平成9年10月27日放送

日母産婦人科大会より-陣痛促進剤について考える

日母産婦人科医会常務理事 市川 尚

 平成2年に日母で研修メモ「陣痛誘発・促進」の小冊子を発行し、当時陣痛促進剤に関与する医療事故が増加していることへの防止対策を打ち出して以降、平成4年の添付文書の改訂、「陣痛促進剤による被害者の会」の動きや、マスコミを中心とした報道等に対応して、その都度会員の皆様にこの薬剤の適正使用をお願いしてきました。

 陣痛促進剤は私達臨床産婦人科医にとっては極めて大切な薬剤であり、これ等の出現により、分娩を適切にコントロールすることにより、周産期医学は格段と進歩し、周産期母子保健指標は先進国の中でも優れたものになりました。とくに周産期死亡率、妊産婦死亡率は著明に減少したことはいうまでもありません。

 しかし一方、陣痛促進剤の使用によると考えられる医療事故もあることは間違いはないのです。

 厚生省平成8年心身障害研究の妊産婦死亡の原因究明に関する研究班(武田主任研究者)の報告によりますと、平成3年〜4年の妊産婦死亡197例のうち子宮外妊娠10名を除外した187例中に陣痛促進剤使用している49例があり、その分析をみてみると非医学的適応に使われているものが50%位あります。そしてその使用方法のなかにオキシトシン、PGの混注例11例、PGの膣内投与2例、オキシトシンの分割筋注2例等適当な投与方法とは言えないものが加わっています。死亡原因の中で非使用群と比べ有意に多いものは分娩時出血性ショックと羊水塞栓、肺血栓症等です。

 出血性ショックの原因のうちでは子宮破裂頸管裂傷、弛緩出血等が非使用群に比べて多いことが分ります。これ等は過強陣痛に伴うものと言えるでしょう。これ等の事故は防げないものであろうか。又適正な使用方法、適応を適正にすれば防止が可能かを考えてみたい。

 1988年より1992年の5年間に東京都母性医療ネットワークに参加している大学病院、都立、日赤の産院等18施設の発表をみてみます。全分娩数のうち37週以降の47,228例についてみますと分娩の誘発は14%、帝王切開10%であり、誘発の適応は40週迄は前期破水、40週以降の誘発が多いことが分ります。

 誘発分娩と自然陣発による分娩とで比較してもアプガースコア等には差が無く胎児仮死新生児仮死発生率にも差が無いのです。分娩時出血量、弛緩出血頻度、子宮破裂にも差が無いのです。吸・鉗子分娩数、帝王切開率は若干誘発群に高いが有意の差ではありません適正な分娩管理のもとでは副作用発生に差が無いことが分りました。

 そこで会員の陣痛促進剤の使用に関してアンケート調査を行い実態を調べました。

 平成2年に旭川で行われた日母大会で、日大佐藤和雄教授が「陣痛促進剤の功罪」と題して講演をされた時に当時の日母定点モニターの施設にアンケート調査をしたので、今回も平成9年2月に第8次日母定点モニターの施設985施設に御協力をいただきました。

 回収率は7割近くの施設より回答をいただきました。それによると陣痛誘発の適応では母体側の原因では、前期破水、妊娠中毒症等が多く、胎児側要因では過期妊娠、胎盤機能不全、子宮内胎児死亡の時の誘発が多いことが分かります。

 社会的適応で誘発を行う施設も40%位ありますがその多くは妊婦の交通事情、医療側の管理体制からのものが多いようです。

 使用している薬剤はオキシトシンが6割以上の施設4割強がプロスタルモンFであり4割位の施設がプロスタルモンEも使用されていることが分りました。頸管成熟度は70%位の先生がビショップスコアを参考にして判定されていました。誘発分娩には80%以上の先生方が安全と感じていられるが約9%位の会員が何等かの事故に遭遇されていることが分りました。

 もちろんその内の52%は因果関係はないと考えられておられるようでありますが、その事故例をみると子宮破裂、出血性ショック、重症な新生児仮死が多いことも分りました。

 使用時の分娩監視装置の使用でありますが、公的病院の96%を含め診療所も90%の先生方が使用されており十分普及したことが分かりました。

 しかし内測法はまだ8割以上が用いていません。

 インフユージョンポンプは施設の差がでました。公的病院90%私的病院80%診療所65%位に使用されていますが、まだ普及度は十分でありません。

 使用にあたっての説明と同意は重要なことでありますが、インフォームドコンセントの問いに対しては、ほぼ95%位の施設でとっているようで安心しましたが大部分は口答のようです。

 口答のときはカルテに口答でとったことを記載しておくことが重要です。

 用法・用量については添付文書の記載内容にほぼ準じていただいていることが分りました。

 アンケートのもっと詳細な内容はべつの機会にしますが、モニター施設ではほぼ適正な使用をしてもらっていることが分ったことは安心しました。しかし昨年以来にも「被害者の会」はいまだ数ヶ月毎に新しい事例をもって厚生省を訪ね、まだ医療機関の使用が適正でないと訴えています。

 現在要求していることは1)既往帝切妊婦に使用することは禁忌にすること2)分娩監視装置の使用を義務化3)インフユージョンポンプの使用、を要望しています。

 現在の添付文書の文言を整理し上記の要望もふまえ新たな改訂をしたいことが厚生省医薬安全局より申入れが来ており現在交渉中であります。

 いずれにせよ陣痛促進剤使用にあたっては適応と要約を守り十分にインフォームドコンセントを行って使用することはもちろんですが大切なのは管理の仕方であると思います。

 分娩監視装置を使用することはもちろんですが、使用していても十分判断出来なければ意味がありません。医師自身はもちろん、看護要員への教育も徹底することが大切です。

 又使用にあたっては自院の管理体制を考え自院で行う患者か、協力医療機関へ搬送した方が良いかも考える必要があります。

 又、分娩監視を十分にしても事故はおきることもあります。日頃より病診・診診の連携を含め協力出来る関係を作ることも重要と考えます。

 陣痛促進剤へのいわれなきバッシングに負けることなく適正な使用、管理で今後も必要な時に使用出来なくならないよう会員皆様のご協力をお願いします。