日産婦医会報(平成19年02月)

経済産業省プロジェクト 岩手県モデル
 -産婦人科医療過疎地での運用-

医療対策委員会委員 小笠原敏浩


はじめに

 経済産業省プロジェクト「地域医療情報連携システムの標準化及び実証事業」として全国4カ所(香川大学、母子愛育会愛育病院、亀田総合病院と岩手県立釜石病院)が指定されました。現在、岩手県立釜石病院と、出産できる施設のない遠野市との連携で、遠隔妊婦健診や在宅診療の検証を行っています。今月は、産婦人科医療過疎地である岩手県の遠隔健診モデル事業について解説します。

岩手県遠野市の状況

 遠野市は、唯一の出産施設である県立遠野病院産婦人科が数年前に休診したため、市内で出産できる施設がなく、妊婦は花巻市、釜石市、盛岡市の産科施設まで、妊婦健診と出産のために遠距離を移動しています。県立釜石病院へは、遠野市の妊婦約30名(年間)が“地形の壁”と言われる標高1,000mの仙人峠を越えて片道1時間前後の時間をかけて通院しています。冬になると道路の凍結と積雪のため“気候の壁”が形成され、さらに交通アクセスが悪くなります。

試行システムの概要

 遠野市の嘱託助産師が、対象の妊婦の自宅を訪問するか、遠野市の保健センターでモバイル胎児心拍陣痛モニタリングを装着して、県立釜石病院の医師の携帯電話またはノートパソコンに転送します。医師は、リアルタイムで送られた波形から胎児の健康状態や子宮収縮を診断します。同時に、助産師がウェブ版周産期電子カルテに妊婦健診結果を入力するため、助産師・産婦人科医が双方で健診データを閲覧・入力することができ、妊婦健診情報を共有できます。現在、ウェブ版電子カルテは、遠野市嘱託の助産師からは、簡単に使用できるとの評判です。その後、インターネット上でウェブカメラとマイクを利用したウェブ映像コミュニケーションにて、あたかも病院で妊婦健診を受けているように妊婦さんと会話を行います。
 このように離れた場所でも、病院で行う妊婦健診・保健指導と同様の形で行うことにより、妊婦さんはより安心感を得ることができます。
 さらに、このシステムが産科医療過疎地である県内に普及すれば、産婦人科休診の市町村でも診察を受けることができ、妊婦さんの不安の減少、サービスの向上につながると考えています。また、遠くからの病院への通院のリスクも減少させることができます。

今後の展望

 岩手県のように交通の不便な地域、離島の多い地域、産科医療過疎地では都会と同じような集約化では地域住民が犠牲になるだけで良い方向性とは思えません。具体的解決策として、前述した移動型胎児心拍監視システム、ウェブ版周産期カルテ、ウェブ映像コミュニケーションと地域の助産師のワークフォースを利用した遠隔妊婦健診の普及が不可欠と思われます。また、いつでも利用できるヘリコプター搬送が整備されれば緊急時にも対応可能となります。
 今後は、産婦人科医不在の病院の助産師外来と基幹病院を、移動型胎児心拍監視システム、ウェブ版周産期カルテ、ウェブ映像コミュニケーションで連結し、遠距離通院のリスクを解消しつつ、産婦人科医による適切なバックアップができるシステムを構築したいと考えています。

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