日産婦医会報(平成15年12月)

「開業女性医師と患者の意識アンケート調査」より
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これから開業を目指し医師へのアドバイス

前医療対策委員会委員 森田 良子


 昨年度の医療対策委員会で行った上記のアンケート調査結果については、特集号などで報告済みであるが、これから開業を計画している医師たちへの貴重な提案も多数いただくことができた。集計結果の数字には現れない生の声を、この場をお借りしてお伝えしたい。
 設問:これから開業を計画している女性、男性医師へのアドバイスがあればお聞かせ下さい、に対する回答集である。

〈男性医師への提言〉

  • 専門性をもつ:プライマリケアでは女性医師が好まれるのは致し方ない。IVF や日帰り手術などセールスポイント、特色、特技を持つとよい。この病気ならこの先生、といった専門性を打ち出せば性別は二の次になる。
  • 女性スタッフを充実する:保健師や助産師、看護師など女性同士だから話せるという内容に対応してもらう。相談用の別室があるとよい。それらのスタッフと対等にディスカッションして患者の訴えを理解しようと努めること。
  • 女性患者に対する共感を持つ:産婦人科医を選択した原点に戻り、どうすれば女性をはじめ社会に貢献できるかを考えてほしい。患者サイドに立ち、温かく共感をもって丁寧に対応して、頼れる男性医師と患者さんに感じてもらえれば、女性医師よりも人気が出ると思う。

〈男性医師への苦言〉

  • 患者さんの気持ちに配慮を:女性として産婦人科を受診するのは他科へ受診するのと違い抵抗のあるものなので、配慮が大切。デリケートな部分を診察するには相手が嫌な思いをしないようにする。女性と同じ経験をすることができないのだから、少しでも話をよく聞き、十分に説明をするよう心がける。子宮や卵巣を摘出する必要があるなら、その根拠を納得できるように説明することが不可欠。
  • 内診時の心遣い:内診は痛いもの。腟鏡のサイズや使い方は、思いやりをもって工夫する。乱暴な診察がトラウマになった未婚女性や、閉経後に腟が萎縮して痛みが強く、受診を回避するようになる方も少なくない。
  • 人生観、価値観など意識の多様化を理解する:性生活、結婚観、挙児希望などに関する女性側の意識は極めて多様化している。自分の先入観で対応しないでほしい。

〈女性医師への提言〉

  • 事業主としての役割:借入金、職員の雇用、事務など、 診療以外の面で女性が仕切るには覚悟が必要。女性医師への期待:女性医師を希望する患者さんは多いので、需要がある一方、「女の先生だから分かってもらえるはず」という過大な期待は重圧になりうる。しかし、特に初めて産婦人科を受診する方には女性医師が対応して、 産婦人科恐怖症にならないようにする。
  • 医療レベルについて:患者さんは女性医師の優しさとともに十分な医療レベルを期待している。専門外のことまで診療を要求されることがあるが、できないことについては各分野の専門家を紹介する。そのために協力関連病院を多く作っておくと良い。とくにメンタルケアが有用。

〈女性医師への苦言〉

  • 同性だからこその注意:自分の価値観を押しつけないこと。高圧的な言葉づかいも聞き苦しいが、若い人や同世代の方に馴れ馴れしい言い方をするのもよくない。きちんと丁寧語をつかうこと。日頃の対応や努力が大切である。
  • 女性医師に対する苦情:みくびられたり、難癖をつけられることもあるので、毅然とした力強い対応をすること。
  • メリットに甘んじない:初診は女性医師に受診されても、患者さんが定着するわけではない。女性としての心配りや優しさに加えて、医師としての能力を磨き、診療に打ち込む姿勢が重要。常に相手の立場に立つという視点が不可欠。

〈共通して言えること〉

  • 開業医に求められていることは何か:よく話を聞いてくれること、分かりやすい言葉で十分説明してくれること、プライバシーが尊重されること、待ち時間が少ないこと。
  • 心のこもった医療サービス:誠心誠意、患者さんと向き合うこと。忍耐強く話を聞き、説明することが大切である。
  • 診療レベル:最新の医療情報を患者さんに理解できるように説明し、実行する努力が求められる。
  • 協力関連病院の確保:地域の医療連携を円滑に利用できるよう情報交換、人的交流に努めること。