平成10年10月26日放送

 第39回日本母性衛生学会の話題

 日本母性衛生学会会長 伊吹 令人

 

 平成10年10月1日(木)・2日(金)の両日,第39回日本母性衛生学会が群馬県前橋市のグリーンドーム前橋で開催された.本学会のメインテーマは『21世紀をみすえた女性一生の健康支援』とし,胎児・新生児から思春期,不妊症,妊産婦,中高年までのいろいろな話題を広く取り上げ,教育講演,スペシャルレクチャー,シンポジウム,ワークショップなどでカバーするように努力した.2日目は一般講演を口演(297題) 6会場とポスター(80 題) 3会場としたが,ポスターは本会では今回初めて採用したものである.

 教育講演I『女性一生の健康支援』は,いわば本学会の基調講演であり,厚生省,労働省などの行政,あるいは日本母性保護産婦人科医会などがどのように考え,今後どの様な施策を行おうとしているかを, まずこの3委員会の委員である日母常務理事の清川尚先生にその考え方を紹介して頂いた.最近若者の間に飽食の時代でありながらヤセ願望があることから,ダイエットについての正しい知識を持ちたいと神戸大学の望月真人名誉教授に『ダイエットの功罪』を,また最近大きな話題となったダイオキシンと母乳の関連については,厚生省のこの問題に関する委員会の委員長である多田裕先生に『母乳とダイオキシン』をお願いした.日本女性の寿命ののびは著しく最近13年間世界第1位を続けているが,老後を健康に過ごすことが日本人にとって最重要課題であると考え,群馬大学医学部産科婦人科の水沼英樹助教授に『健やかに老いる』と題して解説して頂いた.

 この同じ時間帯に第2会場で思春期の問題点を産婦人科医の立場から松峯寿美先生に,最近話題になっている不妊症治療と倫理について日本と諸外国の現状を群馬大学附属病院周産母子センター副部長の関守利先生に講演して頂いた.また,妊娠中の胎盤の重要性について細胞成長因子という観点から,学問的な話題として日本母性衛生学会幹事の石井明治先生が熱弁をふるわれた.

『お産の環境をつくる』では毛利種子先生が,プライバシーの意味とプライバシーが完全に保たれた状態を作ることが出産では重要であると豊富なスライドと共に強調され,会員一同感銘をうけた.鈴木こどもクリニックの鈴木洋先生は『母子健康手帳は貴重な成長の記録』で,わが国のものは非常によく出来ており,妊娠中の生活や栄養摂取に関する注意,子供が生まれてからは子供の生活,栄養,成長と発達,予防接種の記録まである最高の育児書ともいえるものであり,最近では日本語と外国語を併記したものも8種類作られているが,日本国民でもまだ十分に活用しているとは言えない状態なので,認識を深める必要があると結ばた.

最近日本でも急増している外国人女性の母子保健については,日本滞在の形態や生活の基盤も異なるために,一括して論ずることは難しく,背景に応じた個別の対策が求められていることを東京女子医大看護学科の李節子先生に教えて頂いた.

近年,急増している乳ガンは21世紀始めには,女性の癌の中で最も発生頻度が高くなると予想されている.

そこで,『21世紀は乳癌の時代』と題して群馬大学医学部の乳癌の専門家である飯野佑一教授に講演をお願いした.乳癌は早期に発見し,早期治療を行えば90%は治る癌である.最近は早期乳癌を中心に縮小手術が積極的に行われており,抗ガン剤や内分泌療法剤の進歩も著しい.しかし進行した乳癌を根治させる薬剤はないので,やはり早期に治療することが,美容面でも満足出来る根治手術が行われることになると結ばれた.

 8年間にわたり日本母性衛生学会理事長をお勤めになり,日本母性衛生学会総会の時には,必ずその年のトピックなどについて理事長講演を欠かさず行われ,平成9年10月に退任されて名誉理事長に就任された松本清一先生には,今回,特別講演『21世紀にむけて-母性のあり方-』をお願いし,来るべき新しい世紀の本学会に対する指針を示して頂いた.

 近年,女性の社会進出は目ざましく進行中の社会改革はまず女性がという意気込みで,特別講演『21世紀は女性が変える』を日本女性を代表してニュースキャスターの安藤優子さんに熱弁をふるって頂いた.

恒例の理事長講演は『産科の用語 特に胎児仮死について』として,適当な訳語のない胎児仮死等について日本産科婦人科学会用語委員長を勤められた岩崎寛和先生が解説して下され,日本母性衛生学会は種々な領域の専門家で構成されており,用語に関する共通の理解が重要であることを力説された.

 シンポジウムは『家族・性・暴力-健康支援の立場からその対応を考える-』とし,現在話題となっているいじめについても討論され,ユニークな企画として会員の勉強になり,好評であった.

 ワークショップIは『子育て支援元年』としたが,最近よく行われるようになった産後の訪問指導は主体が病院のこともあり,保健所など行政担当によるもの,開業助産婦によるものなどいろいろの形態があり,地域により種々の取組みがなされている.また病診連携の一種である病院と開業助産婦の連携システムも紹介され,会員のこれからの取組みに大いに参考になったものと考えられた.

 ワークショップIIでは『新しい避妊法』を取り上げた.避妊法は以前より種々考案されているが,安全・確実な避妊法はなく,低用量経口避妊薬は未だに認可されていない.女性に出来るだけ多くの選択肢から,自己にあった避妊法を選べるような機会を与えたいという願いからである.

 第2日〔10月2日(金)〕は9会場に分かれて一般講演を行なった.口演は第1〜6会場で持ち時間は8分(口演6分,質疑応答2分)とした.今回は80題をポスターとし,これに適していると考えられる演題を選考した.この内25題を会長賞の候補とし,第7会場で9時30分〜12時までに発表された.ポスターの発表時間は(口演3分,質疑応答3分)の6分であったが,すべて9時30分から16時までを展示時間としたので,興味ある演題はじっくり見て聞いて,交見も十分行うことが出来ると好評であった.カラー写真等,展示方法も工夫され,判りやすく,今後定着していくものと期待される.25題の会長賞の候補演題は,5人の先生方にレフリーをお願いして採点して戴き,得点順に6題を選出して,午後赤いバラをつけて展示した.全ての発表が終了した後に,6名の発表者に第1会場の壇上に上がって頂き,一人一人に表彰状と副賞をお渡しした.今回の日本母性衛生学会総会・学術集会は,一部新しい試みをいれて盛会裡に終了したことを報告し,今後益々の発展を期待したい.