15.日帰り腹腔鏡下手術②

卵管閉塞、多嚢胞性卵巣症候群に対して当院で行なっている日帰り腹腔鏡下手術について解説する。

1.卵管遠位部閉塞
卵管遠位部閉塞に対しては癒着の程度が軽度であれば腹腔鏡下卵管形成術(卵管采形成術・卵管開口術)が有効である。卵管采の閉塞では開口部と思われる部分を切開し、卵管采を翻転、再癒着を防ぐため5‐0吸収糸で卵管漿膜と縫合する(図1。)

図1 卵管形成術

当院では機能回復可能と判断した症例に対しては腹腔鏡下卵管形成術を行なっている。卵管留水症は卵管貯留液による胚毒性・子宮内膜の着床能の低下によりARTの妊娠率を低下させることが知られている。卵管切除術や卵管閉塞術により、卵管留水症を認めない群と同程度まで術後のARTの妊娠率を回復させることができる(1。)コクランレビューでも胚移植の前に卵管留水症の手術を検討すべきであると記されている。

2.卵管近位部閉塞
卵管近位部閉塞に対しては卵管鏡下卵管形成術(falloposcopic tuboplasty:FT)又は子宮鏡下卵管疎通術が有効である。FTは外来手術として実施可能で85%の症例で卵管疎通性の回復を得られる。主として日本で行われている術式である。一方子宮鏡下卵管疎通術はASRMのcommittee opinionにおいても有用な方法として紹介されている(2。)子宮鏡下に卵管口にカテーテルを挿入後、ガイドワイヤーを卵管峡部に数㎝挿入して閉塞部位を解除する(図2。)

図2 卵管疎通術

当院では腹腔鏡下のモニタリング・鉗子による誘導によって卵管穿孔を予防している。メタアナリシスによると両側近位部閉塞に対する子宮鏡下卵管疎通術により85%の症例で卵管疎通性の回復が得られている。当院では腹腔鏡検査とFT又は子宮鏡下卵管疎通術を組み合わせて施行しており、近位部閉塞及び卵管采周囲癒着が併存する場合にも同時に治療することが可能である。

3.Polycystic ovary syndrome (PCOS)
腹腔鏡下卵巣多孔術はクロミフェン抵抗性のPCOSに対して有用である。産婦人科診療ガイドライン2017年でもゴナドトロピン療法とならんで推奨されている。多孔術により術後の排卵率・妊娠率が上昇する。作用機序は明らかになっていないが、術後排卵率30-90%、妊娠率60%と報告されている(3。)当院では針状モノポーラを用いて両側の卵巣に約20-40 ずつの開孔術を実施している(図3。)

図3 卵巣多孔術

卵巣内の小卵胞に到達して卵胞液が流出する程度の深さでの開孔が必要である。

4.当院の成績
当院で2011年から2016年までに実施した1820例の腹腔鏡下手術の統計を図4に示す。

図4 当院の日帰り腹腔鏡下手術

腹腔鏡検査が47%と最も多く、卵管疎通術(腹腔鏡検査に加えて卵管近位部の閉塞解除を行なった)が次に多い。異所性妊娠手術は未破裂の卵管妊娠に対して卵管線状切開術を中心に行なった。
当院で施行した日帰り腹腔鏡下手術1820例中、術後出血に対して再手術を要した症例が3例(0.15%)認めた(表1)。

1 合併症の頻度

術後出血の経過観察目的で他院に搬送し入院管理を要した症例は6例(0.33%)、術後感染は1例(0.05%)であった。再手術例3例中2例が子宮内膜症・1例が卵管采周囲癒着の症例であった。子宮内膜症症例は特に術後出血への注意が必要である。

引用文献
1 Strandell A, Lindhard A, Waldenström U, Thorburn J, Janson PO, Hamberger L.
Hum Reprod. 1999 Nov;14(11):2762-9. Hydrosalpinx and IVF outcome: a prospective, randomized multicentre trial in Scandinavia on salpingectomy prior to IVF.

2 Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine.
Fertil Steril. 2015 Jun;103(6):37-43. Role of tubal surgery in the era of assisted reproductive technology: a committee opinion.

3 Fernandez H, Morin-Surruca M, Torre A, Faivre E, Deffieux X, Gervaise A.
Ovarian drilling for surgical treatment of polycystic ovarian syndrome: a comprehensive review. Reprod Biomed Online. 2011Jun ;22:556-68