日産婦医会報(平成16年12月)

Web 版周産期電子カルテの開発と普及

情報システム委員会委員長 原 量宏


はじめに

 Web 版電子カルテは、特殊なソフトを使うことなくインターネットに接続されたパソコンだけで利用可能です。今年度、情報システム部では事業計画に沿って、より低価格で使いやすいWeb 版周産期電子カルテを開発しその普及を図っています。この度開催された第31回日本産婦人科医会学術集会(千葉大会)の会場において展示したところ、皆様に大変関心をもっていただけましたので、医療と医業の紙面をお借りして紹介いたします。

ネットワーク対応周産期電子カルテの開発

 厚生労働省により全国的規模で進められている、「周産期医療のシステム化」プロジェクトでは、総合周産期母子医療センターと地域の医療機関が相互に有機的に連携できる体制の確立が不可欠です。また最近の、産科オープン・セミオープンシステムへの流れが大きな話題になっており、これまで以上に緊密な病診連携が求められる時代となりました。その意味でもネットワーク対応の電子カルテの実現は必要と思われます。ネットワーク上で電子カルテの情報を確実に交換、保存するためには、医療情報記述の標準化が必須であり、情報システム部では1999年に日母標準データフォーマットを制定してきました。また、香川県においては、5年前より県のモデル事業として県内の産婦人科医療機関を結ぶ日母標準データフォーマットに基づいた周産期電子カルテネットワークが稼働しています。しかし、個々の医療機関のパソコンにソフトをインストールする必要があるため価格が高くなりがちで、普及に向けてのさらなる工夫が待たれていました。

Web 版周産期電子カルテとは

 光ケーブルや、ADSL に代表されるいわゆるブロードバンドの普及とともに、Web 技術を用いたソフトが実用化されてきました。今回紹介するWeb 版周産期電子カルテは、そのWeb 技術を応用した画期的なもので、インターネットに接続されたパソコンであれば、ウェブブラウザ(インターネットエクスプローラ)を用いることにより、全国のどこからでも利用できることが大きな特徴です。ソフトのインストールが必要ないため、維持費を非常に安価(月数万円程度)にすることが可能です。また周産期情報はすべてセンターのサーバーに保存されるため、これまでの情報管理の煩雑さも大幅に軽減します。今年度、香川県の周産期ネットワークにあらたにWeb サーバーが導入されました。そこに今回開発したWeb 版周産期電子カルテ(文部科学省科学研究費)を載せることにより、香川県の医療機関はもちろん、全国の医療機関がどこからでも利用できるようになりました。

セキュリティを確保した医療用ネットワーク

 インターネットを用いて医療情報を送るためには、厳格なセキュリティ確保が大前提となります。そこで、昨年度厚生労働省の研究班「電子カルテネットワーク等の相互接続の標準化に関する研究班」が組織され、セキュリティを確保し医療用ネットワーク(UMIN―VPN)が制定されました。香川県の周産期ネットワークにはこのVPN 装置が設置されており、全国の医療機関がセキュリティを保ちながらネットワークに接続することができるようになりました。

おわりに

 Web 版周産期電子カルテの導入により、妊婦健診のデータ管理だけでなく、分娩中、分娩後、新生児の情報、そして統計処理が効率よく行えます。また院内と他の医療機関の情報共有、交換が容易になり、病診連携がより緊密に行えます。Web 技術の特徴を生かすことにより、妊婦が家庭のパソコンや携帯で、電子カルテと連動する自分の妊娠経過を確認することも可能で、さらに妊娠週数や合併症に応じた画像と音声による妊婦指導の機能も付加できます。これらの情報を電子媒体に記録し、出産後の誕生記録として妊婦へお渡しすることもできます。今後Web 版周産期電子カルテに、モバイルによる在宅妊婦管理システムを組み合わせることにより、医療従事者だけでなく、妊婦や家族にとっても安心でやさしいシステムが実現すると思われます(Web 版周産期電子カルテ詳細は、下記をご参照ください。
http://www.jaog.or.jp/JAPANESE/jigyo/JOUHOU/H15/toshin15_net.htm