平成18年1月9日放送
  日産婦医会ブロックだより−関東
  日本産婦人科医会関東ブロック会会長 小林 重高


  日本産婦人科医会関東ブロック会会長小林重高です。平成18年の年を迎え、新たな気持ちで産婦人科医療を取り巻く現状をみますと、この数年の間に持ち越されている未解決の問題が山積しています。
 それは
  ・ 保助看法にkんする解釈の問題
  ・ 診療所や病院が分娩をやめたことによる住民の不安
  ・ 全国的に産科を目指す若手医師の減少
  ・ 産科セミオープン病院開設モデル事業の推進と対応
  ・ 子宮がん乳がん検診指針の見直し
 等があります。これらはどれをとっても産婦人科医療の基本的なものであり、国の将来を左右することといっても過言ではありません。しかし、問題も大きく、解決するには日本産婦人科医会と厚生労働省あるいは立法の立場にある方々を入れての場で検討され対応を計らなければなりません。

 この中で「婦人科がん検診の見直し」については、それぞれの支部で自治体との交渉により対応ができるものです。われわれ関東ブロック会は9月に開催された栃木県担当のブロック協議会においてメインテーマとして取り上げ、がん対策担当者連絡会で検討を行いました。
 まず、関東ブロック会内10支部(静岡、神奈川、東京、千葉、茨城、埼玉、栃木、群馬、山梨、長野)の現状についてアンケート調査を実施しましたので、本日はその集計結果についてお話しします。

 現在、各県では市町村の合併が行われている最中であり充分に体制が整わないところも多く、市町村の実情を把握するのに困難であったところや把握しきれなかったところもありました。

 まず子宮頚がん検診についてですが、対象年齢は全部の支部で20歳以上の検診が行われており、特に群馬、埼玉、東京では85%以上の地区で採用されて実施されています。受診間隔については、毎年の実施が、茨城、千葉、山梨で行われていますが、その他の支部では2年毎の検診を採用する地区がほとんどでした。

 次に、子宮体がん検診については、全支部で個別医療機関にて実施されています。特に千葉では全地区で行われており、茨城、山梨でも大部分の地区で実施されています。
 このほかでは、コルポスコープ併用検診は、神奈川のみで行われていました。
 子宮体がん検診の条件については、
  ・ 50歳以上または閉経以後で過去6ヶ月以内に不正性器出血のあった人
  ・ 未妊婦で月経が不規則な人
  ・ その他医師の認める人
 などの条件を満たす場合に体がん検診が行われている支部が大部分でした。その他の条件としては、40歳以上とか希望者などがありました。

 次は乳がん検診についてですが、子宮がん検診と同様の調査方法を行い、回答を得ましたので集計結果に基づいてお話しします。
 関東ブロック内各支部では東京を除き、80から100%の地区でマンモグラフィ(MMG)検査を実施していました。
 検査機関としては、自治体が機器を購入して実施しているところは、埼玉、神奈川、栃木の一部であり、ほとんどの支部・自治体では、「自治体が検査機器を持つ医療機関と契約する」か「自治体が公的な検査機関に依頼している」また一部「自治体が私的検査会社と契約している」ところもありました。
 MMGを受けられる年齢については、全支部のほとんどの地区が40歳以上で一部に20歳及び30歳代でも受けられるところもありました。
 受診間隔については、千葉、山梨、栃木を除く7支部では大部分が2年毎の検診でした。
 MMGと他の検診方法との組み合わせ等については、各自治体で多様な条件で検診を行っていました。それは
  1)視触診の後、40歳以上はMMG、30歳代は超音波検査と分けている地区
  2)一方、視触診とMMG、視触診と超音波検査はドクターの判断により実施しているところ
  3)50歳以上に、MMGと超音波を隔年で実施する地区
  4)視触診は行わず、MMGだけの地区
 もありました。
 産婦人科医も読影体制に参加しているかについては、参加している支部が大半で、千葉で78%、山梨で53%の地区で産婦人科医が活躍しており、また産婦人科医の中で精度管理中央 委員会(精中委)で認めているA,B,Cのランクを取得している人数は神奈川県の41名が断然トップでした。
 読影の際のダブルチェックの仕方については、
  ・ 一人一人別に読影し合わせて診断するところが大部分
  ・ 二人一緒に同時に読影し診断するのが4支部
  ・ 千葉では3人一緒に医師会の読影チームを組んで行う
  ・ 他の検査センター等の機関に委託する
 1回の読影件数については、1回50から100症例の支部が多く、埼玉・千葉・神奈川・山梨では100症例以上の地区がありました。
 読影に支払われる費用については、1日または1回毎に支払われるところと、1症例担架で支払われるところが半々で、1日または1回の場合は10000円から50000円であり、1症例では250円が多く、500円から1000円のところもありました。
 読影医の充実度については、ほとんど全支部で不足していますが、埼玉・神奈川・山梨の一部の地区では 充足しているとの回答がありました。
 乳がん検診における超音波検査については、群馬・神奈川を除く多くの支部で超音波検査が行われており、千葉・山梨では60%、茨城・栃木では98%の地区で実施されていました。
 検診料金については、MMG併用検診は東京一個所の特別区で12700円を上限に茨城・山梨の5000円台と各支部それぞれの料金でした。
 超音波併用検診では、栃木の2900円、埼玉における6600円とMMG併用の約半額でした。

 次に、子宮がん・乳がん検診で問題になった事例についてお話しします。
 ・ 検診後の出血や発熱
 ・ 細胞診偽陰性例についての説明と限界
 ・ 細胞診で標本不良や判定の誤り
 ・ 検診システムが各市町村の間で不統一
 ・ 負担金徴収により権利意識の変化
 ・ 車検診での個人情報漏洩の問題
 などの回答がありました。

 また各支部における子宮がん・乳がん検診の受診率をあげる対策は次の回答がありました。

  • 妊婦検診と子宮頚がん同時検診(茨城)
  • 乳がん検診との同時検診(茨城)(栃木)
  • 受診票を各医療機関の窓口に置く(東京)(山梨)
  • 申込方式でなく検診対象者全員に直接受信票の送付(東京)
  • 各地区担当の保健師に協力してもらい住民に勧める(やまんし)
  • 女性医師を増やす(山梨)
  • 乳がん検診従事者は医師を含め全て女性(東京)
  • 県レベルのテレビや地方新聞でPR(静岡)
  • PR用ポスターの作成、ホームページ等で周知(東京)
  • レディース検診や女性の検診。休日や日曜検診の実施。(栃木)(山梨)(東京)
  • 地方議員への働きかけ(東京)
  • 住民のための講演会、市民公開セミナー開催等

 以上、時間の関係でアンケート回答の一部しか紹介できませんでしたが、「指針見直しによるがん検診事業は」実施期間も短く、今後、改善の余地も充分に考えられます。しかし、まず現在の指針の範囲でよりよい検診の方策を見いださねばなりません。

 受診率の向上について、子宮頚がん検診においては公費受診年齢が20歳に引き下げられていますが各支部で受診者数がきわめて少ないのが現状です。今後、この年齢における受診率の向上を図り、検診が若いうちから週間になれば早期がんの発見につながり、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」の目的に添った結果になります。

 次に乳がん検診については、原則として視触診とMMGの同時実施とされていますが以前でも二次精密検査でMMG検査を受けた人の約1/3位は痛みを感じ、以後の検査を希望しないと訴えています。これを検診に取り入れ全対象者に実施するとなると受診率の低下にもつながり、乳がん検診の存続も危惧されます。アンケートの回答にもありましたが、超音波検査も加え、苦痛のない検診を考慮し、まず問診・視触診のうえ、超音波検査かMMG検査あるいは両者併用とし行うことが乳がん受診率の向上につながると考えます。

 以上、平成17年4月より実施された「子宮がん・乳がん検診の見直し」について関東ブロック・がん対策担当者連絡会の協議についてお話しいたしました。