1. スタートアップ1(心拍数の調節)

スタートアップ1(心拍数の調節)

出産は胎児にとって、人生初めての旅です。胎児心拍数陣痛図(cardiotocogram:CTG)は唯一、旅の間の胎児の情報を与えてくれるツールです。このコースで、判読力に磨きをかけCTGマイスターを目指してください。スタートアップは基礎的で退屈かもしれません。しかし、ここに示す心拍数の調節原理は後の判読に欠かせないものです。さあ、スタートしましょう。全48回、CTG48のはじまりです。

なお、このスタートアップ編はメジカルビュー社発行の「図説CTGテキスト」を参考に構成されています。

1.CTG、CST、NSTとは?(図1)
CTG、CST、NSTとは?

  • CTGは胎児心拍数と子宮収縮の連続記録
  • CSTは子宮収縮薬により陣痛を再現するテスト
  • NSTは陣痛(子宮収縮)がない状態の心拍数記録

CTGは陣痛開始後の胎児心拍数陣痛図を指し、子宮収縮を認めないものはNSTと呼ばれる。

2.胎児心拍数の調節

  • 延髄(心臓血管中枢)の働き(図2)

延髄(心臓血管中枢)の働き

延髄は循環の中枢はじめ、呼吸、嘔吐、嚥下、消化などの中枢を含み、生命維持に不可欠な機能を担い、その一つが心拍数の調節である。

心臓(心筋)には自律的に拍動する能力があるが、延髄の心臓血管中枢が自律神経を介してその調節を行う。自律神経には交感神経と副交感神経があり、心臓調節中枢は状況に応じ、双方の自律神経を介して、心拍数と血圧を変化させ、循環動態の安定化を図る。

  • 自律神経(交感神経と副交感神経)の働き(図3)

自律神経(交感神経と副交感神経)の働き

交感神経繊維は星状神経節を介して、主に心室に分布している。心臓血管中枢からの刺激を受け、心拍数を増加させる。神経伝達物質はノルアドレナリンで、心拍数の増加に加え、心臓(心筋)の収縮力を強め、血圧を上昇させる。

副交感神経繊維は洞房結節、房室結節に分布している。心臓血管中枢からの刺激を受け、心拍数を減少させる。神経伝達物質はアセチルコリンで、心臓(心筋)の収縮力を弱め心拍数を減少させ、血圧を低下させる。心臓など胸腹部に分布する副交感神経繊維を迷走神経繊維と呼ぶ

交感神経と副交感神経の相互の働きを協関作用と呼び、その生理的なゆらぎが、CTGで確認される心拍数基線細変動の発生要因となる。

  • センサー(化学受容器と圧受容器)(図4)

センサー(化学受容器と圧受容器)

身体には自律神経システムを作動させるセンサーがある。

化学受容器(chemoreceptor)は頸動脈(頸動脈小体)と大動脈(大動脈小体)に存在し、酸素分圧の変化(低酸素状態やアシドーシス)を感知する。化学受容器の興奮(インパルス)が延髄の心臓血管中枢に異常を知らせる。

圧受容器(baroreceptor)は頸動脈(頸動脈洞)と大動脈(大動脈弓)に存在し、血圧変化に対して強力な調節作用を持つ。圧受容器の興奮はインパルス(活動電位)として心臓調節中枢に伝わる。

低酸素状態や急激な血圧増加は、臓器の傷害を招く。化学受容器と圧受容器はともに頸動脈と大動脈に存在し、これらの変化からバイタルオルガンである心臓と脳を保護しているのである。

  • センサーと自律神経機能の働き(図5)

センサーと自律神経機能の働き

低酸素状態になると化学受容器が感知し、心臓調節中枢にインパルスを送り、心臓血管中枢は交感神経を介して、心拍数、血圧を増加させる。少しでも多くの酸素を臓器に提供しようとする。

一方、急激な血圧増加は、脳や心臓の血管傷害を引き起こすが、それを防ぐため圧受容器が働く。血圧が急激に増加すると、圧受容器がその異常を感知し、心臓血管中枢にインパルスを送る。心臓血管中枢では副交感刺激を介し心拍数を減少させ、血圧を下げることで臓器を保護しようとする。いわゆる迷走神経反射である。

胎児の心拍数はこれらの作用により変動する。CTG波形をみて、判読に迷ったら、低酸素か?圧変化か?あるいは双方が混在しているのか、必ずここに戻って考えていただきたい。