平成9年11月24日放送

産科看護学院基準及び基準細則の改正について

日母産婦人科医会常務理事 佐々木 繁

 平成10年4月より産科看護学院基準及び基準細則が改正されますが、改正に至る背景並びに経緯につきましては、日母医報9年3月号付録の「産科看護学院だより」の巻頭に書かせて頂きましたが、改めて説明申し上げます。

 さて、平成8年6月に厚生省「准看護婦問題調査検討会」の准看養成実態調査結果が発表されましたが、その中で看護無資格者である一部の准看生徒の医療行為が明るみにでて、世の批判を浴びました。さらに12月には東京都において法的資格をもたない「副看護婦」の看護業務は保健婦助産婦看護婦法違反であり、業務適正化等を求めた要請書が日本医療労働組合連合会より都医師会及び東京都に提出され、都医師会は各医療機関に「副看護婦」の就業適正化と就業実態調査を行なっております。日母では早速12月10日に、支部長及び産科看護学院長宛てに「看護無資格者である聴講生は、在学中並びに卒業後も浣腸、注射、分娩介助等の医療行為は保助看法違反であリ、絶対に行なわないよう」との通達を出しております。

 一方、産科看護学院に対しましても、聴講生の医療行為や、産科看護婦、産科准看護婦が分娩介助等の助産行為を行なっているのではないかとの疑問の声が、一部の国会議員や日母会員の中からも聞かれるようになり、厚生省看護課からは平成9年1月28日産科看護学院の実態について説明を求められました。またこの際、これまでの産科看護学院の資格別卒業生数、現在働いている学院卒業者数及び看護職無資格者である産科看護助手の業務内容について調査するよう要請されました。

 これに対し、前述の通達や平成3年2月8日の日母より各学院長宛通達、さらに昭和60年第21回全国産科看護学院連絡協議会での配付資料「助産行為と日母産科看護婦の業務範囲、回答メモ」を示し、助産婦のいない場合は助産はすべて医師が取り扱っている旨回答致しました。確認の意味でメモを読みますと、「助産と呼ばれる行為は分娩の介助と付随する世話をいい、医師又は助産婦以外は分娩の介助をしてはならない。医師の立合い、監督、指導のもとでも助産婦以外の者の分娩介助は認められない。但し、緊急回避のための臨時応急の場合の処置、行為はこの限りではない。(注:ここでいう分娩介助とは会陰保護等を行う頃、即ち児娩出の時期の行為と考える。)産科看護婦養成の目的は産科業務に従事する産科要員について、分娩、妊・産・褥婦管理、新生児管理を含めて産科の特殊専門分野について看護の向上を期し、医師、助産婦のよき補助者となって、業務に尊心するよう求めるものである。従って、分娩時の産科看護婦の業務とは医師又は助産婦の指示をうけて、その補助業務を行うものである。」とあります。

 ご参考までにご紹介致しますと、日本医事新報No.3159号(昭和59年11月10日)質疑応答欄で次のような記載がございます。「問」として最近、助産婦の不足をカバーするために、ある教育を受けた看護婦が医師立合のもとで分娩介助ができる制度があると聞くが事実か。これに対する「答」としてお問い合わせの分娩介助は、保健婦助産婦看護婦法第3条(第3条は助産婦の定義であり、この法律において、「助産婦」とは、厚生大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じょく婦若しくは新生児の保健指導をなすことを業とする女子をいうとの条文であります。)に規定する助産に該当し、助産婦または医師以外の者が行うことは禁じられている。したがって、お問い合わせの制度は法的に存在が許されるものではなく、もしこのような行為が行われているならば、保健婦助産婦看護婦法第43条により1万円以下の罰金か1年以下の懲役に処されることになるとなっております。

 なお、同法第38条に異常妊産婦等の処置禁止項目があり、助産婦は、妊婦、産婦、じよく婦、胎児又は新生児に異常があると認めたときは、医師の診療を請わしめることを要し、自らこれらの者に対して処置をしてはならない。但し、臨時応急の手当は、この限りではないとあり、ご留意頂きたいと思います。

 日母では日母医報9年2月号で「産科看護部よりのお知らせ」として、助産業務は医師・助産婦に許された医療行為であり、産科看護婦、産科准看護婦の助産行為および看護職無資格者の医療行為は保助看法違反であり、絶対に行わないようお願い致しますとの通達を載せております。厚生省から要請のあった実態調査につきましては、現在学院を設置しております36都道府県支部に調査をお願い致しました。まず卒業者数は昭和38年より平成8年までに合計22,781名(この内、産科看護助手は1,992名)であり、産科看護助手から看護婦あるいは准看護婦の資格をとりまして「産科看護婦」となった人が110名、産科准看護婦となった人が73名おられます。現在就業者数は産科看護婦3,597名、産科准看護婦3,578名、産科看護助手750名であります。

「産科看護助手に医療行為をさせているか」との質問には「させていない」が35支部「かつてさせたことがあるが現在はさせていない」が1支部、「させている」はありませんでした。また、「産科看護助手の業務内容」としてはベッドメイキング、器具洗浄、受付、会計、沐浴介助、外来補助、清掃等でした。「産科看護婦、産科准看護婦に助産行為をさせているか」との質問には「させていない」が26支部、「かつてさせたことがあるが現在はさせていない」が10支部、「させている」はありませんでした。

これらの資料をもって2月25日厚生省看護課を訪れ、詳細に説明を行いました結果、ご理解を頂きました。

日母と致しましては1)法律違反は絶対に避けなければならない、2)先輩の先生方が大変努力してこられた産科看護学院の灯を消してはいけないと思います。このような状況を勘案し、産科看護学院基準及び基準細則を「産科看護委員会」並びに平成8年度第5回理事会、第46回定例代議員会の承認を得て改正致しました。改正の要点は、1)産科看護学院は助産婦養成施設ではなく、産婦人科看護要員が学習し、研修する施設である事を明確にするために「日母産婦人科看護研修学院」とする(但し原則とし、強要はしない)。2)無資格者の医療行為の疑惑を受けぬために、入学資格者は看護婦、保健婦、助産婦、准看護婦とする。3)1年間の猶予期間をおき、平成10年4月より施行する。4)すでに産科看護助手の資格を有する者で、その後准看護婦、看護婦の資格を取得した場合は、産科准看護婦、産科看護婦の資格を取得することが出来る。分娩数の減少とそれに伴う産科取り扱い施設の減少等、産科看護学院を取リ巻く環境の厳しさに加え、聴講生制度がなくなることは、経営上少なからぬ影響を蒙る学院もあろうかと存じますが、事情ご賢察の上、よろしくご協力の程、お願い申し上げます。

 最後に、平成8年度、9年度の事業計画に従い、作業を進めてまいりました「ナースのための産科学」の全面改定によります第12版は、予定どおリ10年4月からご利用頂けることになりましたので、お知らせ致します。