11.それは正常所見です!(初期)

妊娠初期の超音波検査では、正常な場所に妊娠しているか、胎児(胎芽)が生存しているか(流産していないか)の確認がなされます。昨今の解像度の良くなった超音波機器では、妊娠初期からかなり細かい胎児の形態も観察可能であり、いろいろなものが見えてしまいます。まだ発育途中である胎児の特徴を知らないと、異常と判断してしまう場合があります。

妊娠5週の胎児徐脈?
胎児心拍を確認できるのは、早ければ妊娠5週のはじめ,遅くとも6週末には全例に確認できます。ただし、心拍数は妊娠5週に90~100bpmで始まり,8-9週までほぼ直線的に増加してピークを示し、妊娠9週以降漸減します。よって、胎児心拍の見え始める妊娠5週では、心拍数が徐脈(よくみる中期以降の正常値の110bpmよりも緩徐)であることもあります。ですので、徐脈だから流産しかかっているとか、間違った判断をしないようにしましょう。

妊娠8週の頭部嚢胞?
妊娠7-9週には、菱脳の形成過程で後頭蓋窩に嚢胞状エコーが描出されます。これはのちに第四脳室、脳幹、小脳へと分化していく部分で、正常所見です。水頭症などの異常所見ではないので注意が必要です。

妊娠10週の腹壁破裂?
正常胎児では、妊娠8週初めごろより、胎児の腸管が臍帯の胎児の起始部に入り込む現象があり、生理的臍帯ヘルニアと呼ばれます。妊娠10週にかけて、超音波検査では生理的臍帯ヘルニアが、隆起や塊のように描出されるため、胎児側の臍帯付着部が太く見える場合もあります。これは、発生過程でみられるもので正常所見です。正常であれば7mm以上に大きくなることはなく、妊娠11週の終わりには腹腔内に還納されるといわれています。逆に、頭殿長が45mmより大きい胎児で生理的臍帯ヘルニアは観察されませんので、それ以上の児で臍帯付着が大きい場合は精査が必要になります。

妊娠10週の後頸部肥厚?
妊娠10週前後で、特に矢状断面で、胎児の背側の頸部が肥厚や腫脹しているように感じることがありますが、その時期には正常とも異常とも判断できないので、安易な説明は避けて、経過観察することも重要なことです。
妊娠3カ月頃には、胎児のリンパ流の未熟性などから、正常の胎児であっても後頸部の皮下が一次的に肥厚することが知られており、肥厚の有無によらず、胎児の後頸部の厚みをNuchal Translucency (NT)と呼び、ダウン症などのスクリーニングに利用されることが知られています。
しかし、これは妊娠11-13週の間でしか評価できないものなのであることと、事前の遺伝カウンセリングの後に評価されるべきものであるので、ましてや妊娠10週では気にしない、他の流産になるかも?と思うような所見と同様に取り扱うのが望ましいです。