[4]医事紛争対策部

 どの歴史書を見ても紛争に関連した記述が大部分を占めている。国境、民族、宗教、思想等の異なる立場が対立を生み、紛争へと発展してきた。人類の歴史は、数多くの紛争と、その結果、もたらされた不幸な事態を積み重ねているといえる。この反省から、相互理解と尊重、中立的な第三者による調停機関の設置などによって、紛争を回避し、不幸な事態の発生を防止しようとする機運が芽生えたのが20世紀であると言えよう。

 一方、我々の担当する医事紛争においては、残念ながら目立った解決策が見い出されることのない20世紀であった。しかし、21世紀を迎えて、医事紛争対策として、新たなる可能性をリスクマネージメントに求めたいと考える。この中では診療を実施する上で、患者との相互信頼関係の確立も重要事項として強調していく。リスクマネージメントは、「人間は過ちを犯すものである」ことを前提とした事故防止対策であるが、最終的なキーワードは「患者の安全のため」である。このような考え方を基に、日本医師会をはじめ、各支部や関連各部との連携のもとに、以下に示す事故防止策と、医事紛争対策事業を遂行する。

1.医療事故防止対策
 
(1)インシデントレポートの収集、解析
 医療事故防止対策として産婦人科医療におけるリスクマネージメントの有効性を検討するため、各都道府県支部に依頼して、各支部毎にいくつかの診療所または産科病院においてインシデントレポートを収集し、解析する。この解析によって、医療事故防止のためのポイントを求め、医療事故対策の一助とし、最終的な目標は、医療事故防止のためのマニュアル作成とする。したがって、事業は次年度にかけて継続されるものと考える。
 (2)小冊子「これからの産婦人科医療事故防止のために」の作成
 「産婦人科医療事故防止のために(上巻)」の各論部分の改訂版として、また、経済性と速報性の観点から発行(平成9年から発刊)を継続する。
 リスクマネージメントの一つとして、本年度は「産婦人科外来診療におけるインフォームド・コンセント」のテーマのもとに、以下の小冊子を作成する。
 1 排卵誘発剤使用時のIC
 2 卵巣腫瘍のIC
 3 子宮内膜症のIC
 4 子宮がん検診時のIC
 (3)汎用されている「能書外使用」薬剤に関する検討
 平成11年度に行った「能書外処方の実態調査」から、能書外使用であっても実際には汎用されている薬剤を検討し、関連各部、関連学会などとの検討協議の上、厚生労働省に対し要望書等により薬剤の追加適応をえるための働きかけを行う。
 (4)診療録開示に関する問題点の検討
 診療録開示に伴う医事紛争につき情報を収集し、また、医療対策部と合同で、日母としての診療録開示に対する見解および、医事紛争対策を検討していく。
2.医事紛争対策
 (1)医事紛争事例の対応
 日本医師会における医事紛争対策担当者や法律関係者とのきめ細かい連絡を通じて、医療の動向や、患者の権利等の社会的な動向をも踏まえた“up-to-date”な情報の収集を図る。
 また、各支部ならびに会員からの要請のあった事例については、当事者、担当者、必要によっては法律家をも交えて、医学的、法律的な見地からのブレーンストーミング的な検討を行い、解決する上での障害となっている事項の検討や、その対策について助言、援助を行う。
 (2)鑑定人推薦依頼に対する対応
 平成11年度作成の「産婦人科領域における鑑定人候補者リスト」(各支部推薦)の活用と、候補者リストの整備を通じて、各支部ならびに当事者、および裁判所等からの鑑定人依頼に対し、当該事例に最も適当な候補者を鑑定人として推薦する。
 (3)「全国鑑定人リスト」の追加
 平成11年度に各都道府県支部より推薦された「全国鑑定人リスト」を、各支部に依頼し見直しを行い、改訂を行う。この作業は毎年実施し、常に最新のものを準備して、各支部に提供できるようにする。
 (4)結審事例の検討
 平成7年度に導入した判例体系CD-ROMを、平成13年度版に更新し、最近の産婦人科関連の判決について、詳細に分析、検討、集積を行う。同種の判例に関する情報を必要とする会員の依頼に対しても、過去の判例、法律関連文献等の抽出をもって対応していく。
 (5)産婦人科関連医薬品使用上の注意に関するパンフレット作成
 PL法施行に伴い変更が相次いでいる添付文書の「使用上の注意」を、産婦人科で頻用する薬剤に限りパンフレットにまとめ会員に配布している。今年度も必要があれば適宜作成し、対応することとする。
 (6)支部月例報告
 各支部より報告された月例報告の中から医事紛争に関する事例を集積すると共に、報告例より医事紛争の実態把握に努める。
3.委員会
 以上の事業を円滑に遂行するため、医事紛争対策委員会を存置する。