日産婦医会報(平成22年7月号)

妊婦健康診査の公費負担 −広域化に関する問題点とその調整方針−

医療対策委員会委員 岩永 成晃 

 

 妊婦健診の公費負担に関しては、多くの市町村において14回の公費負担が行われているところである。しかし、国による妊婦健診公費負担の拡充の政策は、平成22年度までの期限付きで、それ以降の予算化については現時点では不明で、平成23年度以降の各市町村における公費負担事業の継続性については大きな不安がある。しかしながら、医会としては“すべての妊婦が全国どこでも等しく妊婦健診が受けられる”ために、妊婦健診の公費負担のより充実を目指して活動を行う必要がある。本稿では、その際必要となる“医会医療対策部としての共通の認識”について若干の整理をしておきたい。

1.「公費負担妊婦健康診査」の基本的な認識の確認

 「公費負担妊婦健診」とは、あくまでも行政サービスとして、妊婦健康診査の中の一定の健診と検査項目について、行政が費用を負担し医療機関にその実施を委託するものである。したがって、“妊娠・分娩を安全に帰結させるための健診内容の設定をするのではない”こと“妊婦健診料そのものを全国統一するのではない”ことを会員各位には十分ご理解いただく必要がある。医会における「公費負担妊婦健診」に対する対応としては、自治体が“公費として負担する項目”と“医療機関への委託料金”を全国的に格差のないものとして設定し運用できるように整理することにある。

2.「妊婦健康診査公費負担の拡充」の現時点での問題点

  1. 大幅な拡充がなされる自治体が増えつつある一方、拡充について消極的な自治体もあって、このことが全国的に公費負担額に大きな格差を生んでいる。

  2. “公費負担”の健診項目とその委託料金等につき、自治体間での設定が異なる所も多く、そのため、里帰り出産等に際しての、公費負担の広域化を難しくしている。

3.公費負担妊婦健康診査の広域化をはばむ問題点

  1. 健診項目とその委託料金設定の自治体間の不統一:個々の項目の委託料金設定の違い、項目単価の“まるめ” 設定、超音波検査料の委託単価引き下げ、さらに“基本的な妊婦健康診査と超音波検査の包括的設定”などの契約がなされた自治体がある。これらについては、医会案・厚労省案とは異なる委託単価設定が行われていて、公費負担妊婦健診の広域化を困難にする要因となっている。

  2. 公費負担分の清算方法の不統一:自治体と医療機関の個別契約によるものや、契約なしに医療機関からの請求のみで支払う方式あるいは妊婦への償還払い方式等もあって、行政によって公費の支払い方式が統一されていないことも、今後解決すべき大きな問題である。

4.公費負担妊婦健診の項目とその委託料金設定の統一

 平成21年から実施の「妊婦健診公費負担の拡充」において、厚労省は公費負担の内容として、(1)毎回実施する「基本的な妊婦健康診査」と、(2)妊娠経過中の適時に必要に応じた医学的検査を実施するものとしての“「基本的な妊婦健康診査の項目」以外の各種医学的検査”としてそれぞれの項目を示した(「妊婦健康診査の実施について」厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長通知、雇児母発第0227001号、平成21年2月27日)。
 委託単価の積算根拠についても、“妊婦健康診査臨時特例交付金の運営についてQ&A2009.1.23”として下表の内容を自治体に対して示した。
 これらは、今後多少の修正の余地はあるとは思われるが、現在の医会の考え方とも矛盾していないので、これらに準拠して委託単価を設定するのが、“公費負担妊婦健診の広域”をスムーズに実施するために有用となる。

表 厚労省による妊婦健診公費負担委託単価の積算根拠

回数
および時期
基本的な妊婦健康診査 超音波
検査
血液
検査
B群溶血性
レンサ球菌
検査
合計点数


外来管理
加算


尿

    (71点) (52点) (355点) (26点) (530点)   (310点)
6 第26週頃       504点
7 第28週頃       504点
8 第30週頃 ○(313点) 1,295点
9 第32週頃       504点
10 第34週頃     814点
11 第36週頃       504点
12 第37週頃   ○(158点)   1,140点
13 第38週頃       504点
14 第39週頃       504点
合計 9回 7回 9回 9回 2回 2回 1回 6,273点

※6,273×10円=62,730円≒63,000円