平成14年8月5日放送
 第25回日本産婦人科医会性教育指導セミナーより
 日本産婦人科医会神奈川県支部支部長 八十島 唯一
 

 第25回日本産婦人科医会性教育指導セミナーは、2002年のワールドカップの決勝戦の会場となった横浜市に、静けさが戻った平成14年7月7日横浜市市民文化会館関内ホールで行われました。

 当日は天気予報が大きくはずれた快晴に恵まれ、553名の方が参加されました。

 内訳は、神奈川県外から183名、県内から370名が出席されました。

 なお前夜祭は7月6日横浜中華街で行い、県外から73名、県内49名のにぎやかな会となりました。

 今回のセミナー概要を先ず説明します。

 主旨は、性教育に携わる現場の方々に若年者の性行動の実態、性感染症の実状、避妊の問題、心の問題等を幅広く理解して、性教育に役立てて頂こうと企画したものであり、メインテーマを「若年者の性行動は今」とした所以であります。

 では当日のプログラムに従って説明致します。9時30分に開会し、坂元正一会長の御挨拶がありましたが、この内で「性は文化である」と表現されたのが印象的であり、日本の性教育にとって示唆に富むものと思われました。

 引き続き、本多常高横浜市助役と鶴田憲一神奈川県衛生部長の御祝詞を頂きました。

 特別講演氓ヘ「日本産婦人科医会性教育指導者用スライドの活用」と題して、日本産婦人科医会予防医学介護に関する委員会の秋元義弘先生が担当されました。

 今回解説されたスライドは、日本産婦人科医会が努力を重ねて作成したものであります。

 このスライドの目的は、日本産婦人科医会の会員の性教育指導者としてのレベルを一定に保つことであり、所有権や著作権の侵害のおそれのない製品であるもので、各県支部には1セット備えられております。

 さて現在の日本の学校教師の60%は学生時代に学校で性教育に関する教育を受けたことがないため、性教育は純潔教育であるという観念から脱却出来ず、性交を扱いたがらない事情があり、その結果実際の性教育の指導が出来ず、ここに産婦人科医が性教育を行う選択肢が出てくるわけであります。

 では、性教育を講演で行う際の注意を述べます。

 生徒達にとってどんなに興味ある内容でも、時間を超過したり、観念論的で高圧的であると、すぐに拒否反応を示すので、決めた時間内に講演を終了し専門用語を使わず、内容が今晩から役立つことを話の中で度々強調し、地元の人工妊娠中絶率など最新の身近なデータを示すこと、人工妊娠中絶は妊娠21週6日までしか出来ないこと、12週を過ぎると死産届が必要となることを、週数の計算法を示しながら実感を得させる必要があります。

 このスライドは、98枚あり、CD-ROMも用意されており、普通のパソコンで自由に加工でき、将来データを補完できるものであります。

 神奈川県支部ではCD-ROM版を予約販売したところ大変な反響で90名弱の方が希望されました。

 特別講演は「性感染症と性教育」のテーマで性感染症の分野でわが国の第一人者である川名尚帝京平成短期大学副学長が担当されました。

 性感染症はウィルス、クラミジア、細菌、真菌、原虫、寄生虫など多くの病原体で発症し、性器に病変を形成する淋菌感染症、性器ヘルペス、尖形コンジローム、性器クラミジア感染症と、B型肝炎やエイズのように性器は病原体の侵入門戸であるが性器には病変を形成しないものもあります。

 性感染症は男性より女性がかかり易くダメージも大きいのです。

 現在最も多い性感染症は男女ともクラミジアでありその背景には性行動の活発化オーラルセックスの一般化と、大部分は無症候でしかも保菌者となり他人に感染させる点であること、慢性化すると抗生物質が効きにくくなるので早期治療が必要であり最も大切なのは性教育啓発活動であろうと結ばれました。

 わが国の性感染症について詳細でしかも分り易い内容で一般の参加者も理解を深められたものと思われます。

 午後は「若者の性行動は今」のテーマでシンポジウムが行われました。

 演題氓ヘ全国性教育連絡協議会理事で長年にわたり性教育に取り組み、神奈川県川崎市で学校と手を組んで教師を対象とした性教育を行って実績を上げてきた近藤俊朗先生が「諸外国における性教育と日本」と題して講演されました。

 諸外国の性教育は、宗教、政治、経済、自然環境で夫々異なることを示されました。

 北欧では健康推進教育として性教育が行われ、スウェーデンでは47年前から義務教育化されているのに対し、米国では州によって差があるものの欧州と異なり、性行動に対するタブーの打破や、研究対象として性教育を行ってきたことを説明された上、日本では文部省が性に関して純潔教育をすすめてしまった結果、性教育は発展しなかった経緯がありますが昭和47年に日本性教育協会が設立され、性教育の団体間の連絡が可能になり今日の発展をみることになった経過を解説されました。最後に性教育は総合人間学として、行うべきであるとの信念を吐露され、講演を結ばれました。

 演題は「若年者の性に関する電話相談」のテーマで産婦人科医で相談員として経験の長い斉藤千草先生が担当されました。

 先ず横浜市の思春期保健電話相談の成り立ちと、その後の発展の過程について説明がありました。

 それによると昭和60年以降の低出生率の定着、核家族化、女性の就労率の上昇等の社会的背景のもとに婚前指導事業として思春期婚前指導としての検討が始まったが、思春期保健の問題は複雑化してきた結果、こころの問題が基本となった点、当初は保健センターが主体で電話や面談で個別相談として始まったが平成4年9月思春期相談として独立したこと、相談員は講習を受けた助産婦に加え産婦人科医、小児精神科医、泌尿器科医が輪番参加する方法で行われており、相談者数は、年々増加し、中学・高校生が多く、男性が9割を占めていること、相談内容は性器について、マスターベーションについてなど性行動に関するものが上位をしめていること、女性については小・中学生から妊娠の相談がみられること、相談員を悩ませているのは性的作話、テレフォンセックス、近親相姦などがあげられ、これに大変なエネルギーを要している実状が説明されました。

 しかしこの10年間年齢別、性別の相談内容に変化はみられない点からこの事業は社会的に認知されてきたものであり、社会的ひきこもりに対して社会的参加として電話相談が適していると結ばれました。

 シンポジウムの演題。は松田静治先生が「若者の性行動」のテーマで担当されました。

 若者の性行動は多様化、カジュアル化しており、クラミジア、淋菌感染が急増しているのが特徴である点、性感染症は今や一般人が感染する一般的な疾患であり特別なものではなくなって来ている現状を説明されました。

 クラミジア感染症は女性に多く、淋菌感染症は男性に多いこと、性感染症の性比では女性が男性の1.3倍で年齢別では15歳から19歳に多いこと、また10歳代の人工妊娠中絶が増加しており、パートナーが多い男性ほどコンドームを使用しない現状を示されました。

 若者の性行動の多様化、カジュアル化がsexual networkを構築し拡大することによって性感染症は急増していると説明され、この現状をふまえて厚労省と文科省は協力して新しい施策を打ち出してもらいたいと結ばれました。

 最後の総合討論ではパートナーの数が多い男性ほどコンドームをほとんど使用しない理由についての質問に対して、若者の性行動について一番の関心事は妊娠で、ピルを使用しているのでその心配はなく、性感染症に対しては理解が少なく心配しない為との説明があり、若者の性行動を象徴するものと思われました。

 この後質疑討論が活発に行われましたが、時間の関係で中断せざるを得なかったのが残念でありました。

 本セミナーの詳細な講演内容は平成15年初頭に発行される雑誌「産婦人科の世界」の本セミナーに関する特集号や第25回日本産婦人科医会性教育指導セミナー集録に掲載されることになっていることをお知らせし、終わらせて頂きます。有難うございました。