35.POPとCOC?

 最近は論文執筆や学会発表など、いわゆる学術的な活動を避けてエキスパートの先生方による講演の座長等をすることにかまけているこの頃です。そのようななかでウェビナー(ウェブ講演会)の発信側のお手伝いをしていますと、ある大きな発見をしました。

 「皆さまの想像をはるかに上回る多くの先生方が、ウェブ講演会を熱心に聴講・質問されている」ということです。ウェブ会議で自分の番が回ってこないとダラダラしながら聴いている自分とは大違いです。とはいえ、自分も中高生時代はガリ勉して医学部受験をくぐり抜けてきたことから、医師である先生方の大半は人知れず勉強するのが大好きな超勤勉な集団と推察しています。
 穿った見方かもしれませんが、そういえば最近は学会の書籍コーナーで本を買っている先生が少なくなった印象があります。立ち読みした後にネットでひそかに購入されるシャイな先生方にとって、聴き慣れない最近の医学用語は大変刺激的で勤勉欲をそそられると思いますので、今回のタイトルにしてみました。

 さて、POPとは、プロゲスチン単剤経口避妊薬(progestin-only pill: POP)のことで、2025年6月に国内で初めてのPOPであるスリンダ®錠28が発売されました。
 世界で最初の経口避妊薬として発売されたのが1960年ですが、1972年には既にPOPが海外で発売されていて、ミニピルとも呼ばれています。
 POPの利点として、従来のピルにおけるエストロゲン含有による副作用リスクを回避できることがあります。すなわち、嘔気や浮腫だけでなく,血栓塞栓症や心臓・脳血管障害リスク等を回避できることから、40歳以降や肥満、高血圧、喫煙、片頭痛等のリスク例に対して処方しやすい点にあります。
 避妊効果は,使用開始後1年以内に意図しない妊娠を経験する女性の百分率とするパール指数で0.39と従来の低用量ピルよりは若干高いですが、子宮内避妊具であるIUDよりは低値とされています。
 スリンダ®錠に含まれるプロゲスチンは第4世代プロゲスチンのドロスピレノンですが、1錠中の含有量は4mgとLEP製剤として市販されているヤーズ®やドロエチ®(1錠中の含有量は3mg)と比較して高用量です。また、MPA(メドロキシプロゲステロン、プロベラ®、ヒスロン®など)と違い血栓塞栓症や脳血管障害、心筋梗塞既往は禁忌となっていません。
 POPの欠点は,月経周期が若干不規則になり,点状出血に代表される予測しえない少量の子宮出血を認めることがあります。

 次に、COCとは、混合型経口避妊薬(combined oral contraceptives:COC)のことで、従来のピルを指します。単にPOPが国内発売されたのでPOPと区別するために使っているだけです。国内で現在販売されているCOCは全てエチニルエストラジオール(EE)の1錠あたりの含有量が0.03mgまたは0.04mgの低用量ピルのみとなっています(表)。

COCの種類:3相性、製品名:アンジュ®、トリキュラー®、ラベルフィーユ®、内服方法:① → ② → ③ の順で 21日間内服後に 7日間休薬または偽薬、1錠中の含有量(mg):① EE: 0.03 + LNG: 0.05 6錠, ② EE: 0.04 + LNG: 0.075 5錠, ③ EE: 0.03 + LNG: 0.125 10錠。 COCの種類:1相性、製品名:マーベロン®、ファボワール®、内服方法:④ を21日間内服後に 7日間休薬または偽薬、1錠中の含有量(mg):④ EE: 0.03 + DSG: 0.15 21錠。 凡例:EE:エチニルエストラジオール、LNG:レボノルゲストレル(第2世代プロゲスチン)、DSG:デソゲストレル(第3世代プロゲスチン)。

 避妊効果は1相性と3相性で大きな違いはありませんが,3相性のCOCは自然なホルモン変化に類似した配合により不正出血が少ないとされています。
 ちなみにEEの1錠あたりの含有量が0.03mg未満の製剤を超低用量ピルと呼ばれ、ルナベルULD®,フリウェルULD®,ヤーズ®,ドロエチ®の商品名で販売されていますし、最近ではエストロゲン活性の低いエステトロール(E4)を含有するアリッサ®が販売されていますが、これらはいずれも避妊に関する国内臨床試験は行われておらず、避妊の適応が無いLEP製剤として販売されています。

 経口避妊薬処方は自由診療であることもあり,オンライン診療の普及で経口避妊薬導入の敷居が低くなることは好ましいと思いますが、対面・オンライン診療に関わらず注意深い問診等によって、不正性器出血や血栓塞栓症等の副作用チェックをはじめとする服薬継続に関する管理は一層重要になってくると思います。

2025年10月29日作成