平成10年6月29日放送

診療報酬改定の影響

日母産婦人科医会幹事 宮崎 亮一郎

98年・診療報酬動態調査は、モニター医療機関のご協力を得て、点数改定の年度毎に前年度3月分の点数と改定後の4月分のそれを比較検討したものです。これにより、点数改定の影響や項目別点数の動態を把握し、産婦人科診療報酬の適性化のための資料としたものです。

実際の改訂率についてですが、医療費ベースでマイナス1.3%とされ、その内訳は、点数改定(人件費・物件費の上昇への対応分)が1.5%アップ、薬価改定がマイナス2.7%、材料価格改定がマイナス0.1%といわれています。

・人件費・物件費の上昇への対応分(1.5%)は、
 初診料、再診療
 入院管理料、入院時医学管理料
 看護料
 各種指導料
 検査査判断料
 処方料、処方箋料、調剤料
 理学療法料、作業療法法料
 手術料
 老人保健施設入所者基本施設療養費
 訪問看護に管理療養費等の引き上げを行ったとするが、頻度の高い基本的な技術料は、据え置かれたこと。

「合理化」引き下げ分としては、マイナス0.7%とされるが、その内訳は、
 検査料・・・マイナス0.3%
 画像診断料・・・マイナス0.12%
 病衣貸与加算廃止・・・マイナス0.1%
 一般病院における入院6カ月超える高齢者の包括点数化・・・マイナス0.09%
 老人デイ・ケア料の算定制限・・・・マイナス0.05%
 平均在院日数の短縮による看護料削減・・・マイナス0.04%
と、「医療の質の向上」に振り向けたとしています。

では、実際産婦人科の診療にどのような影響が出ているかについての動態調査結果です。

診療所外来診療報酬点数新旧比較表は縦に診療区分、横に産科と婦人科、および合計として産科・婦人科を合算したものを記載しています。合計部分について説明させて戴きます。診察区分の診察料合計は、初診・再診・その他を合算したものです。診察料合計は、5.41%のアップ、婦人科のその他の合計がマイナス0.28%というのは、再診外来管理加算・特定疾患療養指導料以外の指導料でマイナスされたものです。これは診療所初診料が20点、再診療が4点引き上げられたことによるアップと考えます。投薬料合計はマイナス6.28%で、産科・婦人科両方でマイナスを示し、特に婦人科の率が低下しています。表には示しませんが麻薬毒薬内服薬剤以外、内服薬剤・外用薬共にマイナスを示しています。

投薬技術料合計は調剤料・処方料で著明に増加し、19.08%のアップになっています。注射料合計はマイナス4.6%で、注射手技料・点滴手技料は不変で、皮下注射薬剤、静注薬剤、点滴薬剤・材料分がマイナスの数値を示した結果です。処置料合計はマイナス1.15%で、処置料は不変、処置薬剤・材料がマイナスの要因です。手術料合計は12.51%アップになっています。手術麻酔料は11.69%アップ、産科手術麻酔薬剤・材料がマイナス8.53%、婦人科手術麻酔薬剤・材料が227.42%アップしています。その理由はラボナール系の点数アップによるものと思われますが、産科が何故マイナスを示したかは現在検討中です。画像料合計はマイナス0.88%で、画像撮影診断料は不変、フイルムがマイナス8.7%、画像薬剤・材料がマイナス3.96%となっています。

検査料合計は2.51%アップしています。しかし、検体検査はマイナス6.55%で、アップの要因は生体検査が9.09%、検体検査判断料が12.48%と考えられます。総計をみますと診療所外来診療報酬では1.67%のアップでした。

診療所入院診療報酬点数新旧比較につきましては、3月4月で婦人科入院を扱ったサンプル施設がなく、産科入院診療報酬点数が合計に反映されています。診察料合計が8%アップ、投薬料合計がマイナス5.06%で、これは内服薬剤・外用薬剤の低下によるものです。投薬技術料は66.67%アップ、これは調剤料のアップ分によるものです。注射料合計はマイナス6.41%で、これも薬剤・材料の低下によるものです。処置料は前年度と比較して不変でした。手術料合計は13.44%、手術麻酔料が13.13%アップ、麻酔薬剤・材料が253.57%アップしていました。検査料合計は3.77%で、生体検査13.73%、生体検査判断料10.62%のアップ分が、検体検査マイナス5.87%分を上回った結果です。入院料合計は2.05%アップ、医学管理料が2.52%アップしています。総計をみますと診療所入院診療報酬では5.25%のアップでした。

病院外来診療報酬点数新旧比較  診察料合計は、2.96%のアップで、再診療の点数据え置きによる、診療所の5.41%のアップ率にいたっていません。投薬料合計はマイナス5.76%で、診療所外来と同様に産科・婦人科両方でマイナスを示し、特に婦人科の率が低下しています。これは内服薬剤・外用薬のマイナスによるものです。投薬技術料合計は調剤料・処方料で著明に増加し、17.1%のアップになっています。注射料合計はマイナス6.12%で、注射手技料・点滴手技料は不変で、皮下注射薬剤、静注薬剤、点滴薬剤・材料分がマイナスの数値を示した結果です。処置料合計はマイナス2.17%で、処置料は不変、処置薬剤・材料がマイナスの要因です。手術料合計は14.86%アップ、これは手術麻酔料が13.0%アップ、手術麻酔薬剤・材料が222%アップによるものです。画像料合計はマイナス4.91%で、画像撮影診断料、フイルム、画像薬剤・材料ともにマイナスとなっています。検査料合計は3.05%アップしています。しかし、検体検査はマイナス8%で、アップの要因は生体検査、検体検査判断料の点数によると考えられます。総計をみますと病院外来診療報酬では1.37%のアップでした。

病院入院診療報酬点数新旧比較  診察料合計は8.7%アップ、投薬料合計はマイナス5.95%で、内服薬剤がマイナス6.11%、外用薬剤がマイナス5.06%と薬剤そのもののマイナス分が影響しているようです。投薬技術料は39.35%アップ、麻薬毒薬加算や調剤技術基本料は不変で、調剤料のアップ分が大きくこの数値を上昇させています。注射料合計はマイナス7.03%で薬剤料の低下にともなうものです。処置料合計はマイナス2.69%、処置料そのものは0.75%アップしていますが、処置薬剤・材料がマイナス13.21%とマイナスの大きな要因になっています。

手術料合計は10%アップ、手術麻酔料が10.71%アップしているのに対して、麻酔薬剤・材料がマイナス2.66%とアップ率を低下させる要因になっています。画像合計はマイナス2.23%、画像診断料がマイナス0.11%、フイルムがマイナス4.75%、薬剤材料がマイナス9.82%と、フイルム・薬剤材料がマイナス分の大きな要因になっています。検査合計は1.97%アップで、検体検査がマイナス4.96%、生体検査が6.64%アップ、生体検査判断料が12.04%アップと検体検査料の低下がアップ率を妨げています。入院料は3.17%、医学管理料合計は3.54%と両者ともにアップしています。総計をみますと病院入院診療報酬では合計が3.5%のアップでした。

以上の結果から、診療所外来診療報酬点数は1.67%アップで、これは昨年の0.76%アップに比較してもおよそ2倍のアップ率、診療所入院診療報酬につきましては、婦人科入院が3月と4月がなかったため産科入院のみで計算されていますが、5.25%アップで、昨年のマイナス4.6%に比較すれと相当な改善率です。病院外来診療報酬点数では1.32%のアップで、昨年の1.49%アップとほぼ同率、病院入院診療報酬点数は3.5%のアップで、昨年の3.04%アップに対してほぼ同率ののびを示しています。

したがいまして、医療費ベースでマイナス1.3%とされる今回の保険点数改定に対して、産婦人科での影響は比較的少ない数値として算出されました。その理由は人件費・物件費の上昇への対応分の1.5%アップ、特に、診療所・病院の外来で最も点数の占める割合の大きい検査料合計点数のうち、生体検査料・判断料アップ分が検体検査を上回ったこと、次ぎに大きなウエイトを示す診察料のアップが、投薬料のマイナス部分を打ち消していること、手術料のアップ等によるもので、さらに診療所・病院の入院に関しましても、入院期間が短い産婦人科疾患においては、その大きなウエイトを占めている入院料、入院医学管理料、手術料のアップ分が大きく反映され、薬価改定がマイナス2.7%、材料価格改定がマイナスス0.1%といわれ部分を帳消しにしていました。

しかしながら、物価や人件費の上昇分がこの上昇率と同様になるまでに至っておらず、他科に比較した場合、その影響は低いものであったものの、医療経営が厳しくなっていることに変わりありません。