日産婦医会報(平成19年09月)

医療法人制度の改革について

医療対策・有床診療所検討委員会委員長 小関 聡


 Q  平成19年4月の医療法改正により医療法人制度が大幅に変わりましたが、その目的は何ですか。

 A  非営利性の徹底、公益性の確立、効率性の向上、透明性の確保、安定した医業経営の実現です。

 Q  具体的にはどのようなことが変わるのですか。

 A  細かい部分まで述べるのは誌面の制約がありますので、次の重要な4点に絞ります。

  1. 医療法人解散時の残余財産の帰属先が制限されます。従来の社団医療法人のうち個人が設立した出資額限度法人あるいは持分あり医療法人の設立が認められなくなり、今後は基金拠出型法人(社団、財団は問わず)になります。従来は定款により解散時の財産の帰属を決めることができ、出資者の残余財産分配請求権を保証していたのですが、今後は不可能になり、その帰属先は国、地方公共団体、公的医療機関、医療法人、その他医療を提供する者であって、省令で定めるもののうちから選定されることになります。
  2. 社会医療法人制度が創設され、救急、災害、僻地医療を行うことを義務付ける一方、法人債の発行や従来は認められなかった収益事業を行えることになりました。この中には農業、製造業、宿泊業等も含まれますが、投機的に行うことは禁じられ、本業を妨げないこととされております。
  3. その他の医療法人においても附帯事業が拡大され、ケアハウス、デイサービスセンターの設置や運営が認められるようになりました。
  4. 決算書等の書類の作成・閲覧についても明確に規定されました。また、役員の任期や職務社員総会・評議員会の招集や議決方法なども明記され、内部管理体制の強化を求められるようになりました。

 Q  非営利性の徹底と財産帰属についてですが、もし院長が死亡や重病等で解散せざるを得ない場合、全財産が没収されてしまうのですか。

 A  全財産ではありませんので誤解のないように。院長も含め従業員には退職金が支払われます。また負債があれば、財産を処分して債権者に支払わらなければなりません。それらを差し引いた残余財産のことです。ご子息や親族の医師が起こした医療法人が、省令に該当する「その他の医療法人」と認められれば、そちらに帰属させることができます。

 Q  それでは日ごろから残余財産を作らないようにする工夫が必要になりますね。

 A  役員報酬などで分配する方法がありますが、多額に設定し過ぎるとそちらの課税額が増えてしまうという点に注意しなければなりません。また、優良な人材を確保し医療の質を高める意味で、従業員にも還元することも重要です。その他、医療機器類をリースにするなどの方法も有効ですが、中途解約については十分承知しておかねばなりません。

 Q  従来の医療法人はそのまま継続できますか

 A  「当分の間」存続できると規定されています。これは具体的に何年と定めることが困難な場合に講ぜられる法的措置で、事実上は今後も存続できると解せます(旧制度下に社会通念上看過できない営利行為が発生した場合、経過措置の取り消しや変更がないとは言い切れません)。
 この場合解散時の財産帰属については旧来のままでよいとされていますが、その他の部分で定款の変更を平成20年3月31日までに行う必要があります。

医療対策・有床診療所検討委員会より

 改正医療法人制度については、詳しい著書がいくつかありますのでご覧ください。医療法の範囲は非常に広く、この分野があまり得意でない方は、選任の税理士、公認会計士に相談しながら経営にあたるのが“安全”です。また今回の医療法改正では、個人・法人に関係なく無床診療所にも「医療安全管理指針」と「院内感染対策指針」の策定ならびに「医薬品業務手順書」と「医療機器保守点検計画」の作成が義務付けられました。具体的な内容については日本医師会HPをご参照願います。知らなかったでは済まされない現状を考え、十分な対策を取られるようお願いいたします。