日産婦医会報(平成18年01月)

子宮がん検診の問題点

がん対策部担当理事 永井 宏


医療対策委員会より

 今回の子宮がん検診見直しの問題点についてがん対策部永井宏理事に解説頂きました。

厚生労働省指針

 平成17年4月1日に「がん予防重点健康教育及び、がん検診実施のための指針」新旧対照表が通知された。これは、老人保健事業に基づく乳がん検診及び子宮がん検診の見直しについて「がん検診に関する検討会中間報告」として平成16年3月にがん検診に関する検討会より出されたものを修正したもので、正式な実施指針として受け止められよう。がん検診は、今後この通知を採用する市町村が多くなると思われる。

検診の実施

 子宮がん検診は、子宮頸がん検診と体がん検診に分けられる。子宮頸がん検診は対象年齢が20歳以上となり受診間隔は2年に1回となった。子宮体がん検診は頸がん検診の受診者のうちの有症状者、およびハイリスク者に対して行われる。今回の最大の改正点は子宮がん検診や乳がん検診等原則として同一人について2年に1回行うもの、即ち隔年検診となったことがもっとも論議を呼ぶ点であろう。しかしこれには注釈がつき、前年度受診しなかった者に対しては積極的に受診勧奨を行うものとする。したがって、受診機会は必ず毎年設けることも忘れてはならない。
 受診率の算定は
 受診率=(前年度の受診者数+当該年度の受診者数)/当該年齢対象者人数×100
とし、年1回行う場合と同じ考え方で算定する。

改正の問題点

 今回の改正の問題点としては隔年検診となった点である。検診が普及化されて以来、ほぼ全国市町村で毎年検診が実施されてきた。しかし近年受診率は低下傾向にあり、特に新規受診者の伸び悩みが今回の改正につながった。特に諸外国は隔年検診が多いことも参考にされた。しかし、日本における子宮頸がん検診の現状としては諸家の報告をまとめると、扁平上皮癌に限ると1年または2年の間隔でも十分とも考えられるが、腺癌は1年間隔でも不十分であるなど、受診率80%以上の諸外国に比べるのは無理も多い。

《日本における子宮頸がん検診の現状と対応策》

  • 扁平上皮癌:1年または2年間隔で十分の可能性あり。
  • 腺癌(最近増加15〜20%):1年間隔でも不十分。
  • 若年女性においては浸潤癌での死亡を避けることと子宮温存治療を行うことが目的で毎年検診が望ましい。
  • 若年者や検診歴の少ない者では毎年の検診が望ましい。
  • 定期的な受診歴あり異常なしの30歳以降の女性の検診間隔に関しては延長しても良い可能性があるが、今後の受診率の動向などを検討してから延長すべきであろう。

今後の対策

 現在、行政の勧奨する子宮がん検診は実施主体が市町村であり、医師会を通して各科の交渉によって成り立っているが、今後は各地域がこの改正点に反応すると思われる。医会会員としては現状においては従来どおりの毎年の受診間隔が必要であることを種々のデータによって地方自治体に理解を求めると同時に、隔年検診に備えての細胞診の採取適正標本により留意しなくてはならないだろう。そのためには従来長い間広く行われた日母型の細胞診の見直しも不可欠なものとなってくることが予想され、がん対策委員会で慎重な検討が加えられる。20代に拡大された若年検診も依然受診者は少なく、その辺を正確にまとめてデータを公表し今後の子宮がん対策に備えていきたい。

検診実施に際して留意すべきこと

  1. 特に初回受診者、若年者(20代)、妊娠はじめその他の目的の来院者への啓発方法の検討。
  2. 精度管理の向上〔細胞採取法、固定法の改善・診断手法の改正(ベセスダ方式の導入等)〕。
  3. 診断法−液状検体の導入の行方。
  4. HPV ハイブリットキャプチャーの低コスト化と普及。
  5. 性教育に子宮がん検診の若年化の現状を取り入れる。