平成9年3月31日放送

平成8年度社保の動き

日母産婦人科医会幹事 秋山 敏夫

 本日は、平成8年度社保の動きと題しまして、社会保険全般にかかわ幾つかの事柄を振り返ってみたいと思います。

(1.診療報酬点数改定)

 本年度の最も大きな事項は診療報酬点数の改定であります。

 今回の改定の特徴は、急性期医療と長期療養の評価、病院・診療所の機能分担と連携、技術料の重視などであります。さらに、薬価の設定方式を見直し、薬剤費の適正化を図る一方、患者の医療に対するニーズの高度化に対応し、医薬品や治療計画などについて、患者に対する情報提供を推進することとした点であります。

 具体的内容としては、まず病院と診療所の機能分担であります。

 その1は、病院の紹介外来患者に対する評価であります。

 従来、紹介外来型病院や特定機能病院にだけ認められていた初診料の紹介患者加算を全ての病院で算定できるように改定されました。

 その2は、情報提供料の見直しについて、病院間・診療所間の130点が 150点に、病院・診療所間の200点が220点に、退院患者についての情報 提供が450点から480点になりました。

 次に、患者に対する十分な情報提供として、処方料の薬剤情報提供加算の5点が新設されました。さらにこの点数は処方内容の変更の都度算定できます。

 入院医学管理料の入院治療計画加算200点も新設されました。これは新看護料又は基本看護料が算定できる医療機関において、入院の際に文書による治療計画が作成された場合に1回に限り算定できるものであります。

 医療技術の重視としては、初診料が病院208点から230点、診療所221点から250点に、再診料は病院50点が59点に、診療所61点が70点に改定されました。

 手術料では、同一手術野における併設手術の場合の加算が30/100から50/100に改定されました。

 又入院患者の休日緊急手術加算が80/100で新設されました。

 特に産科診療では評価されると考えられます。

 特定保険医療材料料の5000円ルールが廃止されましたが、産婦人科ではあまり影響がありません。

 一方特殊縫合糸が、手術料に含まれるようになり請求できない点の影響の方が大であると考えられます。

 産婦人科領域における主な改定項目では

 まず、基本診察料の初診料では、乳幼児加算65点、診療所の紹介患者加算50点、時間外加算85点、休日加算250点、深夜加算480点、紹介患者加算250点、150点、。75点、「40点となりました。

 再診料では、乳幼児加算35点、時間外加算65点、休日加算190点、深夜加算420点となりました。

 指導管理料では、特定疾患療養指導料が診療所200点、百床未満の病院135点、百床以上の病院80点となりました。また在宅療養指導料150点、手術前医学管理料1520点となりました。

 検査料では、検体検査判断料として、尿糞便等検査判断料24点、血液学的・生化学的氈Eと免疫学的・微生物学的検査判断料が110点、病理学的検査判断料110点となりました。

 NSTの適応が拡大され、子宮収縮抑制剤使用時の項目が加わりました。

 赤血球不規則抗体検査が帝王切開の術前検査に認められました。輸血歴又は妊娠歴のある患者に算定できますが、レセプトには輸血歴又は妊娠歴がある旨を記載します。又、これは、他の婦人科手術には適応がありません。

 処置料では、腟洗浄42点が最も大きい変更であります。これにより、外来管理加算との問題がクリアーされました。

 手術料では、子宮腟部円錐切除術、子宮腟部切断術、子宮腟部切除術、子宮頚部摘出術が子宮頚部切除術2400点に統一されました。

 また、子宮筋腫核出術、腹式粘膜下筋腫摘出術、子宮頚部筋腫摘出術、腟式子宮筋腫摘出術が子宮筋腫核出術・腹式9500点、腟式6400点に統一されました。

さらに人工妊娠中絶術、子宮内容除去術が流産手術・妊娠11週未満1500点、12週から21週が3000点となりました。

 また子宮鏡下子宮筋腫摘出術9500点の新設と腹腔鏡下腟式子宮全摘術の点数アップが認められました。

 日母では、今回の改定に向け15項目の要望を提出していましたが、既に述べましたように、子宮鏡下子宮筋腫摘出術の新設と腹腔鏡下腟式子宮全摘術の点数アップ、手術名称の整理、帝王切開の点数アップと流産手術の名称変更、入院中の患者の緊急手術時の休日加算が算定可能に、腟洗浄の点数アップ、細胞診の点数アップ、NSTの適応拡大などが認められました。

 しかし、産婦人科診察料加算や特定疾患療養指導料対象疾患の拡大などは要望努力が実りませんでした。尚詳細は医療保険必携改定版を参照して下さい。

(2.動態調査)

 例年点数改定時産婦人科の点数改定の影響を分析するため、モニター医療機関の協力を得てサンプリングした3月分の明細書を4月の改定後の点数に置き換えて比較しました。

 これによれば、診療所の外来で3.0%入院で4.8%のアップ。病院では外来で1.3%入院で2.3%のアップと概算ではいずれもアップしています。

(3.超音波検査の適応拡大)

 日母及び日産婦では、超音波機器の性能の向上、経腟プローブの普及に伴い超音波検査の適応拡大について検討を重ねてまいりました。

 今回、両会の議を経て、産科関連4項目、婦人科関連5項目の適応疾患の拡大ならびに運用の基準につき決定し、昨年4月から運用を開始しています。詳細は平成8年4月号の医報及び医療保険必携改定版を参照して下さい。

(4.NSTの適応拡大)

 既に述べましたように、今回の改定でNSTの適応が拡大され、子宮収縮抑制剤使用時の項目が加わりました。

 子宮収縮抑制剤は経口、静注のいずれでも結構ですが、入院中に限られ、外来での使用はできません。レセプト審査では、外来での使用と分娩監視との差異が理解されていない例が多数認められます。

 違いをよく理解した上での使用を心掛けて下さい。

(5.新しい検査法)

 子宮頚管粘液中顆粒球エラスターゼ測定は平成8年12月1日より保険適応になりました。尿・糞便等検査の区分で、実施料200点、検体採取料30点、判断料24点が算定できます。病名は絨毛羊膜炎等の炎症の関与を疑った病名を併記する必要があり、妊娠22週から37週未満の妊婦、週1回の測定を基準とします。また、頚管腟分泌液中がん胎児性フィブロネクチン精密測定とは検査目的が異なるので併施も認められます。

(6.輸血後GVHDと輸血血液の放射線照射)

 GVHD・輸血後移植片対宿主病は、発症すると確実な治療方法がなく、予後不良であることが明らかになってきたため、予防的措置として輸血血液への放射線照射が行なわれています。

 今回「照射の必要があると医師が判断した場合」の適応が拡大されました。詳細は医療保険必携改定版を参照して下さい。

 次は、日母社保部、社保委員会での検討事項であります。

 まず、CT,MRIの適応拡大であります。

 CTは昭和58年、MRIは平成3年に使用基準の見解が作成されました。

その後、機器の発達や改良により、多数の施設で使用されるに伴い、適応の拡大について検討を重ねてまいりました。

 今回、両会の議を経て新たな使用基準を作成し、本年4月より運用することとしました。

 内容は、

 1)女性性器腫瘍又は女性性器悪性腫瘍やその他の骨盤内腫瘍、骨盤内腫瘤の質的、部位的診断。

 2)これらの治療効果の判定。

 3) 新生児の器質的異常あるいは重篤な胎児の形態異常の診断。

 であり、さらに付記として以下の3項目が上げられます。

 a)MRIあるいはCTの検査にあたっては比較表を参考にし、それらの有用性を考慮すること。

 b)MRIの生体への安全性は確立していないので、臨床上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用すること。

 c)CTはX線であるため、妊娠に合併する腫瘍や胎児奇形の診断には用いない。

 これらは、日母医報3月号に表にして、提示してあります。

 今回の改訂により以前と比較して、適応が緩やかになりましたが、全ての疾患に用いられるわけではなく、その運用は適正にして戴きたいと思います。

 次は、社保委員会、ブロック協議会における主な質問事項であります。

 分娩後の胎盤遺残の手術点数については、子宮内容除去術が用いられていましたが、今回流産手術に統合されたことに伴い、流産手術の準用で1500点が算定されます。

 なお胞状奇胎の再手術の場合は子宮内膜掻爬術900点で算定して下さい。

 術前検査における凝固系検査の範囲ですが、D-Dダイマー、TAT等の凝固系検査は、出血量が多い癌の手術や帝王切開の術前検査として認められるとしました。しかし、簡単な卵巣嚢腫のようなものの術前検査としては認められません。

 産科領域の超音波検査における胎児疾患の適応ですが、分娩進行が障害されると考えられる場合、例えば、水頭症等の場合にのみ可とします。

 クラミジア抗原・抗体検査の併用ですが、頚管炎と附属器炎が合併している様な特殊な場合は、同日施行であっても可とすることとしました。しかし、原則的には主病に応じ、順次に検査が望ましく、傾向的な場合は査定の対象となります。

 子宮卵管造影や卵管通水法に使用する、バルーンカテーテルの算定は給付外であり、認められません。

 以上、平成8年度の社保の動きについてお話し致しました。