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放射線被爆と先天異常

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日本産婦人科医会・先天異常委員会委員
東北大学医療技術短期大学部教授
高林 俊文


【はじめに】

 医学の進歩とともに放射線診断の機会が増加し、診断量照射(低線量)について注目されるようになった。妊娠女性でも例外でなくその被曝により将来起こるかもしれない障害の大小と検査の有益性との判断を要求される。胎芽・胎児は子供や成人に比べ放射線の感受性はより大きく、照射時期や線量によって影響が異なる。心配されるものは胎芽・胎児死亡(流産)、外表・内臓奇形、発育遅延、精神遅滞、悪性腫瘍、遺伝的影響などである。

 

【1.胎芽・胎児への影響】(表1)

 胎芽・胎児の発育期は、着床前期(受精0〜8日)、主要器官形成期(受精9日〜60日)、胎児期(受精60〜270日)に分けられ、時期により発生する異常が異なる。表1に主な異常と胎児発育期間およびしきい値を示した。流産(胎芽・胎児死亡)は着床前期に最も多く、器官形成期の被曝でも起こる。そのしきい値は100mGy以上である。外表・内臓奇形は器官形成期にのみ起こり、各器官でその細胞増殖が最も盛んな時期の照射に特徴的に発生する。100〜200mGyがそのしきい値である。発育遅延は2週〜出生までの時期で認められるが、そのしきい値は動物実験で1000mGy以上照射すると起こることより推測される。精神遅滞は8〜15週に最も発生し、16〜25週にも起こる。しきい値は120mGyと考えられている。100mGy以下ではIQの低下は臨床的に認められていない。ICRP(国際放射線防護委員会、1991)では8〜15週に1000mGyを照射するとIQは30ポイント下がり、重篤な精神遅滞は40%発生するとしている。悪性新生物(癌)は15週〜出生までに起こり、しきい値はICRPでは50mGy以上としている。白血病、甲状線癌、乳癌、肺癌、骨腫瘍、皮膚癌が主なものである。遺伝的影響は高線量照射による動物実験では認められるが、ヒトの疫学調査では統計的有意差が見られていない。しきい値はUNSCEAR(原子力放射線影響に関する国際科学委員会、2000)では1000〜1500mGyと推測している。

        表1 主な先天異常と胎児発育期間およびしきい値


受精後

着床前期
器官形成期
胎児期
しきい値
(mGy)
0〜8
2〜8
8〜15
15〜25
25
週以後
流 産
(胎芽・胎児死亡)
+++
+
-
-
-
100以上
奇 形
-
+++
-
-
-
100〜200
発育遅延
-
+
+
+
+
100以上
(動物実験)
精神遅滞
-
-
+++
+
-
120
悪性新生物
(癌)
-
+
+
+
+
50以上
遺伝的影響
-
-
-
-
-
1000〜1500
(推測)
[文献(1)一部改変] 

 

【2.被曝線量】

 ICRP(2000)の報告より抜粋した主なものを表2に示した。単純撮影では胸部X線検査の被曝線量は0.01mGy以下で、腰椎、骨盤部でもそれぞれ1.7、1.1mGyである。CTにおける胎児被曝線量は骨盤部が最も多く25mGyである。なお最大線量も参考のため( )内に示した。

         表2 妊娠中の主な検査別胎児被曝線量 

検査方法
平均線量
(最大線量)mGy

 単純撮影

頭 部
胸 部
腹 部
腰 椎
骨盤部
0.01以下
0.01以下
1.4
1.7
1.1
(0.01以下)
(0.01以下)
(4.2)
(10)
(4)

 C T

頭 部
胸 部
腹 部
腰 椎
骨盤部
0.005以下
0.06
8.0
2.4
25
(0.005以下)
(0.96)
(49)
(8.6)
(79)
(ICRPPub84 2000年抜粋)  

 

【まとめ】

 妊娠中または妊娠と知らずに放射線診断を受けた場合には、

  1. 妊娠週数の確認
  2. 正確な胎児被曝量の推定
  3. 先天異常発生危険率の算出
  4. 先天異常の自然発生率との比較

などを妊婦および家族に説明し、その後の対応の一助とすべきである。現在のところ100mGy以下の胎児被曝はほとんど問題はないと考えて良い。なお妊娠をあきらめるかどうかの判断は、感受性の高い2〜25週で線量が10radsがその切り捨て点とみなされることが多いが、線量以外の多くの因子の考慮も必要であろう。

 

【参考資料】
(1)Kasama T, Ota K.:Congenital Anomalies 42,10〜14,(2002)  
(2)E.J.Hall著,浦野宗保訳;放射線生物学,篠原出版,第4版,(1995)