日産婦医会報(平成20年06月)

個人有床診療所の親子継承体験記

医療対策・有床診療所検討委員会委員長 小関 聡


はじめに

 当院は父が横浜市に開設した非医療法人有床診療所である。今回、父の高齢に伴い継承を行った。施設の継承は病院・診療所、有床か否か、法人か否かによって異なり、大変手続きが繁雑であるが、昨今の法規の改定により複雑化している。著者の体験がご参考になれば幸いである。

きっかけは後期高齢者医療制度

 診療所長の交代時期については、以前より父と私と税理士の三者で折に触れ話し合ってきた。しかし、結論は出なかった。だが今回、2008年4月の後期高齢者医療制度の発足に伴い、父は診療所長であっても医師国保本人でいることができなくなり、これを機に交代することになった。
 2007年4月に産婦人科の病床規制が外された際、区の保健所に交代の相談をしたが、「現開設者死亡以外、審議会の審査が必要です。今交代すると、現在の病床は全て失います」と言われた。当方が制度変更について指摘したが、「調べておきます」との返事で、その後連絡はなかった。そして後期高齢者制度が具体化した秋頃になって、再び動き出した。その間、市の組織が変更され、区は窓口だけとなり実質は市の本庁扱いになっていた。その担当者も病床規制の変更については知らなかったが、今回は当方の指摘後交代可能であると30分以内に返事がきた。

交代のタイミング

 交代はいつでも可能である。しかし、同一患者であっても交代日を跨がって診療を受けた場合、レセプトが2枚必要になる。そのため月初めの交代が望ましい。市による認可監査は、新しい診療所を査察して許可するため、前日では旧開設者の施設をみることになり、不可である。休診せずに交代するためには、当日朝に監査の後許可証を受け、同日中にこちらが区の窓口に出向いて正式な届けを出さなければならない。社会保険事務局への届出・申請期限は月によって異なるが、期限内であれば、1日に遡及認可される。保健所交付書類(数日かかる)を提出するため、必然的に遡及扱いとなる。当初4月1日と考え、事前に相談に行ったが、健保改定と重なり、しかも今回は様々な届出のため申請窓口の混雑が予想されるため、4月はご遠慮願いたいと言われたことから、2月1日と決定した。当日は午前8時50分から監査が始まり、約30分で無事終了した。

手続きに必要な書類

 提出先別に必要書類を以下に掲げる。

  1. 都道府県・政令市(保健所)
    診療所開設届出書、医師免許証、履歴書、診療所敷地面積および平面図、付近の案内図、用途を示した施設平面図、従事する医師、助産師の免許証と履歴書(継続勤務であっても必要)、建物・土地登記簿謄本の写(賃貸の場合は賃貸契約書)、構造設備使用許可申請書および病床設置許可申請書(有床の場合)、前開設者の診療所廃止届け、継承の意志を示した文書。なお、設備として有する場合はX線およびMRI 装置備え付け届も必要。他に委託事業(妊婦健診・がん検診など)、各種指定(生活保護、結核予防法など)、麻薬施用者免許等窓口が異なるものも多数ある。

  2. 社会保険事務局
    保険医療機関指定申請書、医師免許証、保険医登録証、戸籍抄本(親子関係証明のため)、履歴書、平面図、周辺案内図、診療所開設届証明申請書および診療所構造設備使用許可証(保健所発行)、保険医療機関遡及指定願。

  3. 支払い基金
    国保、社保それぞれに届が必要である。

  4. 税法等の手続き
    非医療法人の場合、診療に関係する備品の税法上の手続きも重要である。施設・超音波機械・薬品などのリストを作って価格を計算し、買い取らなくてはならない。親からリースし、原価償却によって資産価値を減らして2〜3年後に買い取る方法もある。文書を作成して契約を交わし、銀行口座に金銭授受の証拠を残さなければならない。諸費用引き落とし・振込口座の変更手続きも面倒である。

おわりに

 診療所開設者の交代の状況を述べた。必要書類や提出先はその自治体によって異なる。事前に自治体や社会保険事務所の担当者と打ち合わせをすることが、重要である。