■ 劇症型A群溶連菌感染症による妊産婦死亡報告の増加傾向に対する注意喚起(2024年4月)

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A群溶連菌(GAS)感染症は、しばしば上気道炎や化膿性皮膚感染症などの起因菌として認められる。小児に広く蔓延することの多い感染症の猩紅熱も本症のひとつである。GAS感染症は極めて稀であるが劇症化することがある。劇症型A群溶連菌感染症はStreptococcus pyogenesによって発症し、streptococcal toxic shock syndrome ;STSSなどの重症の敗血症を引き起こす。免疫不全などの重篤な基礎疾患がなくても突然発病する例があり、妊産婦はリスクファクターのひとつでもある。初期症状としては四肢の疼痛、腫脹、発熱、腹痛などの一般的な感冒様症状で始まることが多く、他の上気道感染症との臨床上の鑑別は難しい。劇症型GAS感染症は、発病から病状の進行が非常に急激かつ劇的で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固症候群、多臓器不全を引き起こして、ショック状態となる。死亡例では初発症状から24時間以内の経過であることが多い。

本症は、子供のいる家庭(経産婦)に多いことも知られているので、妊婦の背景も重要である。妊婦が劇症型GAS感染症に罹患すると、子宮収縮が著明となり子宮内胎児死亡、流早産に至ることが多い。腹部症状が先行することもしばしばあり、子宮収縮や出血、流早産、子宮内胎児死亡で本症を疑うことも重要である。

妊産婦死亡報告事例の中でもほとんど毎年死亡例が報告されていたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴った感染予防策としてのマスク着用や消毒、手洗いの励行などから、本症による妊産婦死亡の報告が皆無となっていた。しかし、2023年5月より新型コロナウイルス感染症が感染症法の5類に分類されたことを受けて、感染対策が緩和された。これに伴って本症は、これまで以上に増加しており、妊産婦死亡例の報告も増えてきている。

 

そのため、いまいちど本症の存在を念頭において診療にあたり、可能性のある患者には積極的に簡便なスクリーニング法(Centor criteria)、簡易迅速検査(A群溶連菌感染症の疑いで保険請求可)を行う。また、妊産婦はハイリスクと考えて、疑わしいときは抗菌薬の予防投与を行うことが推奨される。簡易迅速検査は、口蓋・扁桃・咽頭後壁の発赤部を綿棒で数回擦過し採取するが、臨床的にGAS感染症が疑われる場合は迅速検査の結果によらず抗菌薬の処方を開始する。GBSのスクリーニングのための腟分泌物培養でStreptococcus pyogenes が検出された場合も予防的抗菌薬の使用が推奨される。

また、敗血症を見逃さないための簡易評価としてのqSOFA基準(意識変容、呼吸数≧22回/分、収縮期血圧≦100mmHg、これらの2項目以上が存在する場合は敗血症を疑う)を用い、高次施設での集学的治療を開始する。「母体安全への提言」なども参照するとよい。

 

【A群溶連菌感染症の外来処方例】
アモキシシリン(パセトシン®、サワシリン®など)750~1500mg 分3 10日間
セファレキシン(ケフレックス®など)1000mg 分4 7日間

【劇症型A群溶連菌感染症の治療例】
ベニシリンG400万単位4時間毎 +クリンダマイシン900㎎ 8時間毎 点滴静注
(βラクタムアレルギー患者に対して)バンコマイシン1g 12時間毎、もしくは
ダプトマイシン6mg/kg 24時間毎 点滴静注
いずれの治療も菌血症のある患者では最低14日間投与を継続する。