日産婦医会報(平成22年3月号)

TKC 医業経営指標に基づく動態分析の概要を読む

医療対策部 医療・医業改善担当委員長 角田 隆

はじめに

医業経営は厳しい状況にある。日本医師会(日医)は、平成21年11月の定例記者会見で医療機関の経営実態を報告した。今回の報告を基に産婦人科医療機関の経営状況を損益分岐点比率の観点より考察する。

解析の対象

税理士、公認会計士が構成するTKC 全国会の会員が顧問契約する病院、診療所の平成20年度決算を指標に用いた。

損益分岐点比率とは

損益分岐点売上高を売上高で除することで算出され、低いほど収益性が高く、売上減少に耐えることが可能となる。経営安定度の指標となるが、80%程度が優良とされる。損益分岐点比率が95%の場合、収益が5%以上減少、すなわち100%を超えると赤字となる。算出法を記載する。

損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷売上高

損益分岐点売上高(売上高と経費が等しくなる売上高のことを指す)
 = 固定費÷(1−(変動費÷売上高))
    固定費;給与費+減価償却費+経費
    変動費;材料費+委託費 

法人経営医療機関の損益分岐点比率

個人経営の施設は給与費に院長報酬が含まれていないため、法人施設のみ分析した。表1に平成20年度の損益分岐点比率を示すが、前年度に比べ、病院で改善傾向はなく、有床診療所(有床診)で0.5%、無床診療所(無床診)で1.1%上昇した。産婦人科では、病院1.3%、有床診で1.4%上昇し経営安定度は低下した。産婦人科無床診(院内処方;院内)では、平成20年度は3.3%上昇し赤字経営が更に進行した。産婦人科無床診(院外処方;院外)のみ、90.1%と0.5%低下した。95%以上を経営危機状態とするが、産婦人科では、病院、有床診、無床診(院外)でそれぞれ92.8%、93.4%、90.1%と全体との比較では良好だが、無床診(院内)は107.6%で経営は破綻状態であった。

表1 法人経営医療機関の損益分岐点比率

  病院 有床診療所 無床診療所
(%) 全体 産婦人科 全体 産婦人科 全体 産婦人科
処方 院外 院内
平成20年度 94.9 92.8 95.1 93.4 94.9 90.1 107.6
2007年度との比較 +0.1 -1.3 -0.5 -1.4 -1.1 -0.5 +3.3

法人医療機関の費用構成

医業収益は固定費、変動費、医業利益で構成される。平成20年度の医業収益は、前年度より病院で1.7%、診療所で1.1%増加した。産婦人科の病院も1.7%増加した。産婦人科診療所は保険収益が0.8%減少したにもかかわらず医業収益は2.4%増加した。産婦人科診療所は医業収益の61%が自由診療収益で、これが増加したためと考えられる(表2)。固定費の比較では、平成20年度の給与費(役員報酬を除く)は前年度より、病院で2.3%、有床診で2.8%、無床診で1.6%増加した。役員報酬は1.1〜1.2%の増加にとどまった。変動費は、病院、診療所でそれぞれ21.0%、21.7%であった。

表2 平成20年度医療機関の医業収益(法人・個人)

(%) 病院 診療所
全体 産婦人科 全体 産婦人科
医業収益(前年比) 1.7 1.7 1.1 2.4
保険収益(前年比) 1.5 3.3 0.3 -0.8

まとめ

医業経営の安定には、損益分岐点比率の引き下げが必要である。医療機関全体と産婦人科の比較で、病院、有床診、無床診(院外)ともに低値であったが、必ずしも経営が安定している状態とは言い難い。産婦人科無床診(院内)は、すでに赤字の状況にあり、院内より院外処方への切り替えも一つの方法である。その他、固定費や変動費の削減が必要だが、固定費の大部分を占める給与費の削減は、不足している産婦人科医療従事者や事務処理量の増加に伴う事務員の確保のため困難と思われる。医業収益の増加には診療報酬引き上げが必須で、政府政権への積極的な働き掛けが重要である。(会計士に依頼して損益分岐点比率を算出し、経営評価を行うことをお勧めいたします。なお非法人でも院長の給与を仮設定することで算出可能となります