平成13年9月17日放送
女性のライフステージに合わせた避妊法
日母産婦人科医会幹事 安達 知子

 

 性の人生における意義として、生殖、歓び、コミュニケーションの3つが知られています。この内、歓び、コミュニケーションの性にしめる役割は大きく、自分に適した避妊法を選択することは極めて重要です。
 そこで、今日は、女性のライフステージをいくつかの特徴によって分類し、それぞれの年代に合わせた避妊法の使い分けについて、考えてみました。 

 まずはじめに、中学、高校を含めたティーンエイジャーで学業を中断できない時期について

 初経から数年の間は、排卵周期がまだ十分に確立されておらず、月経になれていないこと、月経随伴症状が多いことなどから、学校生活や課外活動などにおいても、月経はとにかくうっとうしい現象で、ネガティブなものとして捉えやすい時期でもあります。
 一方、この期間は勉学を中心とした時期であり、法的に結婚できる年齢は16歳からとはいえ、日本では高校生で妊娠した場合に学業と両立できるようなシステムや公的支援はほとんどありません。学業の中断ばかりでなく、人間的にもまだ未熟であり、社会的にも経済的にも自立していないため、妊娠した際に出産・育児へと向かうことはかなり難しく、人生の中で一番確実な避妊が必要です。 従って、ティーンエイジャーとはいえ、もしも、性的に活発であるならば、低用量経口避妊薬、以下、低用量OCは、その高い避妊効果から、代謝異常や血管障害の少ない若い世代には安全で最適な避妊法といえます。低用量OCは最も避妊効果が高い避妊法であり、しかも服薬中止により、すぐに妊娠できる状況となります。また、この世代における低用量OCのメリットを挙げますと、月経に対する好ましい作用、すなわち、月経の時期があらかじめわかること、また、経血量が少なく身軽に行動でき、月経時に生理用品をたくさん持ち歩いたり、トイレに頻繁に通ったりなどのわずらわしさが少ないこと、月経痛を初めとする随伴症状の著明な抑制などにより、月経を苦痛と捉えずに生活できることが挙げられます。また、アクネなどの男性化症状も起きやすい年齢のためこれを予防・治療する低容量OCの服用は好ましい効果をもたらします。
 しかし、この時期に最も大切なことは、性的な自己管理ができるようになることです。すなわち性交をしたくないと思う時期や相手、あるいは避妊の準備のない時の性交に対し、"No"といえることが大切で、確実な避妊という意味では、性交しないか、低用量OCを服用するかのどちらかの選択が必要といっても過言ではありません。一方、性感染症に対しても知識不足や認識不足から無防備であり、この時期パートナーも不特定であることから、OCに加えて、正しい使用法によるコンドームの併用は性感染症の予防の意味からも必ず必要です。低用量OCの服用の有無に関わらず、相手に対し男性用コンドームを装着するようにいうことができるような、性に対する自己管理力、判断力は重要です。なお、最近、メンフェゴール配合男性用コンドームが市販されてきましたが、メンフェゴールは殺精子作用のある潤滑油であることから、より避妊効果の高い男性用コンドームとして、注目されるべきものです。ただし、破損がおきたり、正しい装着を行わなければ避妊効果は不確実です。もしも、避妊法が不確実であったときには、性交後72時間以内に中用量OCを2錠服用、その12時間後に2錠服用する緊急避妊法があることを覚えておいてください。

 2番目として、結婚の有無に関わらず、社会的にまだ妊娠したくない時期について

 近年、就職した後も専門職のキャリアを磨き、或いはより高い地位をめざして勉強や仕事に専念する傾向が強くなり、結婚年齢も高くなってきています。一方、この時期は性交経験率はさらに上昇すると考えられ、絶対子供は望まないあるいは望めない時期では、確実な避妊法である低用量OCがお奨めです。また、未婚者では、性感染症の予防にコンドームを併用することも必要ですが、この年代は、自分の身体を十分理解してきている時期であることから、女性用コンドームを用いることもティーンエイジャーよりは上手にできると思われます。しかし、女性用コンドームの使用には慣れが必要です。
 また、一応子供はほしくはないけれども、もしも予期せぬ妊娠をすれば子供は産むでしょう、とおっしゃる方もいます。このような方は、避妊目的として、男性用、または女性用コンドームで十分です。

 3番目に、子供を産んでしばらく次の妊娠を避けたい時期について

 妊娠と妊娠の間は、前回の妊娠・出産或いはこれに引き続く育児による心身の疲労回復のため、最低2年は空けたいものです。出産後母乳栄養を継続していますと、排卵抑制状態から避妊効果につながりますが、このためには、3つの条件が必要です。まず、母乳栄養のみを続けており、月経が全く再開していない状態で、分娩後6カ月を過ぎていないことです。しかし、日本では、早期からの離乳準備食や、職場復帰などから人工栄養との混合も多く、性機能の回復は思いのほかすみやかで、この方法による避妊は不確実です。他の方法として、分娩後4週間は産褥血栓症の発生しやすい時期であり、また、エストロゲンは乳腺におけるプロラクチンの作用をブロックして、乳汁分泌を抑制するため、母乳栄養をつづけるためにはこの時期の低用量OCの服用は避けなければなりません。また、分娩後はしばらく低エストロゲン状態が続くため、腟の粘膜も乾燥、萎縮気味であり、性交はむしろ痛みを伴うことから、避妊をかねて女性用コンドームを使用することはセックスライフを快適なものにかえるかもしれません。もしも、月経が回復し、当分の間、年単位に次の妊娠を避けたいのならば、避妊効果が高い子宮内避妊器具(IUD)がお奨めです。IUDでも、特に最近発売された銅付加タイプのIUDは殺菌効果が強く、小型で違和感が少ないことからも、この時期の避妊には最適です。また、母乳栄養を継続しないのであれば、分娩後4週目から低用量OCは服用可能で、その避妊効果は最大です。

 4番目として、産み終えから閉経までの期間について

 40歳以上の人工妊娠中絶率は70%以上ときわめて高く、この時期の避妊は大切です。しかし、この年齢は、加齢に伴う血管障害や代謝異常のでやすい時期であるため、40歳以上の女性への低用量OCの投与は慎重投与となります。しかし、喫煙をせず、高血圧や糖尿病、脂質代謝異常や肥満などがなく、以前からOCを服用している者であれば、引き続き服用しても合併症の発症はほとんどないと言われており、むしろ、更年期障害や骨粗鬆症などの予防に好ましいという報告はあります。銅付加タイプのIUDのほか、まだ日本には登場してませんが、黄体ホルモン付加のIUDは子宮内膜に作用して経血量を減らす効果が見られるなど、良いと思います。しかし、IUD挿入中は子宮体癌検査が施行できないことなどから、できれば、永久避妊である精管結紮や卵管結紮が奨められます。身体に傷が付く、入院が面倒など、日本女性には好まれない避妊法といわれていますが、女性の不妊手術についていえば、腹腔鏡や腟式の小手術でも行えるため、実際に施行した産み終え世代の女性達は、妊娠を気にすることから解放され、とてもよかったと、おっしゃる方が多いのです。さて、閉経したと思ったら、突然月経再来、時に、排卵もあったなどということもあります。不妊手術、IUD挿入を行っていない方には、女性用コンドームはいかがでしょうか? 腟壁が萎縮気味、性生活もそれほど頻繁でないとき、性交痛を防ぐ意味でも女性用コンドームはよいのではないでしょうか。ただし、初めて使用するときはうまくいかないこともあります。また、HRTを併用していると、腟壁の乾燥感や伸展性の低下は防ぐことができ、快適なセックスライフを送ることができると思います。

 おわりに

 日本では、若い女性から閉経周辺期まで、年代に関わらず、避妊法として、男性用コンドームが用いられています。しかし、海外では年齢に応じて、あるいはカップルの関係や人生のプラニングに合わせて、様々な避妊法が選択され、セックスライフを大切なものとして扱っています。産婦人科を訪れた女性達にぜひ適切でわかりやすい情報の提供と親身なアドバイスをしていきたいと思っております。

 一昨年承認された低用量OCは、全ての女性が使用できる避妊法ではありませんが、スクリーニングされた対象、いわゆる安全にOCの服用ができる女性たちにとっては、OCは避妊以外にも数々の副効用をもたらし、各世代で、女性の well being に貢献しています。更年期障害のホルモン療法、閉経以後のHRTはいまだ日本では一般に普及しておりません。その理由は"ホルモン剤の副作用が怖い"、というOC使用を希望しない最大の理由と同じです。その結果、かなり多くの女性が更年期障害を含む加齢に伴う身体的、精神的な苦痛を我慢しながら過ごしているといえます。また、セックスは辛いという思いを抱くことになります。若い時からOCを使用した女性たちは、ホルモン剤を身近なもの、怖くないものとして受け入れられると考えられ、OCの普及は高齢女性のwell beingにもつながるものと思います。