日産婦医会報(平成14年12月)

医療に関する広告規制の緩和について

日本産婦人科医会常務理事 亀井 清


【はじめに】

 医業に関する広告については、これまで患者保護の観点から医療法その他により、診療科目などの基本的な情報に制限されてきた。しかし、今般の医療制度改革では、わが国の医療を一層質の高い効率的なものとしていくために、医療に関する情報開示を進め、患者の選択の拡大を図ることが重要とされ、本年4月1日の厚生労働省告示により広告規制の大幅な緩和が行われた。具体的には、医療機関(病院、診療所)が広告できる事項として約20項目が新たに追加された。以下に主なものを紹介する(詳細は厚生労働省ホームページを参照、「情報検索」でキーワード「広告規制緩和」「平成14年」によりアウトプット)。なお「広告」とは、不特定多数の者を対象とする方法により、患者誘引の目的をもって行われるものであり、具体的には雑誌、ダイレクトメール、テレビコマーシャル、チラシなどを指す。

【緩和された広告規制の内容】

○ 医療の内容に関する情報:
専門医資格、分娩件数、治療方法、平均在院日数、手術件数、(疾患別)患者数
○ 医療機関の体制整備に関する情報:
入院診療計画の導入、医療安全のための院内管理体制、患者相談窓口の設置、セカンドオピニオンの実施、症例検討会の開催、電子カルテの導入
○ 医療機関に対する評価:
日本医療機能評価機構の個別評価結果
○ 医療機関の運営に関する情報:
病床利用率、外部監査、理事長の略歴、患者サービスの提供体制に係わる評価(ISO9000s)

 その他、医療機関の構造設備・人員配置に関する情報(医師・看護師等の患者数に対する配置割合など)、医療機関のホームページアドレス等々である。
 手術件数、平均在院日数などの診療実績に関する項目は、内容が正確であるか検証することができるように、年報等を作成して公表することなどを条件としている。
 セカンドオピニオンの実施に関しては、広告にその旨の記載があれば、受診した医療機関にカルテなどの提供を遠慮なく頼めることになる。

【専門医資格の広告】

 「専門医資格を認定する団体の基準」が種々(中間法人やNPO 法人でも可、正会員数1,000人以上など)決められているが、これらを満たしている日産婦学会が、専門医認定制協議会を経て、厚生労働大臣に「専門医資格認定団体に係わる基準該当届」を出し、本年10月1日付で「広告が可能な医師の専門性に関する資格名」として、「産婦人科専門医」を有する旨を広告しても差し支えないことになった。これにより、今回初めて専門医の社会的容認と位置付けが叶うことになったわけである。
 ただし、専門医資格の広告が可能なのは、常時診療に従事する医師についてのみである。厚労省は、日産婦学会が認定する専門医名の一覧を各都道府県宛に通知するとともに上記ホームページに公表し、個別の広告が規制に抵触するか否かを判断する際の参考に処するものとしている。

【おわりに】

 まず、今回の告示改正は「広告」に関するものであるが、医療機関が公表する年報や来院患者用のパンフレット・院内掲示等の「広報」、さらにはまたインターネットや公的機関によるもの(今のところ対象が不特定多数とみなされていない)などとは区別されている点に留意しておく必要がある。特に、インターネットでは広告と違って規制がないため、疾患ごとの死亡率まで踏み込んで公開する病院も出てきている。今後も増えそうだが、内容に問題がある可能性もあり、注意していく必要があろう。
 今回の広告認可内容をみてみると、客観性を担保する観点から、その多くが診療報酬点数表で認められているものに限るとされ、診療報酬上の各種許可・改定事項と連動していることにも留意する必要がある。
 今後、医療機関の広報力が問われ、病院間の競争が進み、これが医療の質全体の底上げとなり、患者・利用者および地域・社会との信頼関係の醸成にまで至れば理想的であるが、患者の情報見極めという自己責任の観念が他方の要諦となっていることも昨今の特徴と言える。