日産婦医会報(平成12年7月)

大阪産婦人科医会医業経営実態調査より

大阪産婦人科医会 西野英男、岩永啓、西松則之、都竹理 他


はじめに

 大阪産婦人科医会(医会)は、平成11年7月、医業経営の現状を知る目的で、医会A会員を対象にアンケート調査を実施した。今回、その結果から特に診療所に関係のある部分を抜粋し報告するとともに、考察と提言を述べる。

会員数の推移

 対象となる医会A会員(病院・診療所の開設者や部長、大学の教授、助教授など)数は591名で、全会員1250名中47%を占めるが漸減傾向にあり、平成11年にはB会員数と逆転した。全会員数は平成2年以来、全国の出生数とパラレルに減少しているのが興味深い。
 また、大阪府医師会(医師会)全会員数は平成2年から11年までの9年間に26%増加したのに対し、医会会員数は6%減少し、医師会会員数に占める割合も平成2年の10.2%から平成11年の7.6%にまで減じている。さらに、会費は納めているが産婦人科離れしている会員を除くと実質四%前後になると推定され、将来的には医師会での発言力にも影響しかねない状況である。

分娩取り扱い有りの施設の実態

 分娩を取り扱う(分娩有り)診療所数は、全体の32%であった。これは平成10年12月に日母が実施した調査の都市部診療所のそれと同様の結果であったが、市内に限定すると僅か23%に過ぎなかった。分娩有りの診療所医師の年齢分布をみると60歳代が最も多く、50代、40代がこれに続き、高齢化が顕著である。いずれの年代も約半数の施設では、常勤医(院長)1名で診療と分娩にあたっているのが実情である。
 年間分娩数を見ると、常勤医2名以上の診療所では市内、府下各々年平均397件、323件であった。また、常勤医1名の施設でも減少傾向にあるものの、府下では245件と2名以上の施設と大差なく健闘しているが、市内では年平均81件に過ぎず、前3群との体力差が浮き彫りになった。経営状態は、市内で常勤医1名の場合、分娩数が少なく71%が苦しいと回答している。これに対し府下では32%に過ぎなかった。一方、常勤医2名以上の施設では、市内83%、府下86%が良好(盛業または普通)と答え、市内でも常勤医2名以上ならば、経営的にも安泰と言える。しかし、市と府下の人口比が3対7に対し産婦人科施設数比は4対6であること、その上市内には大病院も多く患者が集中することから、市内常勤医1名の診療所の経営改善を望むことは難しい。

分娩取り扱い無しの施設の現状

 分娩取り扱い無し(分娩無し)の施設のうち市内では経営が苦しい(大変またはやや苦しい)との回答が73%あり、府下の同群が50%であるのと対象的であった。しかし、平均レセプト件数でみた場合、60代の市内245枚、府下306枚から70代のそれぞれ145枚、150枚と同程度にまで減少している。医師自身の高齢化による影響は地域に関係なく現れると考えられる。
 また、科目別収入割合を分析すると、市内では内科等他科の収入割合が全収入の過半数を占める診療所は全体の22%、府下では32%であった。市内の方が産婦人科離れが進んでいると予想したが実情は逆であった。市内ではまだ産婦人科で頑張っていると言えるが、他科への診療領域拡大の機会を逸したとも解釈できる。
 分娩無しの診療所で、力を入れている診療内容は更年期外来とがん検診が多く、妊婦健診と答えた施設は殆どなかった。

医事紛争

 分娩無しの診療所では39%が何らかの形で医事紛争に遭遇し、うち67%が府医師会医事紛争委員会に依頼している。分娩有りの診療所では、この数字が各々63%、91%に、個人病院では52%、81%に跳ね上がる。日母の過去の調査に比べ高率であるが、苦い経験をした医師ほどこのような調査に深い関心を持ち回答率が良いこと、調査期間を限定しなかったことが影響している。

将来像と提言

 今後、分娩は病院や大規模診療所に集中すると予想され、分娩無しの診療所のあり方が問題になる。平成10年9月の日母実施の新規開業施設調査では、更年期外来、がん検診は盛業の条件にならないことが判明している。しかし、同調査は借金返済や多額の運営資金を要する40代が主体で、大半が60代以上であるわれわれとは状況が異なる。大阪の場合、長年切磋琢磨してきた産婦人科知識の活用が有効であろう。適切な方法でなされたHRTの利点や、がん検診の重要性をメーカーやマスコミとともにPRし、産後や閉経後の女性の健康管理も意識した女性総合科としての診療が望まれる。