33. あなたは局麻せずに子宮を鉗子で把持していますか?
産婦人科ゼミナールも2025年度になり新企画が登場しました。これまで日本産婦人科医会報の学術欄の記事が、この産婦人科ゼミナールにも掲載されることになりましたので、下記サイトをご覧になってください。
https://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2025/03/JAOG-News-No882.pdf
https://www.jaog.or.jp/lecture/%e7%ac%ac%e4%b8%80%e5%9b%9e/
さて、この記念すべき第1回の学術欄掲載記事は、竹田省順天堂大学名誉教授が執筆された「産婦人科診療で患者を痛がらせないことの重要性とそのコツ~産婦人科外来診療・小手術時の麻酔のポイント~」です。
著者の竹田先生は、MVAキットを国内導入にあたり海外文献を調べられて、産婦人科診療における疼痛対策に関する国内外の差に愕然とされたようですが、そういう自分も30年以上産婦人科診療をやってきて竹田先生のこの記事を目にするまで全く意識しておらず、竹田先生以上に愕然としたと感じています。ぜひ、先生方にも上記サイトから竹田先生の記事を読まれることをお勧めします。
そこで、私は竹田先生の記事を拝読してからは、
鉗子で子宮を把持する際には、原則全例に局所麻酔をする診療方針に変更しました。
例えば、ミレーナ挿入は腟部に23Gのカテラン針で局所麻酔した部位を、細い塚原鉗子かマルチン鉗子で子宮を把持してから挿入しています。傍頸管ブロックも併用しますが、挿入後に疼痛がある際には、NSAIDs坐薬を追加しています。麻酔の副作用を気にされる先生方もいらっしゃるとは思いますが、1%リドカインで10ml以下なら全量血管内に入っても局麻中毒になる量ではありませんし、むしろ子宮把持鉗子を穏やかに牽引することが、徐脈や低血圧等による気分不良を回避できる確率が高いと考えます。
へガール拡張器だけでなく、ダイラソフト、ラミセル等を用いた頸管拡張処置は、産科診療において頻用されている延長から、私はTCR前の処置等でも無麻酔で処置していましたが、反省してミレーナ挿入と同様に局所麻酔を行っています。
余談ですが、掻爬法による流産処置を強硬に非難される方から、「自分は頸管拡張処置の疼痛で大変辛い思いをした」話を伺ったことがありました。現在の流産処置は術前の頸管拡張処置はほぼ不要なMVA法が主流とはいえ、疼痛対策が十分であったならば海外と比較して合併症率の低い国内の掻爬法による流産処置が非難されることはなかったのかもしれません。
「掻爬法による流産処置が必要となるケースは今後なくならない」日本産婦人科医会の見解は今後も変わらないからこそ、頸管拡張処置における疼痛対策は必須と考えます。
一番悩ましいのは、子宮内膜細胞・組織採取です。
特に子宮内膜細胞診は頸部細胞診と比較して出血や疼痛の訴えが多い割には、十分な検体量を採取困難なケースも多く、海外ではあまり普及していないことから経腟エコーで内膜を観察することで代用している先生も多いと思います。
自身の診療では、経産婦等で簡単にソフトサイトやエンドサイト、吸引ピペットが挿入できる場合には現在も無麻酔で施行していますが、子宮を鉗子で把持してゾンデ診から始める場合には、局所麻酔をしてから行うことに変更しました。
検診センター等では、検査後の出血や疼痛の訴えを回避するために内膜細胞診を施行しない施設が多く、最近のオフィスギネコロジー主体の施設では、トラブル回避で子宮内膜細胞診すら行わない先生方もいらっしゃるようです。
不正子宮出血の診断において子宮内膜の細胞・病理学的検索は、エコー等の画像診断では代えられずに必須な場合が少なくありませんので、上記のような疼痛対策を十分に配慮して検査をためらわないことをお勧めします。