日産婦医会報(平成14年2月)

豪雪地の産婦人科医療の現況医療

新潟県立六日町病院診療部長(産婦人科) 須藤 祐悦


はじめに

 当病院のある新潟県南魚沼郡は、六日町を含めて4町からなり、人口約7万5,000人で、県内で最も東京に近い位置にはあるものの、日本有数の豪雪地帯であり、一昔前までは冬は陸の孤島と化していた。
 その後、国道、新幹線、高速道路が整備され、除雪、消雪も行き届くようになり、雪国の生活もさほど不便を感じなくなってきている。
 また、近年、地球温暖化のためか小雪傾向にある。それゆえに豪雪地だからといって特別大きな問題があるわけではないが、自身の体験をまじえて、気のついたことを列記し、責を果たしたい。

1)冬場の病院までの交通手段

 当郡は産婦人科医療施設が極端に少なく、当院に集中せざるをえず、年間約600件の分娩を取り扱う。さらに南北に細長く、場所によっては車で1時間以上かかる集落もあり、冬場の緊急時の交通手段が問題になる。ほとんどは自家用車で来院できるが、たまに夜中に大雪が降ると自宅から車をすぐに出せないことがあり、また深夜はタクシーが稼働しないことも原因して、病院にたどり着けない事態が起こりうる。しかし、幸いにも分娩に関連して救急車を依頼するのは年に数件である。

2)妊婦の交通事故の増加

 冬期間の積雪量は2〜3 にも及び、ロータリー除雪されたあとの道路の両側は雪の壁となり、交差点では左右の視界が狭まって、皆気をつけて徐行はするが、接触事故が起こりやすくなる。また、除雪体制はしっかりしているが、朝晩の冷え込みの厳しいときは路面が凍結することがあり、そのため妊婦自身がスリップ事故にまきこまれて、追突したりされたりして受診することが多くなる。

3)豪雪地ならではの体験

 私が当院に赴任して17年になり、その間冬期にはいろいろなことがあったが、雪にまつわるエピソードを2つ紹介したい。
 1つは、自宅から病院まで100 足らずの距離であるが、まだ除雪されない時間帯に、1 以上の積雪があり、分娩で呼ばれて病院にたどり着くのに1時間以上かかったことがあった。妊婦はドカ雪の降る前に入院していて、私が病院に着いたときは、当然のごとくすでに生まれていた。
 いま1つは、救急車で他病院に母体搬送することになり、高速道路に乗ったはよいが、ふぶいて一面真っ白であり、路幅も前後も分からず、1枚の白いカーテンに向かって突き進む状態で、救急隊員も身の危険を感じ、次のインターで降り、下道をゆっくりと目的地に向かった。

4)スキー、スノーボードによる陰部外傷など

 郡内にはスキー場が33カ所あり、温泉観光地でもあるため、冬場は特に多くの観光客でにぎわう。一時は東京都の人口とほぼ同じ数の人々が訪れていたが、最近は不況のためか徐々に少なくなってきている。以前より、スキーで滑走中に転倒、あるいはリフト乗降の際に外陰部を打撲し、血腫や裂傷を生じて受診する人がひと冬平均2〜3人いた。しかし、数年前からはスノーボードが盛んになり、多い年は合わせて20人を超えるようになってきた。その8〜9割がスノーボードで占める。
 また、スキー、スノーボードによる直接的な外傷の他に、滑走中に体を揺らすことが原因するのか卵巣腫瘍の茎捻転が発症したり、あるいは夜になって解放的な雰囲気になるためか性交で性器損傷を生じたり、排卵期の性交が誘因と考えられる卵巣出血を起こして緊急手術になることもしばしばある。
 加えて妊娠初期流産や、中には妊娠10カ月で当地に観光に訪れ、急に産気づいて受診する人もいる。これらの緊急事態のほとんどが、年末年始を除いては金曜日の夜から日曜日までの週末の観光客で込み合うときに発生している。

おわりに

 山間地にある当病院は、規模の割には分娩件数が多い。にもかかわらず新生児集中治療ができないため、緊急時には母体あるいは新生児を高速道路を利用しても数時間かけて他院に搬送しなければならない。冬場はさらに時間がかかるため送るかどうかの判断で苦慮することも多い。
 最近、当地では、町村合併や県立病院統合の話が出ているが、統合されると医療対象人口は約20万人となる。これを機にこの地域でのNICU を含めた周産期治療やがん治療を、集約的かつ地域完結的に行える施設と体制作りを希望する。