対策室長名で「神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係わる適切な情報提供の推進について」と題する通達を関係諸団体ならびに各都道府県、政令市、特別区、母子保健主管、栄養主管部(局)長宛に発送した。そこで本年度は、日母医報や日母のホームページを用いて、先進各国のように妊婦の葉酸摂取の重要性を啓発していく。また、外表奇形等調査用紙に葉酸摂取の有無の項目を入れ、普及の状態およびその効果について調査をすすめて行く。
9.先天性代謝異常検査事業の継続について
 先天性代謝異常検査等の事業は、昭和52年より国の補助事業として実施され多大の成果をあげてきたが、平成13年4月からは、国からの援助がなくなり一般財源の形で各都道府県又は指定都市に支給されることになった。
 日母ならびに日本マス・スクリーニング学会他関連7団体の理事長、会長名で昨年12月、厚生大臣、次官、局長、課長宛に、本事業の各都道府県における事業継続に関する要望を提出した。
 今後とも、各都道府県の動向を見守りながら事業継続を行うように働きかける。
10.厚生行政および関連団体との協力ならびに情報交換
 母子保健推進のために、厚生労働省、日本医師会、日本産科婦人科学会、全国保健センター連合会、日本マス・スクリ−ニング学会、日本先天異常学会との協力、支援、情報交換等を積極的に行う。
11.委員会
 以上の事業を円滑に遂行するために 先天異常委員会を存置する。

 

C.がん対策

 婦人科がん検診を取り巻く状況は依然として厳しいものがあるが、昨年度開催の全国支部がん対策担当者連絡会での報告によると、婦人科がん検診全般では過年度とほぼ同等の実施状況であり、一部の地域では実施方式に独自性が出せるようになったとして、卵巣がん検診に経腟超音波断層診断装置を導入しようと模索しはじめているところもあった。いずれも日母各支部および関係各位の努力によるものである。

 婦人科がん検診事業のうち特に乳がん検診については、平成12年3月の厚生省通達で、マンモグラフィー併用検診が明記され、これを推進してゆくことは不可欠となった。

 日母がん対策では平成11年度よりこの対策として「乳がん検診用マンモグラム読影に関する研修会」を合計4回開催し、日母会員のマンモグラム読影力向上に努めてきたが、さらにこれを強化すべく研修会の開催方式を改善してゆく必要がある。

 これらの諸情勢を踏まえ、以下の項目について、本年度のがん対策事業を遂行する。

1.全国支部がん対策担当者連絡会の開催
 婦人科がん検診・治療における諸問題に関する連絡・協議や、厚生労働省をはじめ関連諸団体担当者の肉声による生の情報を収集する場として、引き続き全国支部がん対策担当者連絡会を開催する。
 会員への有用な情報伝達を主眼に、関連諸団体とも連携して、学術的動向や婦人科がん検診を取り巻く状況への対応を図る。
 また、例年の事前調査を通じて、各支部担当者より情報(全国的な検診の動向、自治体や医師会における検診の方向性や受診状況、各支部での検診事業への対応策等)を提供して頂き、婦人科がん検診事業の活性化を図るための参考資料として供する。
2.婦人科がん検診の検討
 現状をふまえた社会的ニーズへの貢献を念頭に、進展する医学・技術への対応と、それらがもたらす婦人科がん検診(子宮がん・乳がん・卵巣がん)の有効性評価に関して、小委員会形式などで効率的な検討を図る。
 (1)子宮がん検診
・検診への社会的啓発(検診の有効性・勧誘策などのPR方策)。
・検診機会の拡大(新規受診者の掘り起こしなど)。
 (2)乳がん検診
・子宮がんとの同時検診の推進
 後述の関連諸団体に職責委員を派遣して、情報入手と会員の益となるような検診方式の構築に努める。
・MMG導入に関する検討
 会員のニーズにあったMMG導入の環境整備を検討する。
・「マンモグラム読影に関する研修会」の開催・支援
 会員の資質向上と精度管理体制の強化を図る一環として“マンモグラフィ検診精度管理中央委員会”との共催による各支部での「マンモグラム読影に関する研修会」開催を支援する。
 また、同委員会との密接な連携のもとに、各支部での開催状況などをも考慮しつつ、昨年に引き続いて本部共催でも開催する。
・乳房疾患全般に関する知識向上のための研修会開催を検討する。
 (3)卵巣がん検診
 自治体独自による卵巣がん検診の導入も視野に入れて、卵巣がん検診の有効性に関する検討も加味しての事前検討を継続する。
3.調査事業
 (1)「婦人科がん検診料金に関する調査」
 検診の状況や料金などの全国的な傾向を把握するため、例年、本調査結果を前述「連絡会」に参考資料として配付している。
 本年度は、4年目の一般財源化のもとで、より特色を活かした婦人科検診事業が模索されている地域的な現状から、ある地域の突出したデータが、全国的な傾向把握の妨げとならないよう都道府県庁所在地(定点方式)を対象にして行う事も検討する。
 (2)基礎的なデータの収集
 婦人科がん検診事業の検討に資するため、適宜、基礎的なデータの収集に関する調査を行う。
 調査に際しては、前述“料金調査”が活用(項目追加)できるか、または新たな調査方策が必要なのかの検討も併せて行い、対応を図る。
・子宮がん検診
 頚がん検診における日母方式や体がん検診における現行方式の有効性に関するデータ。
・乳がん検診
 「MMG研修会」の受講者が得た読影力の経時的変化に関するデータ。
・卵巣がん検診
 卵巣がん発見の有効な検診方策に関するデータ。
4.関連諸団体との連絡提携
 行政当局をはじめ、日本医師会、日本産科婦人科学会など、婦人科がん検診に関わる諸団体との連絡協議・提携や職責委員の派遣、関連学会への発表等を通じて、本会意見の反映と会員への有用な情報収集に努める。
 また、行政担当者(婦人科がん検診事業所管課等)との間で適宜開催している「婦人科がん検診問題に関する研究会」の場も活用し、厚生労働省の“健やか親子21”などとの関連も含め、密接なる連携のもとに遺漏なき事業運営に資する。
5.委員会
 以上の事業を円滑に遂行するため、がん対策委員会を存置する。

 

D.予防医学・介護

 産婦人科医は女性の一生をみつめ、その間に起きる種々の疾患に対して医学的に適切な援助をするのみならず疾病を予防する、いわゆる女性保健の一翼を担う専門医であると言える。そこで、女性の生涯医療という観点から、女性の各ライフステージに特有な問題について、そのいくつかを選び情報を収集し検討を加える。各項目に関してはそれぞれを担当する小委員会で検討を加え、さらに全体委員会でとりまとめ、そして他の部と協力して会員への支援を主眼とした事業展開を図る。さらに検討結果をもとに、患者あるいは社会に積極的に働きかけることができるよう資料の充実を図る。
1.思春期保健
 (1)性教育指導セミナーの開催協力
 性教育指導セミナー開催にあたっては担当支部と密接な連絡をとり、演題や演者の選定、さらにセミナーへの参加促進等協力する。
 (2)性教育指導セミナーのあり方の検討
 支部担当の性教育指導セミナーはその役割を十分果たしてきた。しかしながら、性教育指導セミナーをさらに有効に実施するために、本セミナーのあり方を順次検討していく。
 (3)学校医・学校協力医へのアプローチの推進
 思春期男女の家庭における性教育はもとより学校における性教育も重要である。「健やか親子21」においても産婦人科医がその専門職として青少年の性教育に参画することが期待されている。したがって、産婦人科医が学校医あるいは学校協力医として果たす役割は大きいことは明らかである。そのために、従来より産婦人科医が学校医あるいは学校協力医として参加できるよう働きかけを行ってきたが、今後も関係当局に働きかけを継続して行う。
 (4)性教育実態調査
 学校における性教育は重要であり、産婦人科医が参画することが望ましいし、「健やか親子21」においても産婦人科医が参画することが期待されている。しかしながらすでに現在学校等において性教育に参加している支部あるいは産婦人科医もいる。そこで平成8年に行った各支部における性教育実態調査を再度行い、最近の実態を明らかにする。そして各支部に情報を提供し、支部での活動の参考に供する。
 (5)性教育講演用資料の活用
 平成12年度に作成し各支部に送付した性教育指導用スライドおよび冊子のさらなる活用法を検討する。
 (6)思春期の諸問題の検討
 若年女性の妊娠や心身の発達に関わる諸問題に関して幅広く検討し、会員の理解を深めるよう援助する。
2.成熟期
 
(1)低用量OC
 低用量OCの普及率は予想を下回っている。そこで、当医会が監修したホームページの活用を促すと共に、会員が診療の場で実際に使用し得るような小冊子を作成する。
 (2)不妊
 「健やか親子21」において不妊への支援がうたわれており、不妊治療に関する相談体制および医療提供体制を整備することが言われている。そこで従来同様不妊相談センターの開設動向を把握する。
 さらに、不妊治療を受ける際に患者が必要とする知識を小冊子にまとめ、会員を通じ配布することにより医療の適性化を図る。また内外の生殖医療に関する動向を調査し随時会員に情報を伝える。同時に患者の知りたがっている事項等をも会員に伝え、会員が不妊症診療においてprimary consultationを行えるよう支援する。
 (3)STD
 HIVを初めとするSTDの日本における現状を把握し、かつSTDに関する内外の最新情報を収集して、随時会員に情報を伝達する。そして低用量OCを処方する際などでの助けとする。
3.更年期
 (1)小冊子活用のすすめ
 「快適で健康な中高年のために−骨粗鬆症に気をつけて−」および「ホルモン補充療法のすすめ」をすでに発刊したが、これらのさらなる活用法を検討する。
 (2)中高年女性のヘルスケアーマニュアル
 会員が積極的にHRTに取り組むよう促すため、会員が日常の診療の際に手元に置き実際に活用できるような簡単なマニュアルを作成することにより、会員の日常診療の助けとする。このようなマニュアルを平成14年度あるいはそれ以降に作成するための準備をする。
4.老年期(介護に関する活動)
 現在の介護保険制度に産婦人科医が直接関わることは難しい状況にある。しかし、介護施設に収容されている患者の多くが女性であり、女性特有の疾患を有している者も少なくない。そこで介護施設と関連を保ち、要介護女性の疾病の検査・治療との関わりを深める方策について検討する。同時に介護の動向について会員へ情報を提供し、会員が介護に関わる場合の参考に供する。
 さらに産婦人科医が現在介護にどの程度関わりをもっているかを支部を通して実態調査を行う。
 またファミリーサポートセンターに対して産婦人科医が何をできるか検討する。
5.ホルモン剤に関する一般社会への働きかけの検討
 ホルモン補充療法もまた低用量OCも、まだまだ一般に認知されているとは言い難い。そこでホルモン剤に対する社会一般の偏見を払拭するために、日母で何ができるかを今後も検討する。そのためには関連諸団体、製薬会社等と協同した社会的な啓発策について検討する。そしてポスターやビデオはもちろんインターネットホームページ、CO-ROM等最新のテクノロジーを含めた方法を有効に活用することも考慮する。
 さらに、関連セミナーやフォーラム等に協力し、情報の周知に努める。
6.関連諸団体との連絡提携
 厚生労働省その他関係諸団体との連絡協議を適宜行い、意見の交換、情報の収集に努める。
7.委員会
 上記の事業を円滑に遂行するために、予防医学・介護に関する委員会を存置する。