平成10年1月12日放送

「子宮がん検診の手引」改訂の要点

日母産婦人科医会幹事 大村 峯夫

 日母がん対策部では本年度の事業計画の重要項目の一つとして、「子宮がん検診の手引」の改訂を挙げておりました。平成7年度より関係各位の多大なるご協力を頂きました結果、昨年11月に行われました、平成9年度全国支部がん対策担当者連絡会に先だち、これを完成する事ができました。執筆していただきました先生方には、この場をお借りして深く御礼を申し上げます。

 各支部がん対策担当の先生方には、この連絡会にてご報告の上、お渡ししておりますが、1月には皆様のお手元にお届けする事ができると思います。

 本日はこの「子宮がん検診の手引」の改訂の要点などをお話しすることにいたします。

 まずご了解いただきたいのは、これはあくまでこの時点での合意事項をまとめたもので、必ずしも学問的に最先端を目指したものではない、つまり、臨床的に使いやすいことを最優先課題として、編集したものであるということをご理解いただきたいと思います。また、本部より、子宮がん検診の方法を統一するよう、指示しているものでもありません。各支部にはそれぞれの事情があると思いますので、この手引を参考にしていただき、各支部それぞれの立場でさらに検討を加えて、運用していただきたいと考えております。

 さて今回10年ぶりに「子宮がん検診の手引」の改訂に踏み切ったのは、子宮がん検診を取り巻く環境が、以前の「手引」発刊当時とは大きく変化しており、必ずしも実状と合わなくなってきていることが、その主な理由です。 

 子宮体がん取り扱い規約、子宮頚がん取り扱い規約の改訂が行われたこともその一つです。子宮体がん取り扱い規約は、平成8年に改訂されておりますが、今回子宮頚がん取り扱い規約も改訂され、昨年10月に発刊されております。それぞれ組織分類が変わってきておりますので、組織診断名をこれに従って記載しました。ただ、子宮頚がん取り扱い規約が発刊される前に、この手引を作成しました関係で、やむを得ずまだ案の段階の子宮頚がん病理組織分類を掲載したため、10月に発刊された「子宮頚がん取り扱い規約」と用語に若干の違いが生じております。皆様にお届けした「手引」には正誤表をつけておりますが、詳しくは金原出版発行の「子宮頚がん取り扱い規約」改訂第2版をご参照下さいますよう、お詫びとお願いを申しあげます。

 また、コルポスコピーの所見分類も平成6年に新しい分類、いわゆるローマ分類に準じたものになっておりますので、この解説も記載しております。コルポスコピーに関してはその基本的手技も詳しく解説しておりますので、いわゆる精密検査に使用する場合だけでなく、日常診療にも活用していただき、検診精度を上げていただきたいと思います。 

 また、近年HPVと子宮頚がん発がんの関係が、学問レベルで非常にはっきりしてきましたが、このことについても子宮頚がんの臨床と病理という項目で扱っておりますし、コルポスコピー所見の中では、HPV感染を示唆する所見として解説しております。

 また、検診の中心となります細胞診の項目は特にページ数を割いて、細胞診標本作成上の実際的手技、検診に際しての細かな注意点や、採取器具の紹介をいたしております。これに加えて、最近話題になっておりますアメリカで提唱された、ベセスダシステムについても解説しております。ベセスダシステムは今までのパパニコロー分類とは異なる観点から定められた基準で、細胞診の精度管理に問題があったことから生まれたものです。ここでは、今までの細胞診と違い、標本が判定に適しているか否かの評価から始まるのが特徴です。 ただ、現状では、日本産科婦人科学会の取り扱い規約上、ベセスダシステムを全面的に受け入れているわけではありませんし、日母でも従来の日母分類をベセスダシステムに切り替えるというコンセンサスが得られた、と云っているわけではありません。 しかしながら、商業検査施設の中には、既にこれに準じた細胞診検体の評価を取り入れているところもあるため、現場での混乱が起こる可能性が出てきました。 そのため、日母分類との整合性に関連して、ベセスダシステムも知識としては必要であると考え、記載することにいたしました。 これについては、本書の中でも触れておりますが、日本臨床細胞学会ベセスダシステム検討小委員会の作成した、報告書を参考にしていただきたいと思います。

 この他、子宮がん検診に際してのインフォームドコンセントの重要性についても触れております。

さて、各支部でも、いろいろな機会によく取り上げられている話題の一つに、検診の結果の取り扱いについての問題があります。

 これにつきましても、細胞診の精度管理、成人病検診管理指導協議会の活用、また、二次検診後の結果の管理については、異形成の管理、細胞診・組織診不一致例の追跡管理等の項目でその対応について述べております。

 また、子宮体がん検診の際の挿入不能例対策として、経腟超音波診断法を応用し、一定の内膜厚以上のものを高危険群として取り扱うなど、実際に即した方法を、子宮がん検診の問題点の項で取り扱い、記載しました。

 これもよく問題になることですが、検診受診率の向上対策です。各自治体により、受診対象者の算定が異なっていることが多く、必ずしも単純比較はできないようですが、受診率の伸び悩みはよく議題にあがります。実際に各支部でもこれに関しては大変苦労しておられますし、監督官庁の異なる職域検診等、実態のつかみにくい問題が絡んでおりますので、ここで特別な打開策を提示しているわけではありませんが、多少でもヒントになればと思います。

 また、老健法では30歳以下の若年者に対する検診は行われておりませんが、子宮がんの若年化に関しては、各研究者の指摘するところですし、これから大きな問題になるだろうと思われます。これに関連して、妊婦に対する検診についても、その頻度や注意点について触れております。

さらに、自己採取細胞診に関する話題にも言及しております。もちろん、臨床細胞学会でも自己採取細胞診をを推奨してはおりませんし、むしろ特殊な検診法として取り扱うべきで、信頼性にいろいろ問題はある検査法ですが、厚生省が認可した検査器具でもあり、職域検診において結構使われているという報告もありますので、日母としてこれを完全に否定した記載にしますと、医療訴訟にも絡みかねないことを考慮して、ややトーンダウンした論調になっていることをお含み置き下さい。

 また、これも問題になりやすいところですが、子宮がん検診と保健診療についても解説してみました。もちろん検診は保険診療の対象とはなりませんが、ここでは特に自覚または他覚症状等より子宮がんを疑って、保健診療で子宮頚がん検査と子宮体がん検査を同時に施行した場合などについて述べております。

 以上、今回改訂された主な点について簡単にご説明いたしましたが、各会員の先生方におかれましては、この本をよりよい子宮がん検診をすすめるための参考としていただき、それぞれの立場で有効に運用されますよう、お願い申しあげます。