日産婦医会報(平成15年3月)

北海道の遠隔医療センターにおける
汎用型広域周産期情報ネットワーク構築の試み

旭川医科大学産婦人科助手 福家 信二


【はじめに】

 本学診療圏である道北地区と一部の道東地区(上川、富良野、宗谷、留萌、遠紋、北網)は、面積が九州全域に匹敵する極めて広大な地域であるが、医療施設の密度は低い。平成10年の北海道の出生数は49,065人で、その約4分の1の12,000人余りが同地域で出生している。しかしながら、当地域は総合周産母子センターを有していない医療過疎地域であり、冬期間の降雪など厳しい自然環境下、他の地域とは異なる風土のため、患者搬送の手段に支障が生じることも少なくない。
 このような問題の解決に向け、本学に既存する“遠隔医療センター”を利用し、胎児情報伝送に最も有用と考えられる超音波画像伝送システムや周産期情報をネットワーク化することにより、ハイリスク妊婦の管理に役立てるシステム作りを実践してきた。本稿では、その変遷と今後の展望を紹介する。

【変遷と現状】

 平成9年のわが国での医師法第20条関連通達:遠隔医療合法化以来、遠隔医療に関して様々な試みが行われているが、本学産婦人科でも、“遠隔医療センター”を利用して4地域関連病院との間にパソコンを用いたテレビ会議システムを構築し、胎児超音波断層診断、ハイリスク妊娠管理の情報、母体搬送を含めた周産期システム構築を展開した。さらに、平成11年よりハイリスク妊婦のISDNを用いた超音波画像伝送システム(圧縮画像)による妊婦・胎児異常診断を開始した。
 しかしながら平成11年の厚生省統計によると、平成10年の北海道の周産期死亡率は6.2(出産1,000人対)で全国平均と同水準であるものの、その内訳でみると新生児死亡1.8(14位;全国2.0)に対し、死産率42.1(44位,ワースト5位;全国31.4)、自然死産率15.9(44位,ワースト5位;全国13.6)であった。つまり新生児死亡の水準は全国水準と言えるが、死産率は極めて高いことが特徴とされている。このことは、当地域では、母体・胎児情報管理システムを持たないことにより、新生児医療に到達し得ない症例が死産として扱われている可能性がある。

【今後の計画:3次元超音波検査の利用】

 今後はさらに、ネットワークが可能な施設増加と光ファイバー化による高速化を図り、より広域でリアルタイムの動画像配信による周産期遠隔地コンサルテーションシステムの構築を計画している。
 現在、基礎実験として、超音波検査動画配信について、必要なインフラおよび適切な配信速度、画像サイズなどについて検討を行っている。
 しかし、超音波検査は、画像を構築する相手側医師の技量に依存する部分が大きく、インターネットにより超音波動画像が配信され、遠隔地で診断可能となっても元の画像の質によって診断精度が影響を受ける可能性がある。そこでこの影響を排除するために、超音波診断を依頼する医師がより簡単な操作で取得した超音波画像をもとに、専門医が診断を行うことを可能にすることが必要である。
 このために新しい試みとして、一般的に行われている2次元超音波検査を3次元化処理した超音波検査利用の可能性を検討している。この方法は、一般の超音波断層装置の超音波プローブに磁気位置センサーを取り付け、プローブの位置・角度情報と超音波画像情報を同時にパソコンに入力して、位置・角度情報をもとに3次元画像を構築するものである。最大のメリットは、3次元画像情報がパソコン上に作られ、患者がいなくても任意の時刻に任意の断面を再構築できることである。臓器の連続性を時間軸に置き換えて再検討したり、通常の超音波検査では得ることのできない角度での断面を構築したりすることができるのである。
 このような臓器の3次元情報を配信できれば、当地域に留まらず全国各地の超音波診断に優れた医師が情報を受け取り、コンピュータ上で画像診断が可能になる。この方法は、今まで検討されてきたreal time の動画配信と異なり、実際に超音波検査を行う検査者の技量の影響が小さくなり、正確な診断を行えることが予想される。今後、インターネット配信網の構築と同装置の導入が進めば、診断が難しい症例に関して専門医の診断を容易に得られると考えられる。

【まとめ】

 今後、本学の“遠隔医療センター”のネットワークをさらに発展させ、更なるハイリスク妊婦の管理の向上が図られることと、地域の新生児死亡率や死産率改善のためにも光ファイバー通信網構築とreal time 動画像配信による3次元超音波診断学確立への努力が望まれる。