平成11年10月4日放送

日母研修ニュースNo.7 低用量経口避妊薬(ピル)を処方するにあたって

日本母性保護産婦人科医会常務理事
東京歯科大学市川総合病院産婦人科部長 田辺 清男

 

 低用量経口避妊薬(以下OCと略します)が厚生省における長い長い審議の末、ついに9月2日から発売されていることは先生方ご存じの通りです。

 ところで産婦人科医は、OCを処方するに当たっては、性感染症の蔓延や重篤な副作用を未然に防ぐ努力をするよう要請されています。そのためにはOCの薬理作用、安全性あるいは副効用等をよく知り、服用希望者に正しい情報提供をすることが重要です。

 そこで日母研修ニュースNo.7では、OCを実際に処方するにあたって知っておくべき事項を、OCの医師向け情報提供資料をもとに記載致しました。本日はこの研修ニュースNo.7の中から重要事項のみを抜粋して、お話し致したいと考えております。

 現在発売されているOCは11社9製品で内容的には5種類です。多くの種類のOCが発売になり、どれを選択したらいいか迷われると思いますが、まずどれか一つに習熟されるといいと思います。

 ところで、初回投与時には、OCは避妊のための薬剤であり、性感染症を予防できないこと、さらに定期的な検診を受けるよう服用者に勧めることとされています。そして、その後、OCの有効性、副作用、副効用等について服用希望者へ説明することになっています。以下順にお話し致します。

 まず、OCは正しく服用しても0.1%とわずかですが妊娠の可能性があります。トラブル防止のためにも、この事を必ず服用希望者に服用開始前に説明しておきます。

 ついで、OC服用に伴い起こる可能性のある重篤な疾患には、血栓症、心血管障害、脳血管障害等があり、特に心筋梗塞や脳卒中は喫煙の影響が大きいことを知らせます。乳ガン、子宮頸ガン、肝臓の良性腫瘍等もわずかながら増加することが報告されています。

 OC服用によるホルモン依存性の副作用には、不正性器出血、悪心、嘔吐、頭痛、乳房痛、乳房緊満感、体重増加などが比較的多くみられます。これらはOC服用開始3周期以降は消失すことが多いことを説明します。

 OCの副効用についても知らせます。すなわち、卵巣ガンや子宮体ガンの相対リスクはOC服用により低下し、服用中止後もこれらの予防効果は持続するとされています。その他に、貧血や骨盤内感染症、子宮外妊娠、良性卵巣嚢腫、良性乳房疾患などの減少が報告されています。

 ところで、OCは健康な女性が長期にわたって服用するものであり、これにより健康が損なわれることがあってはなりません。したがって、OC投与の際の17項目の絶対的禁忌、12項目の相対的禁忌の有無を確認し、さらに健康状態をチェックしておく必要があります。そのためには適切な問診と医学的診察、スクリーニング検査が有用です。

 特に問診は服用禁忌の有無の判定、投与前検査の項目の決定、および投与時のカウンセリングの参考にするために重要です。問診を効率的に行うためにチェックシートの例が示されていますので、これを参考にして先生方ご自身のチェックシートを作成することをお勧め致します。とにかく、絶対的禁忌および相対的禁忌にはどのような項目があるかを我々産婦人科医は熟知し、それらに該当する女性を絶対に見逃してはいけません。

 次いで、臨床検査を実施します。一般的スクリーニング検査すなわち検尿、血液学的検査、血液生化学的検査、血液凝固系検査など、さらに触診による乳房検診、内診、子宮頸部細胞診、STD検査等を実施します。

 以上の問診、検査等によりOC服用が可能と判断されたら、実際に投与することになりますが、その際いくつかの点に注意する必要があります。まず初回服用開始日の問題ですが、sundayスタートOCでは月経開始後最初の日曜日から、その他のday1スタートOCはすべて月経開始初日から服用します。sundayスタートOCでは服用開始後7日間は他の避妊法を併用させます。当然ながら、妊娠していないことを確認してから投与します。

 中・高用量のピルから低用量ピルへ切り替える場合には、中・高用量ピルによる消退出血を自然の月経と考えて、初回服用開始時と同様に開始します。

 なお、のみ忘れをしないためには、夕食後あるいは就寝前といった毎日ほぼ一定の時刻に決めて服用するよう指導します。

 ところで、長期間OCを服用すると種々のハプニングが起こる可能性があります。すでにそのうちのいくつかについてはお話し致しましたが、さらに以下のような事項についても、事前に服用希望者に説明しておいた方がいいでしょう。

 まず服用を中止すべき血栓症等の症状にはどんなものがあるか知らせておきます。なお、検査値の異常、体を動かせない場合等の血栓症のリスクが高まる状態、手術や入院の前等ではOCを中止させます。

 のみ忘れた場合の対応としては、のみ忘れが1日だけであれば気付いたときに直ちにのみ忘れた錠剤を服用し、その日の分も通常通り服用させます。もし次回の服用時に忘れたことに気付いたら2錠服用します。以後は通常通り服用させます。のみ忘れが2日以上連続した場合には服用を中止させ、次の消退出血を待って新しいシートの錠剤の服用を開始させます。

 服用順序を間違える場合も考えられます。このような状況における明確な対処法は決まっていませんが、原則的には中止させ、次回の消退出血を待って新しいシートから服用開始させます。

 服用中に激しい下痢や嘔吐が続いた場合にはOCの吸収不良を来すことがあり、妊娠する可能性が高くなります。その周期は他の避妊法を併用させます。

 OC服用時の不正性器出血はしばしばみられますが服用を継続すると次第に減少します。出血はOCを中止する原因として最も多いもので、また出血の原因として最も多いのは服用忘れです。

 消退出血が発来しない場合では、もし服用忘れがない場合には7日間の休薬後あるいはプラセボ錠服用後に次周期のOCを服用開始させます。消退出血が2周期欠如した場合には、OC服用に先立ち妊娠の有無を確認します。当然ながら、妊娠している場合には中止します。

 ところで処方間隔については、OC服用の副作用を早期に発見して重篤な合併症を予防するためにも、初回の処方は1ヶ月、次回は2ヶ月、それ以降は3ヶ月毎とすることが望ましいとされています。

 副作用の出現をチェックするためには、定期的に問診と検査を行う必要があります。服用開始1ヶ月後、その後は3ヶ月毎に問診を中心とする検診を行い、またOC服用に伴う異常の有無を聞きます。6ヶ月毎の検診では血液学的検査、血液生化学検査、乳房検診等を、年1回は子宮頚部細胞診を実施します。

 ところで、OC服用中に重篤な副作用が発症した場合に、医師が添付文書に記載されている注意に従って処方している限りにおいては免責されますが、もし服用希望者が絶対的禁忌あるいは相対的禁忌に該当するのに投与していた場合には、当然医師の責任になることがあります。

 OCの値段についてはいろいろ解釈ができます。医師はまず希望者がOC服用の適格者であるか否かを判断するために、問診や種々の検査を行います。したがって、相談・指導料、検査料等が算定できます。それに処方料、OC1シート分の薬剤料および薬剤管理料がプラスできます。1ヶ月後の再診時には、服用状況等を聴取して継続するか否かを判断しますので、相談・指導料、検査料、処方料、薬剤管理料にOC2シート分の薬剤料をプラスすると考えます。その後は3ヶ月毎に来院させ同様の過程を経て処方することとなります。なお、相談・指導料はその時間や密度等を勘案して決めます。また、領収書にもこれらの明細をはっきりと記載することが望まれます。

 最後に、すべての出産が望まれたものであることが理想です。これには完璧な受胎調節すなわち確実な避妊によってこそ可能です。このためにはOCが最も適したものの一つです。

 またOCにはすでに述べた副効用以外にも多くの有益な作用があり、従って、OCは初めて認可された「女性のQOLを維持・改善するための薬剤」であると云えます。したがって、今後我々産婦人科医もOCを温かく見守って行くべきではないかと、私は考えております。