平成10年3月30日放送

平成9年度社保の動き

日母産婦人科医会幹事 秋山 敏夫

本日は、平成9年度社保の動きと題しまして、社会保険全般にかかわる幾つかの事柄を振り返ってみたいと思います。

最初は平成10年4月診療報酬点数改定に関する産婦人科の要望であります。

まず1番目は、「産婦人科診察料加算の新設」です。

産婦人科を専門とする医師が内診や腟鏡診を行った場合に、診察料加算が認められるよう要望しました。これは平成8年の改定時にも提出し、不採用になったものですが、各方面から要望が多くありましたので、再び要望の一番に押しました。

2番目は「特定疾患療養指導料対象疾患の追加」であります。

疾患には卵巣機能不全と卵巣機能欠落症、更年期障害を希望しました。

3番目は「産科手術点数の改定」であります。

緊急と選択の帝王切開、骨盤位娩出術、吸引娩出術、鉗子術、子宮頚管縫縮術、

流産手術と要望した全てが増額となりました。

4番目は「婦人科手術点数の改定と新設」であります。

点数の改定は子宮内膜掻爬術、子宮付属器腫瘍摘出術の開腹と腹腔鏡によるもの、子宮全摘術、卵管鏡下卵管形成術、子宮鏡下子宮筋腫摘出術、マンチェスター手術とノイゲバウエル中央腟閉鎖術であります。

このうち子宮鏡下子宮筋腫摘出術とノイゲバウエル中央腟閉鎖術の増額は認められませんでしたが、他の手術は各々増額致しました。

新設手術は腟断端挙上術のみ14000点で新設されました。

5番目は「同一視野において併せて行える手術の適応拡大」であります。

帝王切開時に子宮筋腫核出術、子宮付属器腫瘍摘出術、子宮付属器癒着剥離術、広靭帯内腫瘍摘出術を併せて行った場合と、腹腔鏡下腟式子宮全摘術に子宮付属器腫瘍摘出術、子宮付属器癒着剥離術、広靭帯内腫瘍摘出術を併せて行った場合100分の50の加算が認められるようになりました。

6番目は、「コルポスコピーの点数改定」であります。

これは130点から150点にわずか20点ですが増額となりました。

7番目は「分娩監視装置の適応拡大」であります。

「微弱陣痛に対する陣痛促進を行った場合」の追加を要望しました。

8番目は「赤血球不規則抗体を算定できる対象手術の拡大」

9番目は「人工羊水注入法(腹式、腟式)の点数新設と羊水穿刺の点数改定」であります。

このうち、人工羊水注入法は600点の点数が新設されました。

10番目は「特定注射薬剤指導管理料の適応注射品目の拡大」

11番目は「子宮卵管造影時の腔内注入手技料の点数改定」

12番目は「ヒューナー検査の点数改定」

13番目は「麻酔時の通則新設」

14番目は「生体検査判断料の適応拡大」

15番目は「エストロゲンレセプターとプロジェステロンレセプターの個別算定」

16番目は「細胞診検査の点数改定並びに迅速細胞診・特殊染色細胞診検査の適応拡大」

17番目は「新生児介補料の削除」であります。

 新生児介補料の問題点は健康な新生児を療養の給付の対象とすることや、基本看護料の分類により加算点数が異なるのこと、さらに、運用のトラブルがある等よりこの項の削除を要望しておりましたが、削除されず増額されました。

今までは、10〜13項目を要望しておりましたが、今回は今まで以上に要望を増やしました。これらは、日本産科婦人科学会との協議の上、日本医師会に提出しました。

詳細は次回お話させていただきます。

次は、日産婦と合同で行っている事業についてであります。

(1) 生殖補助医療について

 日母医報の本年2月号に不妊治療の保険収載についてと題し、日産婦と合同に、不妊治療の必要性、生殖補助医療の適応、保険収載の場合の点数等について、検討中であることを記事に致しました。今回の診療報酬点数改定では保険収載とはなりませんでしたが、日医にもその重要性を解説し、今後どのように取り扱っていけば良いか等、協議中であります。

(2) DRG/PPS

 DRG:Diagnosis Related Group 診断群別定額支払方式、PPS:Prospective Payment System 事前価格設定支払方式であります。所謂、医療の包括化、定額化であります。

 急性疾患は外来と入院とも出来高払いを原則とし、定型的な慢性疾患は入院後一定期間を過ぎたものを定額払いとする方法です。米国では保険会社が診断群毎に費用を提示しており、過剰検査・過剰治療に歯止めがかかるとされ医療費抑制には評価されています。診療面からすると医師の裁量の度合いが高まり、適切な診療が行われた場合に医療の質が向上するとされますが、粗診粗療の可能性と重症者の敬遠につながる可能性があります。既に国立系の十病院で試行されており、数年後に判断される予定であります。これらに関し、委員会のアドバイザーでも在られる松田先生を班長に日母と日産婦から委員を選出し診断群の選定作業を行っております。

(3) 研修医に対する保険指導

 昨年は医療費の高騰に端を発し、診療報酬の過剰請求、不当請求、一部の不正請求等が新聞に取り上げられました。日産婦の社保学術委員会では研修医に対する医療保険制度の仕組みや運営法、医師法や保険医療養担当規則の内容等の理解を深めることを目的に、日母と合同で学会誌の研修コーナーにこれらを解説することとしました。約1年間、総論・各論を毎月掲載致します。これにより医師となった早い時期から適正な保険診療が行えるよう指導していく予定であります。

(4) 分娩給付のあり方について

 昭和55年日母は「出産と給付のあり方」に関し、「妊娠・出産・育児について、一貫した高いレベルの現金給付を平等に施行しうることが真の母性福祉である」と結論付けました。最近少子化問題との関連で、分娩給付のあり方が再び問われています。日母としましても前に述べましたような、生殖補助医療やDRG/PPS等の問題から、いつ現物給付が浮かび上がるか判りませんので、委員の方々に給付のあり方に関し、地区やブロックで話し合って戴き、現物給付問題が持ち上がった時すぐさま対処できるようにしたいと考えております。

次は社保委員会における委員提出議題であります。

ブロック社保協議会や委員会で度々質疑のあった項目としては、1.HIV検査の術前検査としての可否。2.子宮頚管炎でのクラミジア抗体検査の可否。3.ITP治療における免疫グロブリンの取り扱い方。4.「子宮内膜症の疑い」病名でのCA125算定の可否。5.実日数1日で子宮内膜細胞診と子宮頚管細胞診の同時算定等10項目についてであります。詳細は日母医報に解説致しました。

 次は昨年新たに保険収載となった産婦人科関連検査についてであります。1.I型コラーゲンCプロペプチド精密測定、2.癌関連ガラクトース転移酵素 (GAT) 精密測定、3.抗カルジオリピン抗体精密測定、4.淋菌核酸増幅同定精密検査、5.HBc抗体精密測定であります。さらに4月より子宮頚管粘液中顆粒球エラスターゼ定性の保険収載も予定されております。詳細は日母医報に解説致しました。

以上が平成9年度の社保部の動きであります。平成10年4月には診療報酬の改定がありますので、さらに活発な活動を予定しております。ご支援の程宜しくお願い致します。