日産婦医会報(平成22年8月号)

青森県における新型インフルエンザ対応 〜ワクチンの確保について〜

医療対策部担当常務理事 千歳 和哉 

 

はじめに

昨年の新型インフルエンザの流行に際し、青森県では全 国に先駆けて早期に全妊婦のワクチンを確保できた。将来 の強毒性インフルエンザの流行に備えて、ワクチン確保ま での対応を紹介したい。

青森県における対応

平成21年5月に2次医療圏ごとに産婦人科医会と行政を 中心に最初の話し合いが持たれた。各地域で医療提供体制 が異なるため、

  1. 地域の事情に応じた体制をとること

  2. 2次医療圏内の地域周産期センターで対応すること

  3. 対応が困難な場合は総合周産期センターが対応する

こととし た。患者の搬送等については、当面は既存の周産期医療シ ステムに準じることを確認した。各産科医療施設では5月 から妊婦にパンフレットを配布してマスク着用や手洗いな どの予防策の徹底と、呼吸器症状のある妊婦は直接来院せ ず予め電話連絡し対応の指示を受ける等の注意事項を周知 した。また医療機関においては院内感染対策を徹底した。
 8月25日には学会から新型インフルエンザに対する対応 Q&A が発表され、各医療機関もこの内容に準じて対応することが確認された。
 9月4日に県と県医師会が郡市医師会とテレビ会議を行 い、各郡市医師会には産婦人科医も参加し意見交換し た。 各医療圏内で周産期センターを中心に連携体制をとること を確認した。また妊婦が新型インフルエンザに罹患した場 合は、診療所では予め協力を依頼してある内科へ連絡し、 内科においてタミフル投与等の診療を行うこととした。内 科に対しては県医師会から妊婦の診療について文書にて協 力依頼をした。
 10月1日の国からの新型インフルエンザワクチン接種の 基本方針を受けて、接種対象者や接種スケジュールについ て行政と県医師会による会議が連日行われた。県医師会か らは感染症担当、地域医療担当、および母子保健担当が出 席し対応を検討した。今回の新型インフルエンザワクチン の接種目的は、

  1. 死亡者や重症者の発生をできる限り減らす

  2. 患者の集中発生による医療機関の混乱を極力防ぎ、 必要な医療提供体制を確保する

ことである。妊婦は発症す ると重症化しやすく、妊婦・胎児への影響が大きい。産科 医療施設内において新型インフルエンザの蔓延により現状 でもギリギリの状態で維持されている青森県の周産期医療 体制が制限されることは、絶対に回避しなければならない。
国の基本方針では、ワクチンを接種する医療従事者の対 象として、内科、小児科、救急科等新型インフルエンザ患 者の診療を行う診療科を基本とするが、その他の科であっ ても特段の事情がある場合は、対象として差し支えないと された。そこで青森県では、重症化のハイリスクである妊 婦は最優先の順位で接種する体制が必要であることと、妊 婦の診療を行う産科医療従事者は「特段の事情」に該当す るものと考えられ、早期にワクチンを接種すべきであると いう行政と県医師会の統一見解を得た。産科医療機関では 医師、助産師、看護師・准看護師に対して全員のワクチン が配布され10月19日に接種した。妊婦用のワクチンについ ては、母体・胎児への影響などを説明する必要性と接種対 象者の接種漏れをなくすため、原則妊婦健診を行っている 産科医療機関が現在通院中の妊婦数を報告し必要数を確保 した。
優先接種対象者の第1回の投与開始日である11月2日に は全妊婦分のワクチンが配布され、早期に妊婦への接種が 完了した。当初連日接種希望の妊婦が集中したため外来は 混雑したが、妊婦の安心感は大きいものであった。その後 も新規の妊婦に対しても、必要数が追加配布された。

おわりに

 青森県においては産科医療関係者・妊婦へのワクチン接 種について産科側の要望どおり対応がなされた。次シーズ ンについても、産科医療機関は院内感染対策の徹底と職員 教育を行い、患者・家族へは逐次情報提供に努めることが 必要である。医会支部は、行政・県医師会と情報を共有し、 検討の場には積極的に出席し意見交換できる体制をとるこ とが求められる。今後のインフルエンザの流行に備え、各関係者が日頃から連携・役割分担し最大限の努力をするこ とが必要であると考えている。