日産婦医会報(平成14年5月)

オフィスクリニックでのデイサージャリー
 ―リープによる上皮内癌円錐切除術―

陳瑞東クリニック(東京都) 陳瑞東


1.デイサージャリーのインセンティブ

 手術器具の革新的な進歩により低侵襲のデイサージャリーが導入されるようになっているが、施設面の制限があるオフィスクリニックではまだ浸透していない。一方、設備の整ったオフィスクリニックでは人工妊娠中絶手術が行われているため、この管理体制を活用した新たなデイサージャリーの導入が期待される。そこで、本稿ではクリニックで行っているリープ円錐切除術の内容を紹介し、皆様の診療の一助となることを期待したい。

2.広報面だけに留まらない訴求メリット

 一般診療や住民検診を通じて、クリニックは患者のがんに対する不安感をいかに対処できるかが問われる。診断面では、細胞診の採取手技、検体の管理、コルポスコープによる頸部の精査など精度管理を高める努力を積み上げることが重要であるが、治療面においても高度異形成や上皮内がんであればデイサージャリーで治療可能であると説明できれば、患者からの高い信頼性が得られる。また、同時にスタッフにも職務に対する緊張感や積極性が高まり、医療行為に対する意識改革につながる場合もあり、広報面だけに留まらないメリットが期待できる。

3.必要とする機器

 リープ装置とコルポスコープが必要である。現在使用しているリープ装置はエルマン社サージトロンFFPFである。価格もレーザー装置に比べて安価であり、コンジローマやバルトリン腺膿瘍の切開にも使用でき利便性が高い。コルポスコープは切除範囲を確認するのに必要であるだけでなく、子宮頸部や腟壁所見の精度を高め、がん検診の信頼性を高めるのに重要な検査装置である。

4.手術の実際

 酢酸固定、イソジン染色によりコルポ下に子宮頸部を観察、切除範囲と使用するリープ電極の大きさを決める。キシロカイン注射液0.5%エピレナミン含有20mlを頸管周囲に局注し、表面の血行が減少したところで切開モードにて円錐切除を施行する。通常は12時から6時の方向へ垂直に切除するが、切除範囲が広いときには4方向から周辺部を部分切開してから垂直切除している。切開後切開部分の止血凝固はボール電極にて行う。

5.術前術後管理

 一般的な術前管理で十分であるが、局麻剤によるショック予防のため、食物アレルギー、喘息、アトピー、過去の麻酔の問題など術前の問診はできるだけ詳しくしている。また、患者には使用薬剤と注意点を説明し、ボルタレンとアスピリン喘息、直腸炎、セルシンと緑内障、重症筋無力症、キシロカインとアレルギー反応の既往などを確認している。術後管理は出血が重要である。注意しなければならない時期は術後24時間以内と約1週間後である。
 前者への対策は術後安静後に再度創部を確認すること、術中止血時にボール電極で切開創を十分凝固することが重要である。後者は出血点を再凝固するか出血点を圧迫するように子宮頸部を大きく縫合することが有用である。過度の再凝固はかえって出血期間を遷延させるので注意が必要である。術後2週目頃から漿液性分泌液が増加し、2週間ほどで正常になる。この間、週に2〜3回の創部の確認と洗浄を行う。

6.検体管理

 病理検体は12時にマークをつけ、ホルマリン固定する。依頼病理センターには12分割の病理標本を作製してもらっている。

7.フォローアップの要点

 術後1カ月は患者が最も気にする症状でもある出血と腟分泌物の管理が主である。特に分泌物が増加してくると心配するので、この変化が治癒過程で生じることを理解させ、外陰部に湿疹が生じないようパットや下着の交換に注意させる。術後3カ月から4カ月ごとにコルポスコープの観察と細胞診のフォローアップが必要である。

8.収支関連

 エルマン社サージトロンFFPFの定価は50万円(現在新機種の販売中)。これにリープ電極などの付属品が必要である。コルポスコープは定価80万円。以上が必要な設備投資である。一方、子宮頸部円錐切除を施行した場合の保険点数は3,330点である。

9.終わりに

 医療技術の進化によりリープをはじめとする専門病院の治療手段がオフィスクリニックに導入可能となった。医療経営環境が厳しくなった今日こそ、コストパフォーマンスの合う技術導入で診療と経営の基盤強化が必要であろう。