平成10年11月9日放送

 日母大会ワークショップ
  -産婦人科オープンシステムの可能性をさぐる-

 船橋市立医療センター副院長 清川 尚

 

第25回日母大会が10月24日、25日と三重県四日市市で開催されました。美し国伊勢の地で考えよう21世紀の母子保健というスローガンの基、北は北海道、南は九州沖縄まで全国各地から日母会員、ご家族関係各位が多数参集致しました。少子高齢社会における我々日母会員の役割が多いに問われる今現在、産婦人科病診連携、オープンシステムについてのワークショップが持たれました。

先ず、私、清川が基調講演として「病診連携15年間を振り返って」と題して話をさせて頂き、その後浜松医療センターの前田先生が産婦人科オープンシステムについての浜松医療センターでの取り組み方、また開業医の代表として地元で周辺の大きな病院との間で病診連携を実施している「のせ」産婦人科医院の能勢先生から体験を含めたお話がありました。私清川は15年間の病診連携、オープンシステムの体験談と今後の病診連携と産婦人科医療の行方について、お話させていただきました。

ご存じのようにわが国は世界に類を見ないスピードで高齢社会に突入しています。合計特殊出生率も1.37と最低の率となってしまいました。人口問題研究所の予測では日本の人口はあと100年で半減すると言っています。なぜ人口が減るのか、少子化の影響はすでに現れてきています。例えば、人口減少で不動産市場の崩壊、老人ホームになりつつある古い公団住宅、市街化調整区域内の農地のアパートは空き室だらけ、塾、幼稚園の生徒数の減少、教員のリストラ、女性の職場進出は人口減少の一要因とも言われています。

日母会員の高齢化もどんどん進んでいます。毎年約7000人の医師国家試験合格者が誕生しますが、産婦人科医をめざす若手医師はあまり増えていません。日本産科婦人科学会認定医制度委員会での調べでは、5年間の産婦人科臨床研修を受けた後、学会認定医試験の受験者、合格者は咋年は271名、本年度は315名です。7000名の内の300人前後ですので、産婦人科医の将来を心配しています。このような厳しい状況の中、我々母子保健医療に携わる者にとっても少子高齢社会の中での産婦人科医療のあり方を暗中模索しているといっても過言ではないでしょう。メディアの世界にも母子保健の情報の波は押し寄せています。

PREGNANCY IS SPECIAL : LET'S MAKE IT SAFE --- これは本年の「世界保健デー」の標語です。国内の標語は「母なる特別な時に健やかに……妊産婦死亡ゼロを目指して」です。わが国の妊産婦死亡数は1970年は1008名、1980年323名、1990年85名と年々減少傾向にありますがWHOが目指している目標にはまだ程遠い状態です。

私は船橋市立医療センターで母子救急体制の確立と妊産婦死亡ゼロを目指した病診連携を模索して15年が経過しました。船橋市立医療センター設立と同時に歩んだ15年間を振り返って、反省点と今後の産婦人科医療のあり方を述べさせて頂きます。

病診連携といいますと、すぐ病院のオープン化という議論がしばしば起きますが、単に病院の病床、医療機器の共同利用、院内カンファレンスなどをオープン化することが病診連携であると考えるのはあまりにも短絡すぎます。単なる医師同士の医療連携ということではなく、医療を受ける患者にとって、何がベストであり、何がベターであるかを基本的に考えなければならないと思います。1983年10月に船橋市立医療センターは高度医療、二次救急、病診連携の3本柱をメインとした207床の病院としてオープンし、同時に開放型病床が12床設置されました。医師会会員が主治医となり、オープンシステムとして運用され、その後すぐに開放型病院として厚生省の承認を受けています。1994年に増床を行い、現在は三次救命救急センターを併設した426床の臨床研修指定病院として、運営にあたっています。

船橋市医師会と船橋市がオープンシステムを設置するにあたっての覚書を昭和58年に取り交わしています。この覚書を尊重しながら時代にマッチするような運営方法を取り入れるために、年数回の医師会、医療センター運営連絡協議会を開催しています。

医師会員は医療センター登録医として、オープンシステムを利用できます。まず医師会員は利用にあたっては、顔写真入りのIDカードを使用して船橋市立医療センターに入ることができます。暗証番号とIDカードをコンピューターに入力しますと、ご自分専用の画面が出てきます。ご自分の患者がどの病室にいるかは、先生ご自身が画面を見ながら検索することが可能ですし、院内にあります病診連携室からの端末操作で薬剤、検査等のすべてのオーダが可能です。院外の医師が検査指示、薬剤処方にあたることにつきましては、船橋市の非常勤職員ということでクリアーすることが出来ました。オープンシステムを利用する登録医は医療センターの医師と主治医、副主治医の関係となり、一緒に診療にあたります。患者さんにとっては、船橋市立医療センターに入院しても、かかりつけ医が一緒に診療してくれますので、安心感と相互信頼感がより強くなります。もちろん患者の容態が改善方向に向かいますと、送って頂いた先生方の診療所に戻ることになります。

船橋地区産婦人科医会は船橋市、鎌ヶ谷市の35医療機関からなり、すべて日母会員です。日母会員は登録医として、患者搬入、紹介外来での医師自身でご自分の患者さんの診察を院内の医師と共同で行います。これは図らずも生涯研修の一環ともなっています。また登録医は開放型病院共同指導料、診療情報提供料の請求が可能です。また来院時には前段でお話しましたように船橋市の臨時職員という形でコストベネフィット的にも保障されています。

産婦人科病診連携15年間を振り返って、一番のメリットは医療事故の激減です。さらに妊産婦死亡がこの12年間ゼロになっています。開業医、勤務医との交流、相互信頼感の充実、実りの有る生涯研修、医療費の有効、効率的使用、病院と診療所の機能、役割分担の明確化が進んだこともメリットです。周産期、新生児の救急医療の対応は、現在高度に専門化された医療技術や、社会状況からみて、緊急事態を個人ですべてカバーすることは不可能に近いと思います。

このためにも病診連携、あるいは病院と病院、診療所と診療所との相互連携は必要不可欠なものであり、今後も重要性が増してきますが、連携のスムースな運営のためには日常診療における重篤な母体搬送の回避策ならびに母子救急事態発生時の初期対応のあり方が非常に大切です。常に搬送先との連携、お互いの信頼感を増すような努力が大切と思われます。

病診連携、開放型病院、オープンシステムの活性化の条件は、医師会員の要望と熱意、病院が地理的条件に恵まれていること。運営システムが利用しやすく安全なものであること。二次、三次の高度医療まで対応できる魅力ある病院であること、そして相互依存性があること、すなわち病院、医師会両方にとってメリットがあることに尽きると思います。

産婦人科医療ビッグバン、患者と保険者参加型の医療保険制度、病院・診療所の役割分担、地域参加型の病診連携、保健と医療と福祉の連携、介護保険制度の導入など21世紀の産婦人科医療は果たしてどのような方向に進むのでしようか?