平成13年1月22日放送

 産婦人科勤務医待遇調査
「産婦人科勤務医当直に関する他科医師との比較」

 日母産婦人科医会幹事 神谷 直樹

 

 日本母性保護産婦人科医会 勤務医部幹事の神谷と申します。本日は勤務医部で行っている活動の一部を紹介いたします。

 20世紀は情報又は通信の時代と言われ、ハード面では非常に便利な時代でしたが、個々の人々は、一挙に山津波に襲われた如く、そのスピードと量に圧倒され、質の分別など到底成し得ず、考える心のゆとりを失っていました。すなわち20世紀末の進歩は何であり、何をもたらしたかの説明は不要と思われます。そこで、これからの21世紀には、ないがしろにされた人の尊厳性を尊ぶという改革が必要と思われます。「心の時代」とは「失われかけた心」を取り戻すことから始めねばなりません。それには「病める人の心身を癒す」ことを職とする我々も心にゆとりを持たねばなりません。そして持てる時代にしなければなりません。このことが「我々の立つ基盤」を見直すきっかけとなりました。

 まず、現在までの日母勤務医部の待遇に関する活動を紹介いたします。
  1992年:産婦人科勤務医の現状と将来展望
  1995年:産婦人科勤務環境の自己評価
  1999年:産婦人科勤務医の待遇と診療体制
 そして今回の「産婦人科勤務医当直に関する他科医師との比較」です。

 それでは、「産婦人科勤務医当直に関する他科医師との比較」について解説いたします。産婦人科を「生命誕生に携わる満足度の高い魅力的な診療科」と感じる若手医師や女性医師が増える傾向にあることは認定医試験受験者動向から伺えますが、全産婦人科医師数の増加が見られない現在、マンパワー不足を来たし勤務環境を悪化させていると言っても過言ではありません。すなわち肉体的・精神的な疲労が重なり、心のゆとりを失い、ケアする側のケアが必要な事態に陥っている実態があります。また産婦人科医師は他科の医師と比べて、より激務であるとの声をよく耳にします。そこで、今後の勤務医環境の改善のためには他科医師との比較が必要であるとの判断で今回の調査となりました。

 現在までの当直体制に関する調査は、産婦人科医の当直・宅直の有無と人数、オンコール体制の有無と人数、麻酔

科医・小児科医の同日当直の有無などについて調査されていますが、他科医師との比較は日本医師会発表のデータを基に比較したものに留まっています。今回は当直問題をより詳細に検討する目的で、各施設の全科当直表を提供していただき検討いたしました。ここまでの調査は日本母性保護産婦人科医会にも、日本医師会にもなく、今後の参考になると確信しています。調査結果をまとめた小冊子より抜粋して紹介いたします。

●目的と方法

 産婦人科医の高齢化、産婦人科新入医局員の減少、少子化などの産婦人科医療をとりまく厳しい環境のなかで、女性の健康と安全な周産期管理を担う産婦人科医の待遇特に当直業務の実態を他科医師と比較し、産婦人科の更なる活性化を検討する資料とすることを目的としています。

 方法は日本母性保護産婦人科医会全国定点モニター476施設に平成11年11月の全科当直表の提出と裏付け資料作成のためのアンケートを依頼し、これを分析しました。なお大学附属病院は次回調査として除外しました。476病院中285病院から回答をいただき、回収率は59.9%です。解析不能であった2病院を除き283病院を当直群、宅直群、単科群に細分類しました。当直群とは産婦人科医が毎日病院内で当直し、なおかつ他科医師も当直している病院群をいいます。108病院ありました。宅直群とは病院内ではなく自宅等で待機する病院群で96施設ありました。単科群とは、61病院ありましたが、主に産婦人科専門病院で当直・宅直はしているが、他科医師との比較ができない病院群をいいます。今回の主旨を踏まえて当直群・宅直群を中心に解析いたしました。

●結果

 当直群について解説いたします。まず解析対象となった施設の背景を紹介いたします。設立母体は国立病院10.2%、自治体病院31.5%、公的病院31.5%、私的病院26.9%でほぼ同数です。病院全体の病床数は100床以下から1,000床以上まで多彩ですが300〜600床が約60%を占めています。産婦人科医師定員数は2〜7名が92%を占めますが欠員のある施設が35%もあります。また75%の病院が外部医師に当直を依頼しています。当直以外にオンコールとして拘束される回数は月3〜5回が38%と最も多いのですが10回以上という施設も18%あります。このような背景の医師に行ったアンケートによりますと、理想の医師数は現状+1〜2名で、当直回数は月3〜4回が望ましいとしています。また25%の病院ではいつでも増員可能と回答しています。産婦人科医の不足が露呈しています。

 次に宅直群について解説いたします。解析対象となった施設背景で設立母体については国立病院5.2%、自治体病院36.5%、公的病院24.0%、私的病院33.3%で国立病院が少数でした。病院全体の病床数は300床以上、200床以上、100床以上、400床の順で多く約60%を占めています。産婦人科医師定員数は1〜3名が76%を占めますが欠員のある施設が10%ありました。当直群と異なり外部医師に当直を依頼している施設は40%で少数でした。そして緊急当院回数は当直群の2〜3倍です。このような背景の医師に行ったアンケートによりますと、理想の医師数は当直群と同様に現状+1〜2名で、当直回数は4〜5回が望ましいとしています。当直又は宅直回数を他科医師と比較して多いかどうかの質問には、当直群の90.7%が、宅直群の52.1%が多いとしています。

 さて当直回数の他科との比較ですが、産婦人科4.7回、小児科3.4回、救急関連3.1回、外科2.3回、内科2.1回と産婦人科が最も多く、小児科が次であった。設立母体別に当直回数を見ても同様の結果でした。

 以上の報告は平成12年6月、小冊子としてまとめられ関係部署に配布されています。この小冊子にまとめとして記載されている文章を紹介いたします。

 最も基本的な疑問として、なぜ過去10年間産婦人科を希望する若い先生が増えないのであろうか。少子・高齢化という大きな社会問題を抱え、最大の理由の一つに考えられるが、産婦人科内部の問題はないだろうか。産婦人科はハードな診療科で、当直が多い、夜起こされる、訴訟が多いなどの思惑から、産婦人科の門を最初から敬遠してしまう傾向にある。しかしながら、医育機関にいる産婦人科医は、大学病院を中心に、産婦人科の魅力を診療・研究・教育のあらゆる方面から医学生に教え続けており、深くその努力に敬意を表したい。

 一方、日本母性保護産婦人科医会や日本産科婦人科学会、日本医師会のなかでも、活力ある産婦人科をめざし、将来の日本を担うこどもを出産する母性の手助けをする産婦人科医のサポートをし続けています。私たちの日本母性保護産婦人科医会勤務医部においても、新入局増加に関する小委員会、待遇に関する小委員会、女性医師に関する小委員会などを中心に活動を行い、その調査結果を小冊子にして報告している。JAOG Information にもその活動を逐一報告している。今回はその中でも、産婦人科勤務医の数多くある待遇問題の一つとして当直問題を取り上げた。確かに今回の結果のように、産婦人科医の当直回数が他科と比較して多いことが示されたが、当直を減らすにはどうしたらよいかと考えることも重要ではあるが、最近の医療情勢の厳しさから考えると、他科医師の当直は産婦人科医の当直回数に近づくのではないかと思われる。現実に病院の専門細分化、救命救急の普及、ICU,CCU,NICU,HCU,SCUの普及、などにより、他科医師のなかでも救急に携わる関係診療科の医師の当直回数が増加しており、今後この傾向は進むものと思われる。

 一方小児科診療においても産婦人科と同様の新入局問題に遭遇しており、少子・高齢化に対する社会の改善化が進みつつあることに期待したい。今回の調査結果をどのように活用するかは、それぞれの立場によって解釈が異なる可能性がありますが、少なくとも、現状では産婦人科医の勤務状況が過重になっている傾向も否めません。それぞれの病院内で討議するときの資料となれば、この上ない幸せに思います。日本母性保護産婦人科医会本部でもこの結果をもとに、少子化対策、高齢者対策、勤務医待遇改善対策、産婦人科新入局増加対策、安心して働ける女性医師対策、周産期センター化構想、医療訴訟対策など山積みしている諸問題の資料になればと思い、ご協力いただいた日母定点病院会員の諸先生に深謝して提言とする。