平成18年1月16日放送
  平成17年度日本産科婦人科学会専門医試験について
  日本産科婦人科学会中央専門医精度委員会委員長 宇田川 康博


 日本産科婦人科学会専門医制度は、昭和62年4月に前身の日産婦学会認定医制度として発足し、その後の医療内容の高度先進化や細分化された診療領域にも対応し得る専門医育成の要請から平成13年4月に専門医制度に名称を変更したものであり、足掛け19年が経過致しました。本制度の目的は、産婦人科領域における広い知識、練磨された技能と高い倫理性を備えた産婦人科医師を養成し、生涯に亘る研修を推進することにより、産婦人科医療の水準を高めて、国民の福祉に貢献することにあります。この目的を達成するため、本会は卒後研修のための指導施設の指定を行い、機関誌の研修コーナーや学術講演会時の生涯研修プログラムを企画して、産婦人科医のために研修の場を提供してきました。また同時に、本会では一定の水準に達した産婦人科医師を学会が認定するため、専門医制度規約第3章「専門医の審査と登録」の定めるところにより、平成5年度より専門医認定審査、即ち研修記録や症例レポートなどの書類による一次審査と面接試験による二次審査を施行してきました。さらに、客観的で透明性の高い専門医試験制度の確立と21世紀における産婦人科医療の向上を目指して、平成12年度より3年間の試行期間を置いた後、15年度より筆記試験を二次審査の一部として本格導入しました。

 二次審査は、年度毎に試験実行委員会を置き、認定二次審査実施要項に基づいて行われています。認定審査は卒後5年間の研修が卒後研修目標に沿って行われたかどうかを試験するものですが、研修到達目標は「卒後研修カリキュラム」という形で機関誌57巻1号の巻頭67頁および研修手帳に記載されております。平成18年度も筆記試験の問題は、腫瘍、生殖・内分泌、周産期、および一般の4分野から、各30題ずつ、合計120題程度を問題選定委員会により作成・出題する予定です。なお、一般の問題には社会保険制度に関するものも含まれます。出題範囲は学会が定めた卒後研修カリキュラムに基づいており、出題基準は学会の定める産婦人科専門医として必要とされる知識と技能を習得しているか否かを評価することを目的にこれを定めています。筆記試験を加えた主旨は受験者をふるい落とすためではなく、あくまでも専門医のレベルアップを図り、またそのための研修システムを充実させ、産婦人科医療の水準を高めることによって最終的に国民の福祉に貢献することにあります。本年の筆記試験は、平成18年7月29日(土曜日)に受験者を既定のブロック別に東京と大阪に分け、東京は都市センター、大阪は千里ライフサイエンスセンターの2会場で同時に行うことが予定されています。なお、筆記試験の解答形式はマークシート方式で180分を予定しています。筆記試験の成績は合否判定に使用されますので機関誌の研修コーナーのExerciseおよび平成16年度に本会より発刊された「産婦人科研修の必修知識−2004年版−」を参考に試験に備えて頂きたいと思います。

 面接試験に関しては従来通り筆記試験の翌日の7月30日(日曜日)に同じ東京、大阪の2会場で同時に行う予定です。面接試験では共通症例インタビューに時間をかけ、受験者の技能、態度、知識を評価しますが、研修手帳や症例レポートの記載内容も評価の対象になります。なお、昨年4月に施行された個人情報保護法に則って研修記録や症例レポートの中で患者の生年月日や手術日、カルテNo.等が表に出ないよう申請書類の見直しをしましたので御留意下さい。
 共通症例インタビューは、平成15年度より採り入れられた面接試験法で、日常よく遭遇する症例を受験者に提示し、専門医を標榜する産婦人科医に求められる人間性や見識をロールプレイを通して評価する方法です。例えば、面接試験担当者を患者や家族と想定し、医師役の受験者に疾患の概要や治療方針等について説明させ、治療選択の同意を得るよう努力させる、即ち、インフォームド・コンセントの実施をロールプレイ形式で行い、これを評価する訳です。この方式によれば、知識に加え態度、技能の評価も可能であり、専門医としての総合的な評価が可能となります。なお、共通症例インタビューの評価は2段階で行われ、第1段階総合評価で「良い・普通・悪い」の中で「良い」か「普通」なら合格、「悪い」の場合には、再度第2段階の面接試験を行い、最終総合評価をすることになります。面接試験と筆記試験は独立してそれぞれ別々に評価されますので、いずれかの試験が不合格であれば最終的には不合格ということになります。

 ちなみに昨年、平成17年度の専門医認定二次審査は、7月23日(土曜日)に筆記試験が、24 日(日曜日)に面接試験が東京の都市センターと大阪の千里ライフサイエンスセンターの2会場で行われました。審査申請者359名中欠席者は4名、筆記試験受験者352名中42名が不合格、面接試験受験者324名中第2段階の面接試験に回った者が16名で、そのうち評価会議で保留となった者が2名あり、最終的には専門医制度中央委員会で不合格の判定となりました。 この中には筆記と面接試験の両方共不合格となった者が1名含まれます。従って、全体では不合格者が43名となり、受験者355名に対し合格者は312名で、合格率は87.9%と昨年とほぼ同等の結果になりました。なお、平成16年までの不合格者の中で平成17年度に再申請した者は36名で、うち21名は合格しましたが、15名が残るなど、今後再受験者の中での繰り返し受験者の増加が危倶されております。昨年の筆記試験の内容を分析してみますと、腫瘍、生殖・内分泌、周産期、その他の4分野の平均点では周産期の成績が少し低いことが示されました。また、筆記試験と面接試験の成績の比較から両者は相関していない、即ち、2つの方法で試験をすることはそれなりに意義があることが前回と同様に検証されました。また、筆記試験問題を二次審査終了後に本会学術委員会のメンバーを中心に組織された筆記試験評価委員会により客観的立場からその内容につき評価して頂いたところ、過去2年間に比べ難易度はやや高かったものの、正答率が98%以上と高すぎる問題、或いは10%以下と低すぎる問題で、かつ識別指数が0.1%未満の不適当問題はなく、全体的にはよい試験内容であったとの評を頂きました。

 さて、既にご承知のように平成16年度から卒後臨床研修が必修化され、今年度は愈々後期臨床研修医を迎えることになります。本会では従来、専門医認定審査を受けるには5年間の卒後研修指導施設での研修が必須とされてきましたが、本会専門医制度規約[第3章 専門医の審査と登録]に既に変更・記載されていますように平成16年およびそれ以降に医師免許を取得した場合は、2年間の前期臨床研修の後、研修指導施設で通算3年以上の産婦人科の臨床研修を終了し、少なくとも同期間本会会員であった者であれば認定審査を受けられることになり、前期研修の2年間も従来の年数である5年に含まれることで合意が得られております。今後も産婦人科医の減少が予想されるなか、少しでも多くの方々が産婦人科に入られ、後期研修を経て認定審査を受けられ、専門医の資格を取得することを期待して止みません。