平成9年12月29日放送

日母組織の重要課題(本年を振り返って)

日母産婦人科医会副会長 高橋 克幸

 本年4月、選挙により再選された坂元正一会長のもとに、新しい日母執行部が発足しました。国家的な財政の逼迫による、医療費の抑制、医療構造改革という、厳しい医療環境のもとでのスタートですので、執行部も従来の型での事業の推進は、いろいろな点で難しくなってまいりました。

 振り返ってみますと、日母が創立されてから48年の歳月が流れております。この間、社会の発展、医療の進歩をふまえて、日母の組織、事業も年々拡大・充実し、そのactivityは国内外を問わず、非常に高い評価を受けるまでに成長致しました。平成9年3月までは、10年前に出来ました勤務医部を含め、13部1室という、組織構成のもとで事業が執り行なわれていたのです。事業予算にしても2億を越す膨大なものとなっております。

 しかし、会員の高齢化、会員数の伸び悩み、会員の医療収益の減少傾向などにより、日母本部への収入の増は今後期待できないことになりますと、日母は現在の方式で果たして運営を継続して行けるのか、真剣に検討せざるを得ませんし、日母組織、全体の見直しをする必要も生じてまいりました。

 そこで新執行部が第1に行ったのが、日母本部の機構改革でございます。既に述べましたように、これまで日母は13部1室で事業を行ってまいりましたが、従来の機構は縦割り組織の色彩が強く、横の連帯がうまくいかないきらいがありました。それで、各関連部間の連絡・協力をより一層効果的にし、今後の展望を見据えた組織にする目的で、従来の13部1室を7部2室としました。

 最も変わったのは、これまで独立した部として活動してきた、医療対策、勤務医、産科看護の各部がまとめられ、従来の社会保険部と共に、医療・医業対策部となったこと、そして、従来の母子保健対策、がん対策、先天異常対策などが統括され、地域保健医療部となったことです。そして、その大きな部の中で行われる委員会や事業の検討会には、関係する常務理事をはじめとする役員が全て出席し、活動できるようになりました。従来も、全ての役員には他の部の委員会などへの出席案内の通知はまいりましたので、出席できたのですが、部が違ったり担当でないと、気軽に出席できないのが実状のようです。例えば、がん対担当の常務理事、理事は地域保健医療部に属しますので今後は母子保健医療関係会議に担当者として出ることになります。

 長く続いた組織を変えるのですから組織機構替えは、常務理事の間で異論もありましたし、スタート当初違和感もございました。しかし、横の連帯・協調は従来より密になりましたし、事業予算の効率的配分も可能になりました。今後は、この新しい組織機構のもとでの運営が、当初期待したように効率よく行われるか否か、真価が問われるところですが始まって1年も経過しておりませんので、未だ評価はつけがたいと思います。但し、各担当は夫々努力して運営にあたっておりますので、現在のところ大きな蹉跌はでていません。

 新しい執行部が抱えている重要課題はいくつかあります。定款変更につきましては既に日医との話し合いも行い、現在は厚生省との折渉が行われておりますので、明年度の早いうちに認可されるものと期待しています。定款細則の一部変更も検討中です。法制検討委員会ではマスコミで話題になっている「減数手術」に対する日母見解も含めて、母体保護法施行規制の中の、直接我々に関係する事項の検討が行われておりますが、会としての結論を得るにはまだ時間がかかりそうです。

 医療保険制度の改革についての与党案がこの春発表されました。その骨子は(1)定額払い方式の拡大(2)薬価基準制度の全面廃止と参照価格制度の導入(3)新たに高齢者を対象とした高齢者保険の設立、の3点ですが、他の科と同様に(1)、(2)が私共の産婦人科医療に大きな関わりを持っております。定額医療は、原則として慢性疾患が対象となっておりますが、厚生省は急性疾患についても定額医療にした場合どのようなコストになるか基礎調査をする計画で、既に具体的なプランニングができております。この問題は産婦人科だけの問題でなく、日医が窓口になって対処する問題ですが、産婦人科は他科に比して救急性の高い医療を行うことが多いので、簡単に定額支払いの疾患を決められ、設定されてはかないません。9月27日の日母理事会で某理事よりこの間題について発議がありましたが、今後対策を練り準備しておく必要があります。

 平成9年度日母予算案は、会長の強い意向もあり、事業予算の削減と効率化を、予算編成の際の全体の方針としました。しかし、これは誤解されると困るのですが、質を下げずに重点主義に徹し、本部・支部間の機能分担をより一層明確にして、事業を推進していくということです。

 次ぎは、会費格差の問題です。平成3年の第40回定例代議員会に於て「会員種別検討委員会」の答申に基づき、5〜6年以内に会費格差の解消を図ることが了承されました。平成8年にAB会費を同額にする予定でございましたが、日本産婦人科学会の会費値上げのからみで、実施が延期されたままになり、結局平成10年に実施することになっております。この問題をどう処理するか、これから解決しなければならない重要課題の一つであります。

 今年も低用量経口避妊薬、いわゆるピルの認可をめぐり日母会員は振り回された感がございます。しかしながら、日本産婦人科学会や日母など6団体の強い要望で、中央薬事審議会も議論しており認可のムードが昂ってきております。他科の医師もピルを処方することが当然考えられますので、私共はピル承認後に備え、ガイドラインの策定、会員への指導を行っております。ピル承認後は日母会員がリーダーシップをとって対応していくことが必要であります。

 医事紛争対策、医療対策などは、会員が安定して医療を行いうるよう、会員の要望にそって運営しております。これは患者の為でもあり又、会員の増益につながることですので会員には、その都度情報の提供を行ってまいりました。学術研修は、年度内に各年度の研修テーマを消化できるよう、委員会が精力的に研修ノートを作成して、配布しております。会員各位におかれましても、優れたup to dateの研修ノートを利用して、医療の質の向上を図って頂きたいと強く望むものであります。

 既にご承知のことと思いますが、厚生省は次年度予算から母子保健事業の大部分を一般財源化し、市町村に委ねる計画であります。そうしますと自治体によっては、母子保健事業に使用しないところも出てきかねません。しかしながら、乳幼児健康診査費をはじめ、小児科関係の運営費は、国の直轄予算で行うよう計上されておるようですので会員の中には一部不満も出ておるようですが、日母執行部は関係官庁に十分折衝し対応しており、既に通達も出ています。次年度は、母子保健事業は施行の上で確かに不利な条件におかれることになりますので、各支部では医師会を通じ、厳重にチェックする必要があります、今後、更に厚生省とも接衡しなければならない問題の一つとも考えております。

 日母執行部では、本年もいろいろな重要課題を処理してまいりましたが、今後に残された課題も少なからずあります。担当役員すべて、社会のため、会員のために公に奉仕する心で事業の遂行にあたっておりますので、会員各位におかれましても、今後ともよろしくご理解、ご協力をお願い致します。

 多事多難だった1997年も、残すところ僅かとなりました。来年も厳しい年になることが予想されていますが、21世紀に向けて少しでも明るい光を見つけたいものです。皆様にはご健勝で良いお年を迎えられますよう心からお祈り申し上げます。