胎児消化管閉鎖疾患(食道閉鎖、十二指腸・小腸閉鎖、鎖肛など)[産科編]
 
聖隷浜松病院総合周産期センター 周産期科
村越 毅



 はじめに

   胎児・新生児の消化管閉鎖(狭窄)は出生2,000~5,000に一人程度に発症し決して稀ではありません。妊娠中期から後期にかけて羊水過多や胎児の消化管拡張サインなどから見つかることもありますが、胎児期には無症状か軽度の症状で経過し、出生後に胎便が出ないことや繰り返す嘔吐などで見つかることもあります。消化管閉鎖(狭窄)そのものは出生後に外科的治療(手術)で完治可能な可能性が高い疾患ですが、他の疾患(心臓病や染色体異常、症候群など)を合併することもあり、予後は合併症の有無や程度に左右されます。
 出生前に消化管閉鎖(狭窄)が疑われたら、専門の高次施設(新生児科、小児外科、産科などの連携がとれている施設)で精密検査や分娩管理および引き続く新生児管理が勧められます。また、出生後に色々な症状から消化管閉鎖(狭窄)が疑われた場合も専門施設での検査治療が必要となります。
 ここでは、代表的な疾患(食道閉鎖、十二指腸閉鎖、小腸閉鎖、鎖肛など)について出生前の症状を中心に解説します。
 

 消化管と羊水の流れ

 消化管は口から食道-->胃-->十二指腸-->小腸(空腸-->回腸)-->大腸(結腸→直腸)-->肛門とつながり、胎児期では羊水が口から上記の道筋をとおり嚥下や吸収が行われています。消化管閉鎖(狭窄)はこの通り道(消化管)の途中につながっていない部分(閉鎖)や狭い部分(狭窄)が先天的にある病気です。消化管閉鎖や狭窄があると、羊水がうまく上流(口)から下流(肛門)に流れることが出来ず、閉鎖(狭窄)部位より上流(口側)で消化管の拡張や羊水過多などの症状が起こることがあります。これらの症状が出現した場合は超音波検査で出生前に消化管閉鎖(狭窄)が疑われることがあります。
 胎児の嚥下運動(羊水を飲み込む運動)は妊娠中期以降(特に24~26週以降)に活発になるため、出生前診断される時期は妊娠中期以降となることがほとんどです。また、羊水過多は上部消化管閉鎖(食道や十二指腸、小腸の上部)に合併することが多く、下部消化管閉鎖(小腸の下部や鎖肛など)では合併しないこともあります。特に鎖肛では消化管の拡張も起きないため出生前の診断は極めて困難です。
 

 超音波検査による消化管閉鎖(狭窄)の出生前診断

 上述の羊水過多の他に、胎児の腹部に通常とは異なる嚢胞(超音波検査では黒く丸い構造)を認める場合は消化管閉鎖(狭窄)による消化管拡張像を念頭に置いて精密検査を行います。また、食道閉鎖では、食道より下流(胃や小腸など)に羊水がうまく流れないため逆に胃泡などが小さく描出されます。図や表に示したとおり、消化管の拡張像(嚢胞)の数、大きさ、形態などである程度は出生前に診断することが可能です。しかし、最終的な診断や治療方針は出生後に新生児を直接診断して決定します。鎖肛単独では消化管の拡張を伴わないため出生前に診断されることは極めて稀です。
 胎児期に腹部に嚢胞を認めても必ずしも消化管閉鎖とは限らないため、その他の疾患との鑑別のために専門医による精密検査が必要です(表1)。

     
図1.正常胎児腹部
  胃泡は胎児の左側に描出される。
   
     
図2.十二指腸閉鎖
胃と十二指腸の拡張が観察される(ダブルバブルサイン)。十二指腸以下の小腸の羊水像は見えない。羊水過多を合併する。  
 
 
     
3-a 3-b  
図3.小腸閉鎖
空腸閉鎖(3-a)では小腸拡張像(嚢胞)が数個確認できるのに対して、より下部の回腸閉鎖(3-b)では小腸拡張像(嚢胞)が多数描出され蜂の巣状(ハニーカムサイン)となる。羊水過多の程度は空腸閉鎖の方が強い。  
 
 
     
4-a 4-b  
図4.小腸閉鎖の鑑別診断
小腸拡張像が複数確認できハニーカムサインを呈していれば通常は小腸閉鎖と診断できるが、稀に、クロール漏出性下痢症(4-a)やヒルシュスプルング病の中でも広範囲無神経節症(全腸型ヒルシュスプルング病)(4-b)では胎児期には小腸閉鎖と同様の超音波所見を示す。正確な鑑別診断は出生後でないと困難であるが、胎児期の管理は小腸閉鎖と同様である。
 
     
5-a 5-b 5-c
図5.胎便性腹膜炎
小腸閉鎖により消化管が拡張し消化管が穿孔すると腹水が出現したり胎便性腹膜炎を合併することがある。
消化管壁の肥厚と軽度の腹水を認める(5-a)、消化管の著明な拡張を認める(5-b)、腹腔内に巨大な嚢胞(巨大嚢胞性胎便性腹膜炎)を認め内容液は腸管内容を含むため鏡面像を認める(5-c)  

 

表1.胎児腹部嚢胞性疾患の鑑別

部位 疾患 嚢胞の数 嚢胞の性状
消化管  食道閉鎖 0~1 単純(胃泡)
十二指腸閉鎖(狭窄) 2 単純
小腸閉鎖 数個~多数 単純
胎便性腹膜炎 1~数個 単純~複雑
水腎症 1~2 単純
水尿管症 1~2 単純
異形成多嚢腎(MCDK) 多数 複雑,大小不同
多嚢胞性腎(PCK) なし(腎の肥大) 均一
腎嚢胞 1~2 単純
副腎 副腎嚢胞 1 単純
副腎出血(神経芽細胞腫) 1 単純~複雑
卵巣 卵巣嚢腫 1 単純~複雑
膀胱 膀胱憩室 1 単純
尿膜管嚢胞 1 単純
泌尿生殖洞奇形 1~多数 単純~複雑

 

診断された場合の産科医の対応(妊娠中)

 消化管閉鎖単独であれば、出生後に外科的に根治術を行う事で完治が可能な疾患です。しかし、消化管閉鎖は染色体異常や心疾患の合併が少なくないため胎児期に消化管閉鎖を疑った場合は、心疾患(心構築異常)を含めて胎児の超音波による精密検査が必要です。また、症状に応じて染色体検査が必要になることがあります。羊水過多および胎児の腹部嚢胞を認めた場合は系統的な胎児異常の精密検査を行うか胎児疾患を専門とする施設での精密検査を依頼することが大切です。また、染色体検査を行うか否かについては染色体異常の有無により出生後の治療が大きく変わることもあるため、周産期遺伝専門医もしくは周産期遺伝に詳しい医師の関与も大切です。出生後は外科的治療(手術)が必要となることが多いため、あらかじめ小児外科および新生児科がそろった高次病院(必要なら小児循環器科、小児心臓外科、遺伝科など)での周産期管理が望ましいため、それらの施設への紹介もしくは連携をとることが望まれます。
 羊水過多を合併した場合は、症状により早産および前期破水のリスクが増加しますので、子宮収縮抑制剤の投与や羊水除去による治療が必要となることがあります。
 児の生後の予後を左右する因子は、1)合併症の有無、2)染色体異常の有無、3)児の未熟性であるため、これらに注意した管理および妊婦さん・御家族への説明が必要です。

家族への支援

 出生前に胎児の異常があるかもしれないと診断もしくは疑われた場合、妊婦さんおよび家族の不安は計り知れないものがあります。しかし、出生前に消化管閉鎖を診断もしくは疑われた場合は、出生後早期からの治療を受けることが出来る病院で関連する専門医や看護師などのチームで赤ちゃんに最善の管理治療を行う事が可能です。合併症が無く消化管閉鎖単独であれば、早産や前期破水に気をつけて管理することで出生後の外科的治療などにより完治が期待できます。また、合併症が存在する場合でも、それらに対して最善の治療を行う事で予後の改善が期待できます。
 全ての消化管閉鎖は胎児期に診断出来るわけではなく、胎児期に症状(羊水過多や超音波による症状)が無い場合は、出生後の赤ちゃんの状態(排便や嘔吐、腹満など)から精密検査を行い診断されます。
 出生前もしくは出生後に消化管閉鎖と診断された場合は、家族の不安を十分くみ取った上で精密検査を行い、正確な情報を伝え母子ともに最善の医療を受けられるような支援が必要です。家族の希望があれば出生前からでも新生児科や小児外科からの説明も役立つと思われます。また、出生後に消化管閉鎖が見つかった場合、母児分離となり新生児だけが専門施設に搬送となることもあります。この場合も母親(妊婦さん)の不安は大きいため、入院中でも母体の状況に合わせて転院や外出などが考慮されます。
 手術が無事終了したら赤ちゃんの状況に合わせて母乳摂取が可能となるため、母乳に対する配慮(搾乳、冷凍母乳保存、乳腺炎など)も必要です。