40.ジャンプアップ16(隠されていたリスク)

 今回も前回と似た少し悩ましいCTGをご覧いただく(図説CTGテキスト アドバンス,メジカルビュー社から引用)。

1.判読してください(図1)

 34歳、1妊0産。妊娠32週より不均衡型FGR(-2.5 SD)にて管理入院中のケースである。

 FGRの管理で重要なことは、原因検索に加え胎児機能の評価で、安心できる状態(RFS)かどうか判断することである。均衡型であれば、先天異常、母子感染などをスクリーニングし、不均衡型であれば、胎盤機能不全に伴う低栄養、すなわち低酸素状態を疑う。いずれの場合も、胎児心拍数モニタリングに加え、Biophysical Profile Score (BPS)胎児血流計測などを行い、胎児機能評価を行う。

 このケースは不均衡型で、感染症など明らかな原因は不明であった。

 妊娠35週のルーチン検査で異常波形が出現し、再検査が行われた。

 判読は?

2.判読と対応(図2)

 ルーチン検査では、心拍数基線は150bpm、基線細変動は10bpm、軽度遷延一過性徐脈(レベル3)が出現している。心拍数の変動は急速で、圧変化による変動一過性徐脈が遷延している。ただし、(↓)の部分に弱い子宮収縮があり、遅発一過性徐脈が出現する部位でもある。

 再検査でも、心拍数基線(140bpm)と基線細変動(10bpm)に異常はないが、ルーチン検査とよく似た軽度遷延一過性徐脈(レベル3)が出現していた。

 この後、一過性頻脈は回復し、一過性徐脈の出現はなく、現場は慎重に経過観察することにした。

3.翌日のCTG(図3)

 翌朝、35週であったが、陣痛が発来した。子宮収縮はまだ弱いが、その際のCTGを示す

 判読し、対応してください。

4.アドバンスな判読と対応(図4)

 心拍数基線140bpm、基線細変動10bpm、一過性頻脈はない。レベル1と読み飛ばしてしまうかもしれないが、CTGマイスターを目指すあなたなら気づいて欲しい。

 規則的な子宮収縮(↓)後に基線細変動が増加するHARADAの波がある(ジャンプアップ1参照)。さらに、基線細変動増加後(↑)、心拍数がわずかに増加している。この変化はオーバーシュート(Overshoot)と呼ばれ、一過性徐脈後に出現することがあり、直前に低酸素ストレスが胎児に及んだ可能性を示唆する所見である。

 一過性徐脈こそ認めないが、CTGマイスターならその予兆に気づいて欲しい。

5.状況再確認と対応(図5)

 現場では状況の再確認が行われた。児発育は3週間近く滞っている(図5左)。35週に入っていることと、陣痛発来に際し、RFSと判定できないことを考慮し、帝王切開が行われた。

 娩出された胎盤を見てビックリである。著明な副胎盤とそこを横切る弱々しい血管が確認された(図5右)。児は1350gでNICU管理となったが健常で、娩出胎盤(隠されていたリスク)を見てホッとしたケースであった。