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(2003.12*up)

新生児聴覚スクリーニングにおける
false negative(異常の見逃し)について


 聴覚障害児およびその家族に対して早期支援をおこなうことの重要性から、新生児期聴覚スクリーニングが普及されてきている。今回、母子保健委員会において、東京女子医科大学の三科潤助教授に本スクリーニング検査におけるfalse negativeについて解説していただいたので報告する。

  1. 自動聴性脳幹反応(自動ABR)におけるfalse negative
     音に対する聴性反応の電気生理学的検査であり、自動ABRとして頻用されているアルゴ2の理論的な感度は99.96%なので、理論的にfalse negativeは存在する。これは日本の全出生児に実施した場合、3年間に1人の見逃しに相当する。
     厚生労働科学研究班での2万例の追跡調査ではfalse negativeは発見されていない。
     また、アルゴを用いて州全体のスクリーニングをおこなっている米国コロラド州でも5年以上にわたってfalse negative例はないとのことであった。 

  2. 耳音響放射(OAE)におけるfalse negative
     OAEは内耳機能を検査する方法であるため、内耳より中枢側の聴神経などの障害による難聴(後迷路性難聴Auditory Neuropathy)をとらえることは出来ない。Auditory Neuropathyの発生頻度や病態は未だ明らかになっていないが、サイトメガロウィルス感染症などのハイリスク児に発生することが殆どで、正常児には稀な疾患とされている。聴覚障害の程度は様々であり、また、変動もする。発生頻度は、聾学校の生徒の約1割とする米国からの報告があり、岡山カナリヤ学園でも3例発見されたが、在園の難聴児の約1割であり米国と同様の頻度と考えられる。
     上記の理由から、OAEはローリスク児に対するスクリーニング検査に用いることが望ましい。
     現在、米国のスクリーニングにおいても、約60%以上はOAEを用いて行なわれている。

  3. 新生児聴覚スクリ−ニング検査のfalse negative
     新生児期には聴覚が正常であっても、発育過程で遅発性難聴などによる難聴が出現してくる可能性があり、例えば、新生児聴覚スクリ−ニングにパスした例が1歳で難聴が発見されたとしても、直ちにこれを新生児聴覚スクリ−ニング検査のfalse negativeとは言えない。
     新生児期聴覚スクリーニングは先天代謝異常スクリーニングと異なり、パスすれば一生聴覚障害はないことを保証するものではないので、スクリーニングにパスした場合でも、聴こえの異常が疑われた場合には専門医を受診するように両親に説明しておくことが重要である。乳幼児期には遅発性難聴の他、流行性耳下腺炎や中耳炎などによる難聴が発症する可能性があり、乳幼児期を通じて聴覚の発達には注意が必要である。

 以上、新生児期聴覚スクリーニング検査におけるfalse negativeについて述べた。米国では2003年1月現在、86.5%の出生児が新生児聴覚スクリーニングを受けるまでに拡がっているが、新生児期聴覚スクリーニング検査のfalse negativeに関しては、大きな問題にはなっていないようである。