日産婦医会報(平成21年7月号)

院内保育所

横浜市立大学附属市民総合医療センター・総合周産期母子医療センター 奥田 美加


はじめに

  女性はそのライフサイクルのなかで妊娠、出産という大きな転機をもち、続く育児についても仕事との両立が求められる。産婦人科医における女性医師の占める割合が年々増加していることは周知の事実であり、そのパワーなくしてはもはや産婦人科医療は成り立たない。また女性の健康を守る我々が、働く女性の妊娠出産を否定することがあってはならない。子育て中の女性医師のみならず男性医師にとっても、仕事と家庭とを両立するための必要条件の1つとして、院内保育所が挙げられる。院内保育所の現状と、どのような条件が求められるのかについて解説したい。

院内保育所の実例

  筆者が勤務する病院(720床)には、医師も利用可能な院内保育所が設置されている。保育対象は産休明けから3歳まで、定員は他業種を含め36人、保育時間は7時45分〜最長21時で、現在試験的に夜間保育を金曜日に限って行っている(16時〜翌11時)。病児保育は行っていない。2009年3月現在産婦人科医3名、内科医1名を含む6名の医師が利用し、うち1名は2人の子を預けている。
 我が中堅スタッフ(卒後11年目)の実例を紹介する。保育開始時間が上記のため、8時開始のカンファレンスには少々遅刻するが、外来および病棟業務、手術において重要な役割を担い、忙しく立ち働く。授乳期には保育士さんがタイミングをみて医師の院内携帯電話に電話連絡をくれる。すきを見て授乳に行き、行けない場合はその旨を伝えればミルクを与えてくれる。現在は卒乳後でそのコールは来ないが、院内に保育所があってこそ可能な対応である。さて勤務時間後は早く帰れと声をかけるのだが、真面目な彼女はついつい保育時間一杯まで働くことがしばしばある。こちらもつい甘えてしまうが、もっと口をすっぱくして帰れ帰れと言うべきだと日々反省している。復帰当初は当直完全免除だったが、子が大きくなるに従って1日、また1日と当直やオンコール回数を増やしてくれている。子どもの突然の病気で休むこともあり、その際には周囲がカバーする。他の者も学会出席、自身の健康や家庭の事情で休むこともあり、お互い様なので不公平感はない(と上司は思っている)。勤務制限のあるメンバーでもいないよりはいてくれる方が人員のやりくりがつき、彼女が昼間をがっちりと守ってくれるおかげで、当直中寝ずに働いた者を早く帰宅させることが可能である。重要な点は、当直をカバーするのに必要な定員数の中にではなく、プラスして雇用することにある。また制限勤務者側の、やれることはやろうとする熱意も、とても大切である。

院内保育所の有無と就労状況

 日本産科婦人科学会の男女共同参画検討委員会内、女性医師の継続的就労支援委員会が2年前に行った調査によれば、女性医師特に子どものいる女性は卒後約10年で約半数が分娩取り扱い施設での勤務から離脱していることが判明した(男性は約8割が勤務)。院内保育所調査では、産休や育休取得後の女性の職場復帰について、時間外保育を行っている施設での実績率が高く、病児保育を行っている施設ではさらに高かった。以上より、子どものいる夫婦の継続勤務のためには、勤務先に時間外保育、病児保育を扱う院内保育所が必要であるといえる。
 当時の調査では医育機関の保育所において医師の子弟が利用できない施設が存在したが、この春に当院の女性外科医師が調査した際には回答した全施設で利用でき、保育所の設置率も50%から74.6%に増え、当直免除や短時間勤務が制度化される動きなどもみられ、医師の働く環境が整備されつつあることがうかがえた。

おわりに

 育児中の女性医師が働きやすい環境は、必ずや男性の就労環境改善にもつながる。産婦人科医として経験を積み医療の重要な担い手に成長した医師が、労働環境の悪さから一線を退いてしまうのは社会の大いなる損失である。連日連夜の献身的な時間外労働が当たり前でない就労環境が整えばきっと、産婦人科を選択する若手医師の増加につながると信ずる。自らの人生と健康を犠牲にすることなく、継続して仕事に打ち込め、医療に貢献していける環境を整備することは、我々医師全員の願いである。