平成10年6月1日放送

最近の周産期統計より

日母広報委員会副委員長 石井 明治

 5月5日「子供の日」の新聞各紙の第1面には、「こどもの数、戦後最低」という見出しがありました。中学生以下の子供の数が、昨年より33万人少ない9,918万人で、総人口に占める割合は15.2%と、いずれも戦後最低を更新したということです。少子・高齢社会を反映して、戦後初めて65歳以上の老年人口を下まわったことになります。諸外国と比較しても、日本の子供の、人口に占める割合は、イタリアの14.9%は上回っていますが、ドイツ、フランス、アメリカなどよりかなり低いのです。

 厚生省人口問題研究所の推計によりますと、現在、65歳以上の高齢者の比率は14.6%ですが、2010年には22.0%、2025年には27.4%、2050年には32.3%に上昇するといわれ、上昇のスピードは極めて早く、2020年代には世界最高水準になると予測されています。このような高齢化社会は先進国共通の問題です。急速な高齢化の直接的原因は、平均寿命の飛躍的上昇、団塊世代の高齢化、とくに結婚しない若者の増加、たとえ結婚しても子供を生まないカップルが増加したことによります。実際、女性は何歳で子供を出産しているのでしょうか。昭和50年(1975年)、60年(1985年)、平成8年(1997年)を比較しますと、第1子の出産年齢はそれぞれ25.7歳、26.7歳、27.6歳と1年ずつ年齢が上昇しています。

 本日は、厚生省統計情報部から発表された人口動態調査結果をもとに、次の6点についてお話します。

 第1点は合計特殊出生率について

 第2点は妊婦死亡率と周産期死亡率について

 第3点は自然および人工死産について

 第4点は児の出生体重と身長について

 第5点は複産 すなわち多胎について

 第6点は婚姻件数と離婚件数についてであります。

 まず第1点の合計特殊出生率についてです。日本の総人口は明治初期には3,500万人にも満たなかったのですが、その後増加し、大正をへて、昭和元年には6,000万人を越えました。その後、第2次世界大戦の影響もあって増加率はにぶりました。しかし、戦後のベビーブームといわれた、昭和25年すなわち、1950年には、人口増加率は過去最高の2.9%を示しました。人口総数としては昭和42年、1967年7月に1億人の大台にのり、昭和59年、1984年に1億2,000万人を越えました。

 さて、厚生省統計情報部から発表された平成7年度の人口動態調査によりますと、出生数は118万7,064件で、前年の平成6年に較べて、約34,000人の減少で、女性が生涯何人の子供を産むかを表す合計特殊出生率は1.42と史上最低を示しました。平成8年度は、出生数120万6555人、合計特殊出産率は1.43で、わずかではありますが、増加に転じました。しかし、平成9年度の出生数は119万人で、平成8年度の120万7,000人より1万7,000千人の減少、また出生率は人口1000対9.5となり、平成8年度の9.7を下まわり、依然として、低出生率時代が続くものと思われます。

 次に、第2点の妊婦死亡率と周産期死亡率についてお話いたします。出生数10万についての我が国の妊産婦死亡率は平成元年より10を下回り、平成8年では6.0で、我が国より妊産婦死亡率の低い国は、スイス、カナダ、スエーデン、ドイツの4か国だけとなっています。1980年の妊産婦死亡率は20.5、1996年は6.0ですから、16年間で約113に減少したことになります。しかし、直接産科的死亡は1980年も1994年も全妊産婦死亡数の90%を占めております。妊産婦死亡の原因としては、1980年では妊娠中毒症を含む高血圧が22.6%、これに分娩後異常出血、分娩前出血が続いております。1994年には単独で一番高い死亡原因は産科的肺塞栓症の23.7%で、これに分娩後異常出血と分娩前出血が続き、出血の合計は32.9%でありました。したがって、出血と産科的肺塞栓症による死亡に関する対策がこれからの最大の問題点となります。平成8年度の妊産婦死亡総数は72件(出生10万対6.0)で、前年の85件(7.2)に対し、13件の減少を示しております。

 次に、周産期死亡についてですが、我が国の周産期死亡率の改善はめざましく、1990年には11.1となって、20.2であった1980年の1/2に減少しました。さらに1991年には10を割って8.5となり、世界のトップレベルになったのであります。

 死亡原因としましては、児側の原因として、呼吸障害、未熟、感染、頭蓋内出血、また母体側の原因としては、妊娠中毒症、骨盤位を含む胎位異常、胎盤早期剥離、前置胎盤、高年初産、羊水過多、多胎妊娠、その他の妊娠合併症などがあげられます。

 平成8年の報告では、周産期死亡数は8,080件、出産1000対の周産期死亡率は6.7でした。その内訳は妊娠22週以後の死産数は6,333件、早期新生児死亡は1,747件で、前年より322件の減少でした。乳児死亡も前年に比して508件の減少を示しています。

 第3点は自然および人工死産についてです。平成8年の死産数は、自然死産18,000件、人工死産20,100件で、合計39,536件です。前年度に比べて約133件の微増です。人工妊娠中絶は減少の傾向がみられますが、20歳未満の人工妊娠中絶は約28,000件でわずかな増加傾向がみられます。

 第4点は出生体重と身長についてです。出生時の体重と身長の平均値は、平成2年度では男児平均出生体重は3.15kg、女児は3.06kgでした。また身長は男児平均49.6cm、女児は48.9cmと示されております。出生体重、身長とも、ここ10年間低下傾向が続いております。減少傾向の原因としましては、産科外来での厳重な栄養指導、妊婦の出産年齢の高齢化、出産頻度の低下により第1子が多くなったことや、多胎妊娠の増加にともなう早産頻度の増加なども考えられます。

 第5点は複産すなわち多胎についてであります。従来、双胎は80の分娩に1回、3胎は(80の2乗)の分娩に1回といわれています。しかし、現在では、補助生殖医療の進歩により、多胎妊娠の頻度が著しく増加してきております。厚生省心身障害研究班の、平成6年度研究報告によりますと、1980年前半から、多胎妊娠が増加し、1984年から10年間で多胎の発生頻度が、双胎で1.2倍、3胎で2.7倍、4胎で6.7倍、5胎で4.2倍になったといわれます。

 最近行われました、複産調査によりますと、三胎以上の多胎が、平成8年には分娩件数10万対33.0で、昭和49年の6.0に比較して、約5倍に増加していることが明らかになりました。

 第6点は婚姻件数・離婚件数についてであります

 婚姻件数は79万5,000組で、平成8年より3,000組の増加です。人口千対の婚姻率は6.4で変化はありませんでした。一方、離婚件数は20万6,000組で、平成7年度より8,000組の増加、人口千対の離婚率は1.66と組数・率ともに過去最高でした。

 以上のマトメとしまして、妊産婦死亡および周産期死亡の低下が報告されていますが、一方、出生数の大きな増加はみられておりません。若い人達が結婚出来るような、また妊娠して分娩、育児が出来るような社会ならびに経済環境の確立にむけての努力が必必要と思われます。