平成10年12月28日放送

 日母組織の重要課題(本年を振り返って)

 日母産婦人科医会副会長 高橋 克幸

昨年4月、坂元正一会長の元で、第5期日母執行部が発足しましたが、今年は2年目、いわば、第5期坂元日母執行部の仕上げの年にあたります。
戦後最大と言われる、経済不況の年ですから、医療の世界も例外でなく、医療費の抑制、医療構造改革など、厳しいものがありました。日母執行部はこの厳しい医療環境に順応すべく、今期は日母本部の機構改革を行い、予算を縮小して重点配分をし、諸々の事業を進めてまいりました。今年一年の日母の活動を振り返ってみますと、第一に定款改定によるA・B会員の一本化が挙げられます。この改定は第40回代議員会で承認されていたのですが、日本産科婦人科学会の会費の値上げの問題と重なり、執行がのびのびになっておりました、A会員の一部より、B会員との会費の格差が指摘されておりましたし、代議員会の決議事項が執行されないのは、結果的には執行部の責任と言われても致し方ありませんので、第47回定例代議員会に再度提案、承認され、平成10年度より正会員と準会員の二本立てになり、すっきりしたと思います。
日母の会費について色々意見を述べる会員もおりますが、毎月の日母医報の発行、研修ノートの出版、配布、産婦人科診療のトピックをタイミングよく、年2〜3回、伝達する研修ニュースの送付、医事紛争や医業対策、社会保険についての厚生省、日医との折衝や医療保険必携の発刊、日母大会での学術研修、婦人科がん検診事業の促進、勤務医対策、その他、日母の行っている事業はまだまだ挙げる事が出来ます。これが会員のため、どれ程役立っているか計り知れません。日本には労組を始め、いろいろな組織がございますが、日母の事業内容をよくご覧頂げば、現在の日母執行部の行っている事業並びにその成果は、十分に理解頂けるものと思います。
本年は、日母創立50周年にあたります。全国各地の日母支部で、50周年記念式典が行われておりますが、日母本部では平成11年10月16、17日の両日、東京都市センターホテルで、日母創立50周年記念式典を行なうことにしております。現在、総務部を中心にして、プランニング中ですが、記念誌の発行も予定しております。
平成10年度の研修テーマは「産道損傷」、「思春期のケア」の2つですが、研修委員の努力で「産道損傷」の立派な研修ノートが出来上がりました。この産道損傷については、去る10月24日に富澤会長のもと四日市市で開催された第25回日母大会で、研修担当常務理事の寺尾教授が、素晴らしい解説講義をしております。「思春期のケア」は現在製本中ですので、近々中に会員の元に届く予定になっております。
尚、平成11年度の研修テーマには、「母体救急-その病態とは」と「高齢女性のケア」を取り上げることにしました。
今年の日母大会で、研修テーマの解説講演がありましたが、これは初めての企画であり、大変好評でしたので、要望があれば来年も続け、生涯研修を一層充実してまいりたいと思っております。
医事紛争は、1997年の訴訟件数をみますと、内科が176と数の上では最も多いのですが会員数当たりにしますと、産婦人科、整形外科が依然として多いと言えます。会員の医事紛争の発生を防ぐため、医事紛争対策委員会では「これからの産婦人科、医療事故防止のために」という小冊子を作成したほか、「看護要員のための医療事故防止」を刊行しましたので、看護要員の教育に活用して頂きたいと思います。
11月29目の全国支部医事紛争対策担当者連絡会で、胎児仮死とCPの関係についての調査、研究の講演がありました。分娩時仮死がCPに関係があるのは12.8%ですが、最も多いのは胎児の遺伝的要因及び、脳発達障害であるという事例の発表や正期産仮死児とCPの調査成績の報告などがありました。
CPの発生の大部分が分娩時仮死、或いは、アプガールスコアの低値が原因という一部の小児科医の不用意な診断のため、産婦人科側がどれ程被害を被ったかわかりません。新生児CPの発生に関する原因究明に、灯かりの見えた発表だったと思います。
社会保険委員会は、本年も精力的に事業を推進しました、平成12年度診療報酬点数の改定要望のため、各ブロック協議会より要望されました診療報酬の改定並びに新設をまとめ、厚生省、日医診療報酬検討委員会、日産婦社保委員会、外保連などと協議し、産婦診療のUPをはかっております。診療報酬の改定、新設を望む会員の声を、出来るだけ取り上げ、実現をさせるよう、日母執行部、とりわけ、社保担当役員は一生懸命努力していますが、他科との調整もありますので、簡単に実現できるものではありません。会員各位のご理解とご支援を賜りたいと思います。
法制検討委員会は日本母性保護産婦人科医会定款の変更をはじめ、産婦人科関連法規、とりわけ、会員の医業にもっとも関係のある「母体保護法指定医師の指定基準」モデルの改定を、会員の意見を参考にして、委員会で幾度も審議し、現在日医側と折衝審議を行っているところです。内容については会員の方々は折々の各種会合で、断片的には聞いておることと思います。現在、折衝中ですので、誤解を招く恐れがあります関係からこれ以上申し上げることは出来ませんが、平成10年度中に成立する見込みでございます。
本年の6月6日、日産婦、日母の某会員の行った、非配偶者間体外受精の実施と公表は、生殖医療の倫理的問題を社会に問いかけ、生殖医療のもつ襖雑な問題を再認識させたものであります。
日本産婦人科学会が認めていない、会告で禁止されている非配偶者間の体外受精を公表して、正当化しようという意図が、某会員の発言に度々出てまいりました。日産婦学会は臨時評議会を開いて除名をすることに決定しましたことは既にご承知のことと思います。
これに対する日母側の対応が社会の耳目を集めておりますが、日母執行部は専門委員会を開いて多くの方々の意見を聴取し、いろいろな角度から慎重に審議致しました。それが、日母医報12月号に発表された会長見解でございます。この問題については厚生学科審議会先端医療評価委員会でも審議し、ここ1〜2年のうちに答申を出すことになっていますので、会告、自主規制を遵守して欲しいと思います。
平成9年度4月までは、母子保健事業のがん検診が妊産婦検診と並んで、今までは国庫補助金事業或いは一部国庫負担金事業として行われてきたのですが、昨年4月以降、一般財源化されました。そのため、一部地方では婦人科がん検診に消極的になり、受診率の低下したところ、或いは行わない町村もあるやに聞いております。日母会員としましては、各自の所属する地区医師会と協調して行政に働きかけ、健康診査、検診を継続させるよう努力して頂き、国民の健康保持に万全を期して頂きたいと念ずるものであります。
日母会員は日産婦学会会員同様、僅かですが年々減少し現在13,200名になっております。このままでは、将来の日本の母子保健の担い手はどうなるのか、少産少子、高齢化の問題と合わせて考えますと、暗澹たる気持ちになります。少子化に歯止めをかける為には安心して分娩してもらえるような政策が必要です。周産期医療に対する国の強力なテコ入れが望まれます。
日母執行部では、本年もいろいろな重要課題を処理してまいりましたが、今後に残された課題も少なからずあります。担当役員すべて、社会のため、会員のために公に奉仕する心で事業の遂行にあたっておりますので、会員各位におかれましても、今後とも宣しくご理解、ご協力をお願い致します。
多事多難だった1998年も、残すところ僅かとなりました。来年も厳しい年になることが予想されていますが、21世紀に向けて少しでも明るい光を見つけたいものです。皆様にはご健勝で良い年を迎えられますよう心からお祈り申し上げます。