日産婦医会報(平成19年01月)

経済産業省実証実験事業 周産期電子カルテプロジェクト

情報システム委員会委員長 原 量宏


はじめに

 現在厚生労働省は、全国で総合周産期母子医療センターの整備を進めていますが、その機能を十分に発揮するためには、電子カルテネットワークを用いて、地域医療機関との間でスムーズに医療情報を交換できることが不可欠です。
 従来より、電子カルテや遠隔医療に関しては、まず経済産業省が技術的側面から開発を支援し、そこで確立した技術を厚生労働省が普及の後押しをしてきました。今年度から3年間の予定で、情報システム部で取り組んできた周産期電子カルテが、経済産業省のプロジェクトとして採択されたことは大変意義あることと思います。

1.経済産業省による周産期電子カルテネットワークプロジェクト

 今回のプロジェクトでは、周産期電子カルテネットワークと、モバイルによる在宅妊婦管理システムの機能を統合し、医療機関相互、そして医療機関と在宅妊婦を結ぶネットワークを全国に普及させることが大きな目標です。まずは東京都、千葉県、岩手県、香川県の4地域において、それぞれの地域特性にあった周産期電子カルテネットワークを構築するとともに、4地域のシステムを相互に接続し、最終的には全国の周産期医療機関と在宅妊婦を連携することを視野にいれています。

2.東京都での取り組み

 愛育病院では、昨年度よりオープン・セミオープンシステムを導入していますが、今回のプロジェクトでは、Web版周産期電子カルテシステムを愛育病院に導入し、周囲の診療所(約10カ所を予定)と電子カルテネットワークで連携する予定です。電子カルテネットワークにより、医師ならびに妊婦が医療機関を移動しても、紹介状だけでなくすべての周産期データをどこからでも入力、参照が可能となり、オープン・セミオープンシステムの運用に威力を発揮します。地域的に外国人の妊婦が多いため、英語版システムの開発も行います。

3.千葉県での取り組み

 亀田総合病院は、先進的な電子カルテで大変有名ですが、病院の電子カルテと周産期電子カルテを機能的に連携し、周産期データを一元管理します。また、新たに館山に開設されたサテライトクリニックと電子カルテネットワークで連携し、安房夷隅地域全体での妊娠管理に取り組みます。電子カルテと直接データ連携するWeb 母体搬送提供書やWeb 母子手帳を開発するとともに、TV 会議システムを用いた遠隔診療や超音波画像の転送による遠隔診断も計画しています。

4.岩手県での取り組み

 岩手県の取り組みに関しては、次号で小笠原先生から説明していただきますが、自然環境が厳しく、しかも産婦人科医のいない遠野市をフィールドとして、在宅妊婦管理システムと電子カルテネットワーク、Web 母子手帳を用いた、遠隔での妊婦管理に取り組む予定です。

5.香川県での取り組み

 香川県においては、「かがわ周産期ネットワーク」と「かがわ遠隔医療ネットワーク」両者の機能統合を行うとともに、他の3地域を相互に接続するサーバを構築します。

6.クリティカルパスの作成

 妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、切迫早産、多胎妊娠など、周産期特有の疾患に対するクリティカルパスを新たに定義し、電子カルテに組み込むとともに、実際の妊娠管理に役立てます。

おわりに

 今回の実証プロジェクトでは、日本産婦人科医会が受け皿となり、その第一段階として、4県で行いますが、他の地域においても是非とも導入していただければと考えています。

医療対策委員会から

 次号では、産婦人科医療過疎地の岩手県での取り組みを紹介します。(事業の詳細は香川大学医学部附属病院医療情報部