日産婦医会報(平成20年11月号)

静岡県中西部地域の病診・診診連携の実態について

静岡県支部監事 前田津紀夫


1.はじめに

 周産期死亡率・母体死亡率の一層の改善のために、国の基本政策は「産科施設の集約化」と「小規模産科診療所の整理」であろうと推測される。しかし、予想をはるかに超える産科医の減少、特に勤務医の減少をうけ、改めて産科診療所の必要性が再認識されている。この稿では静岡県中西部地域(志太榛原二次医療圏)における病診連携及び診診連携について報告し、産科診療所を活用した周産期システムの一モデルを提示したい。

2.静岡県および当地区の産科施設の現状

 静岡県の産科診療所も減少の一途をたどっている。平成8年には分娩を取り扱う診療所が114施設存在したが、平成20年には57施設に減少した。一方、平成19年の総分娩数30,748件のうち15,863件(51.7%)が開業医での分娩であった。当地区(志太榛原地区)では昨年の分娩総数が4,100件であり、10年前には4つの総合病院がフル回転していたが、勤務産科医の引き上げで、二次病院が2施設に減少してしまった。また産科診療所も平成5年には12施設あったが、現在では5施設に減少している。
 残された二次病院はハイリスク妊婦で飽和状態であり、これ以上の分娩の増加は大変な重荷となっている。また開業医5軒においては、昨年度の一施設あたり平均分娩数は458であり、すべて一人医師であることから、これまたぎりぎりの状態である。それでも二次病院の疲弊を少しでも緩和するため、緊急帝王切開や、軽度にリスクのある分娩まで診療所が担当せざるを得ないのが現状である。これ以上撤退する施設を出さないために、今こそ診療所を含めたお互いの協力体制を深める必要性が生じている。

3.「志太榛原4郡市懇話会」

 昭和63年秋に地域内の4つの公立病院の勤務医が出身医局を超えた病院間の親睦を深めるために勉強会を開始した。平成4年には、地域の開業医も参加するようになり、「お互いの顔が見える」病診連携が可能となった。この良き関係が産科医減少の現在も脈々と続いており、年に数回の勉強会や親睦会が行われ、互いのおかれた状況を理解し合うことで、母体搬送などが比較的スムーズに行えるようになっている。また、産科同士の病診連携に加えて、地域内の総合病院小児科主催の周産期会議や、勉強会にも産科開業医が積極的に出席し、結果として各病院NICU との連携が深まり新生児搬送も円滑に行われている。特に、藤枝市立病院から産科医が消えた本年、開業医の帝王切開に同病院の小児科医が出張して立ち会うことが実現している。

4.「診診連携」

 診療所での帝王切開は、かつては個別に頼んだ非常勤医や看護師相手に行われていた。ところが、夜間や緊急事態においては、医師が一人で対応せざるを得ないことが多く、それぞれに不安を抱えていたものである。上記の懇話会が始まり、診療所間の友好が深まったことをきっかけに、帝王切開の助手や、短時間の留守番、緊急時の応援等を一人対多数で行うことが提案され、まもなく実現した。応援を要するとき、ある医師が不可能でも他の医師が駆けつけるというシステムである。地区内の産婦人科医が全員参加するメーリングリストの存在がこの連携を一層密なものとしている。現在では産科診療所5施設と無床診療所4施設がこのシステムを構築しており、緊急帝王切開などで活用されている。この際の謝礼は話し合いにより共通の額が決められている。また、産褥出血の症例などで、他の開業医が駆けつけて協力する光景もごくあたりまえに見られるようになった。この良き関係を維持するべく、開業医同士の親睦会や旅行などが定期的に行われている。

5.まとめ

 地方の産科の現場においては、産科勤務医の絶対数が不足しており、開業医抜きの集約化モデルは成り立たない。わが地域にとって勤務医と開業医は車輪の両輪であり、どちらが減少しても、地域の産科医療は傾いてしまう。両者が共存してもちこたえながら、産科への新規参入者を増やしていくことが、喫緊の課題である。その中で、多施設にまたがる診診連携システムの構築は、一人医師であることが多い開業医にとって不安解消への一助となると考えられる。今後、このような病診・診診連携を活用した当地域の周産期成績が集約化の進んだ地域の成績に遜色ないことを証明し、開業医の存在意義を再確認していきたい。