日産婦医会報(平成19年04月)

マスコミ対応の留意点について

医療対策委員会委員 小笠原 敏浩


はじめに

 マスコミの取材を受けた後、実際に放送されたテレビや掲載された新聞をみると、報道側の意向で大きく編集されて、強調して話した部分が報道されず、想像していた内容とニュアンスが大分異なっている例を経験することがあります。
 この編集は、報道側ではごく当たり前のことで、取材を受ける際はそのことを十分に念頭におかなければなりません。もちろん、報道機関によりその対応は異なり、掲載前に掲載原稿や報道内容を送ってくださるマナーを守る記者もいれば、多忙な日常診療の貴重な時間を割いて対応したにもかかわらず、報道日さえも告げることなく、その後、何の連絡もないマナーを守らない記者もいます。いずれにせよ、企業同様にわれわれもマスコミの取材には対応体制が必要です。マスコミは、多くの読者へ向けて情報の発信を行うので、その対応は常に慎重に行う必要があります。

通常の取材に対する対応

 記者から取材の申し込みがあった場合には、記者の応対も様々ですが、できれば取材の意図と大まかな内容を文書で受けることが望まれます。電話による取材の場合でもファックスにて取材の意図と大まかな内容を受け取ってから実際の取材に応じるなどの慎重さが必要であり、掲載前に原稿の確認が可能かどうか聞いておくことも必要です。しかし、強制的に掲載前の記事を見せるように要求してはいけません。また、記者を自分の施設や取り組みの宣伝に利用するような態度は慎まなければなりません。

事故やトラブルに関わる取材への対応

  1. 取材に対する初期対応
     事故やトラブルに関わることでは、院長が取材を受けるかどうかの決定をし、院長または副院長が窓口になり早急に取材に対する体制を作ることが必要です。
  2. 取材に対する体制作り
     多忙な日常診療で患者さん・妊婦さんの安全を守り、混乱を避けるためにも、窓口は一本化し、職員や関係者に直接取材の依頼があった場合には、院長へ報告し、院長・副院長が対応するようにします。また、記者会見などを行う場合は、会見前に、院長および関係者と事前に事実の検証と十分な打ち合わせを行うことが必要です。また、重大な事項に関する記者会見は、日産婦医会・医師会等に相談した上で対応することが望ましいと思われます。
  3. 実際の取材の際の対応
     記者会見や取材の際には、必ず記録者を同席させて取材内容の記録をするか、記者に同意を得てIC レコーダーで録音し、後で文書を起こすことが必要です。また、記者の姿勢によるのでしょうが、事前に掲載予定の原稿のチェックができる場合がありますので、可能ならお願いするべきでしょう。しかし、掲載前に確認することを要求することはできませんので、その記者のやり方を見ながらで判断してください。
     実際の取材での答弁は、事実のみを語り憶測で話すことは絶対避けなければなりません。興奮することなく、平静で毅然とした態度で臨みましょう。また、確実でないこと、不明なことは推測で回答せず、「現時点では分からないので、後ほど文書で回答します」と明確に伝えることが必要です。その他、われわれは患者さんを守る立場であることを忘れずに、患者さんの守秘義務を守り、患者情報は患者および家族の同意・了解を得てから公表するようにします。公表できないことは「公表できません」とはっきりと伝えることが必要でしょう。
  4. 誤報への対応
     記事に誤りがあれば、BRC(放送と人権等権利に関する委員会)および担当記者に抗議します。また、日産婦医会・医師会等に相談し、その後の対応を検討しましょう。

その他の基本的な対応

 時間や出血量などの数値あるいは病名などを述べる場合は、さらに正確に伝えることが必要になりますので、即答せずに文書に記録した上で回答すべきです。

おわりに

 取材に応じる際は、入念な事前準備と、感情に左右されず毅然とした態度で取材に臨むことが大事です。また、複雑なケースについては、個人で判断せず、日産婦医会・医師会等に相談したうえで対応することが望まれます。