日産婦医会報(平成18年03月)

神奈川県内の産科医療機関における分娩取り扱い実績と将来予測
 

日産婦医会医療対策委員会副委員長 小関 聡 (神奈川県産科婦人科医会)


はじめに

 全国的に産科医の数と分娩を取り扱う施設が減少しているが、神奈川県も例外ではない。最近マスコミでも「お産をする場所がない」といったテーマで頻回に取り上げてい
るが、今後どれくらいの妊婦が産科医療機関で分娩できなくなる可能性があるのか、具体的な数値は出されていない。
 神奈川県産科婦人科医会ではそのような状況をより正確に把握するために、将来の分娩取り扱い状況を推測した。

調査方法

 対象は、平成14年1月から平成17年7月までの間に分娩を取り扱った神奈川県内の184施設(この間に取り扱いを中止した施設、新規開業した施設を含む)である。
 調査はアンケート形式で行った。平成14〜16年の3年間に各施設が取り扱った分娩数を質問し、地区別、病院・診療所別に各年ごとに集計した。
 同時に今後の分娩取り扱い予定に関して、「5年以内に中止」、「5〜10年以内に中止」、「10年以上継続予定」の3通りの方針を尋ねた。それをもとに中止を予定している施設の平成16年の実績分を合計から差し引き、平成22年、27年における理論上の分娩取り扱い可能数を推定した。なお平成16年以降の新規開設の場合で実績が不明の場合は、各施設の予測取り扱い可能数をもとに計算した。
 出生数は全国的には減少傾向にあり、届出数でみた場合、神奈川県でも昭和48年をピークに以後減少に転じている。 しかし全国の傾向とは異なり、平成2年以降は横ばいとなっている。今回の調査は今後も同様の傾向が続くと仮定した。

結果

 神奈川県内で分娩を取り扱う施設の99%に当たる183施設から得られた回答によると、県内の産科医療機関が取り扱った分娩数は、平成14年70,262件、15年69,835件、16年69,862件であった。
 また今後の取り扱い計画をもとに閉鎖予定施設の実績分を差し引き算出した推定取り扱い可能数は、平成22年では65,468人(対H14年比93.2%、4,794人減)、平成27年になると59,475人(対H14年比84.6%、10,787人減)となった。つまり単純計算では平成27年には約1万人が産科医療機関から締め出される形になる。これを補うには年間千人規模の分娩施設を平成27年までに11施設整備する必要がある。

減少が目立つ地域は

 分娩取り扱い可能数の減少は、絶対数では人口の多い横浜市と川崎市が、減少率では小田原・足柄地区と横須賀・三浦地区が特に目立っている。しかしその他の地域が良好と言うわけではない。小田原地区では平成14年には3,049人の実績があったが、平成27年の推定では1,530人しか取り扱えなくなり、約半数が産む場所がない状態になる。横須賀地区でも3,928人(H14)が2,545人(H27)となり、3分の1が産科分娩施設から締め出されることになる。
 今回の調査では、神奈川県の出生届出数と分娩取り扱い数を比べると、助産所分娩、自宅分娩の件数を差し引いても約9,500人届け出数が多いことが判明した。この差は帰郷や越境などで県外に出て分娩する数(正確にはIN とOUT の差)である。実家が分娩事情の極めて深刻化した地方にある場合、今後「里帰り分娩お断り」というケースも考えられ、それらを考慮した対策も講じる必要がある。

事態はさらに深刻に、全国調査により早急な対策を迫ろう!

 これらの予測値は、調査時点での将来計画をもとに計算したものであり、今後突然中止を決めたり、医師、助産師不足で中止を余儀なくされるケースは想定していない。状況次第ではこれが最良の現実となり得る。
 問題の解決には医師(病院医師と診療所医師)、助産師、看護師らの相互の努力、協力が当然必要だが、限界は見えている。神奈川県では、会員の協力により高い回答率を得ることができた。次なるステップでは、各都道府県が具体的な数字で予測値を出し、政府や自治体にそれらを示すことによってこの緊急事態を真摯に受け止めさせ、早急な具体策を迫ることが望まれる。