日産婦医会報(平成13年11月)

岩手県のネットワーク構想 ― いわて情報ハイウェイ

医療情報対策委員(岩手県支部) 小笠原 敏浩




はじめに

 近年、デジタル化技術の進歩で医療の効率化・高度化が図られ、医療・保健・福祉の分野の情報ネットワークが整備されつつある。四国4県と同等の面積を有する岩手県では、総延長700 に及ぶ全県規模の広大な公共情報ネットワークで県内を光ファイバーでつなぐ大規模事業「いわて情報ハイウェイ構想」が進められている。本稿ではその概略と、医療分野での利用計画について紹介する。

「いわて情報ハイウェイ構想」の目的と概要

 岩手県の総合計画は「環境、ひと、情報」を3本柱とするが、そのうちの「情報」の一環として、ハイウェイ県内どこからでも質の高い公共情報や公共サービスが受けられる環境を作ることを目的とする。
 約58億円の予算が計上され、モバイル端末(移動携帯端末装置)を使った情報活用推進事業、次世代携帯電話の本格利用に向けたコンテンツ研究、電子県庁構築事業、防災情報ネットワークシステム整備事業が進められている。
 いずれも専用回線を用いて各分野を一元化すると同時に、情報の安全性・信頼性を高め、個人情報の保護対策に配慮しながら、柔軟でかつ汎用なネットワークを構築する。

ネットワークシステムの構成(図)

 機軸となるのが、県庁と地方振興局、県立総合教育センターを結ぶ基幹ネットワークで計14カ所にアクセスポイントを置き、各アクセスポイントから盛岡市と周辺5市町村とその他の市町村、中核の県立病院、岩手医科大学、岩手大学、岩手県立大学を結ぶ。利用分野は医療保健福祉、教育情報、総合防災情報、行政情報、県民情報、コミュニティの5つのネットワークに大別される。

ネットワークシステム構成

「いわて情報ハイウェイ」の医療分野での利用

 第1次設計として(1)〜(5)が重点的に整備される。

(1) テレビ会議によるカンファレンス支援:
 複数の拠点で、静止画や動画を参照しながらカンファレンスを行うことができ、救急医療現場(含む産科救急)での活用が期待されている。

(2) 遠隔診断支援(静止画・動画・検査情報等):
 遠隔放射線画像診断や遠隔病理画像診断(含む術中迅速診断)に利用し、この分野も救急医療で期待されている。

(3) 医学教育の要素を含む遠隔手術支援:
 内視鏡手術等の映像を伝送し、テレビ会議を行いながら遠隔で手術指導する。

(4) データベース検索・教育支援:
 岩手医大が収集した教育用画像(映像)データベースからのダウンロードや付属図書館の文献検索システムを遠隔地でも利用可能となるよう検討中である。

(5) 「がんネット」「循ネット」機能の拡張:
 両ネットの会議模様を画像ファイルとして蓄積、データベース化し、各医療機関が常時アクセス可能とする。2次設計としては表に示す(6)〜(12)の7項目が計画されている。

 表 岩手県・医療情報HWにおけるアプリケーション機能 (1)〜(5)は略
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
(11)
(12)

 紹介先選定支援機能
 患者紹介(逆紹介・フォロー)支援機能
 患者情報共有支援機能
 救急時における医師所在確認支援機能
 緊急時遠隔医療支援機能
 診療・検査予約支援機能
 情報提供支援機能

総合周産期センターでの情報化の現状

 平成13年4月、総合周産期母子保健センターが開設された。しかし、同センターは「いわて情報ハイウェイ」とは別部門で運営されており、救急医療情報システムサーバーを利用しての運営となった。現在、FAXとPCの両方で情報交換しているが、今後PCの一本化へ調整中である。

おわりに

 岩手県では、今後もますます地域の情報化が進められていくことになろう。NTTが「2013年には、各家庭まで光ファイバーを引き込む」と一度は豪語したように情報化は家庭、個人まで押し寄せている。産婦人科医もこの情報化に遅れることなく積極的に利用することが望まれる。